第13話 留守番

「さて。行ったか」


「あの〜もしかして、雷人コーチの彼女さんで?」


「いいえ。私は仕事仲間ですが、いつもお世話になっていますよね?」


このおかしな挨拶に母親達は爆笑した。



「そんな事ないですよ。助かってますよ」


「そうですか。彼のご家族に伝えておきますね。ではこれで」


早朝。化粧っけのないボサボサ頭の保護者達に挨拶をした光は、今度は太陽電気のエアコン工事に向かっていた。


雷人の仕事を優先したので、光には地獄が待っていた。

その時、ある人物からメールが来たので、彼女はコンビニに車を停めた。



「……なんだ、『目が覚めた』って。今まで寝てたって事?」


そんな彼女は彼の事が本気で心配になったので、『気をつけて帰れ』と送り、車を動かそうした。するとまた連絡が来た。


「ん……これは」


メールでは返事できないので、光は電話をした。そして彼を迎えに行った。



「本当にやる気なの?」


「うん。光さんだけじゃ大変でしょう」


雷人の息子の響はそう言って父の作業着を着て助手席に座った。


「いいんです。これは夏休みの職業体験にするから。それにお婆ちゃんがお爺ちゃんよりも光さんを助けろって」


「本当に?まあ、それは助かるけど」


中学生の響には怪我をさせられないが、今日は手伝いならいいかと彼をお供に彼女は仕事に向かった。


「良い事?私がどんどんダンボールを開けて中身を取り出して作業をするから、響君はこれを畳んで車に積んで欲しいの」


「オッケー。畳めばいんでしょ」


「うん、でもね。一回私がするけど、ちゃんとやらないと全部乗らないからね」


「オッケー」


こんな彼を連れて来た光は、まず新品のエアコンを車から響と下ろした。そしてダンボールを前にした。


「こうやって、足を使って、こう!」


「わかった。こっちのダンボールは僕がやる!」


こうして後始末を少年に託した彼女は、あっとういう間にエアコンを設置した。


「まあ?もう終わったの」


「うん、次に行こうよ」


父親とは違い器用な彼に嬉しくなった光は、どんどん工事先を回ったが、響は一度言われたことは覚えて、光の作業をサポートしていた。


「さあ。お昼にしようね。あそこのうどん屋さんでいい?」


「光さんの行きたいところがいいな」


「ハハハハ。モテるでしょうね、響君は」


そんな二人はテーブルに付き、ざるうどんを注文したが、響は彼女の仕事について詳しく聞いて来た。


「ふーん。フロンガスは環境保護のためにああやって処理するんだ」


「そうね。ちゃんとやらない業者がいるみたいだけど」



他にも質問攻めにあった光は、好奇心旺盛の彼に嬉しくなって楽しく食事を済ませた。



「さあ、行きましょうか、雷人さん」


「ちょっと。僕は響ですけど?」


「ごめん!似てたからつい」


「もう」


こんな二人は午後の工事も仲良く的確に遂行して行った。


「終わったわよ。お疲れ様」


「……疲れた?っていうか、こんなにやるとは思わなかったし」


彼女は普段はこんなにやらないからと彼に頬笑みながら運転していたが、これは彼の父親のために、彼女が苦労しているという意味だった。


「光さん、ごめんね。父さんのために」


「そんな事ないわ?だってね、この夏は雷人さんのおかげでエアコンをつけることができるんだから。私は感謝しているのよ」


「そうなの」


「ええ。私は嘘は言わないわ。本当に感謝しているの」


「本当に?」


「うん、でも今は君だけどね?」


ハハハと笑ったところで、車はカミナリ電気に到着した。すると冴子が夕飯を食べて行けと光を引っ張った。


「だってね。うちの父さんと銀次郎さんで飲みに行ったんだよ」


「光さん、一緒に食べよう」


「では?お言葉に甘えて」



冴子の手料理を囲んだ響と光は楽しく食事をしていった。


「光ちゃん。それ、ドレッシングをかけるんだけど」


「冴子さん。味が付いてるから私はこのままでいいです。美味しいですよ」


「そう?いつもお父さんは味がないって言うんだよ」


「お爺ちゃんに合わせない方がいいよ」


楽しい食事をしている中、今度は響の話になっていた。



「へえ?テストが近くなるとメッセージを送ってくる友達か」


「そう言うお友達は困るじゃないか。親が返信するのかい」


「どうかな。でも返事を返さないと」


光は夜は勉強しないとダメだと親にスマホを取り上げられたから、返事は無理と言えと言った。


「それにね。スマホに夢中になるのは今だけよ。そのうちみんな飽きて、やっぱり顔と顔を合わせる方が楽しいってなるから」


「響、まずスマホはさ。親のせいにしなよ。婆ちゃんでもいいから」


他には自分は部活動をしていないので高校受験の時に備考欄が空欄だと話した。


「そう言う子が他にもいるからさ、まずはテストの点を上げることができることだと思うけど、そうね……ボランティアは?」


「やってるけど」


「規模が小さかったり、活動した証拠がないと先生も書きようがないんだよね、ちょっと待て待て……」


光は検索して、今からできるボランティアを探した。


「お祭り後の清掃。へえ、そういうのがあるんだ」


「夏休みだからあるのよ。他にはね、老人ホームでは随時募集しているよ」


光の知り合いの施設なら紹介できると話した。


「ここなら証明書的なものを出してくれるよ。明日行ってみる?」


「うん。光さんも行ってくれるでしょう?」


「もちろん!っていうか、明日の仕事先だし?」


あははと笑ったところで光の電話が鳴った。



「あ、まただわ」


「どうしたの?」


「君の保護者です。もしもし?」


酔った雷人はなんか喋っていた。


「あのね。酔っ払うには時間が早いんですけど?」


なんかごちゃごちゃ言っているので、ここで冴子が声を作ってふざけた。


「……光?こっち来いよ」


『おい、光、お前どこにいるんだよ?おい』


この父の動揺の声を聞いて、響は腹を抱えて床に転がっていた。しかし冴子は手綱を緩めなかった。


「恥ずかしいのかい?可愛いね?もっと俺に顔を見せてくれよ……」


『光!おい、マジでお前!』


ここでピ!と電話を切った光は、爆笑の二人に向かった。



「ハハハハ。雷人さん。酔うと私に電話してくるんですよ。なんでだろ?」


「なんだい、夜、ちょくちょく電話してるのは、光ちゃんにかい。呆れたね」


「昼間一緒に仕事してるのに」


しかし光の電話はまだしつこく鳴っているので、響は出なくて良いと言い、冴子も交えて三人でくっついた写真を撮り彼は父に送った。



「メッセージは……『なかよくしてまーす』でいいかな」


「響。ハートも付けてちょうだい。」


「それ、本当に送るんですか?」


うんとうなづいた響と冴子は、本当に送信した。



「どうだろ、あ、私にメッセージが来た」


どれどれ、と出ると、そこにはあっかんべーをしている雷人がいた。


「フフフ、大丈夫なんでしょうかね。バレーの試合は」


「お父さんが出るわけじゃないし」


「……さ。解散するか。また明日だね」


こうして冴子は光を帰した。



彼女の帰り道の夜空は、満点の星だった。


明日も多忙なスケジュールであったが、彼女はワクワクしているのだった。



つづく


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