13話:精霊刃
「おやおや……魔王本人だと? これはこれは……冗談にしてもタチが悪い」
ルイナンテとか言う男が俺に向かって、醜悪な笑みを向けた。
「冗談じゃないんだよなあ、これが。つーわけで悪いけど、お前ら倒すわ」
俺は、付けてきた四天王の指輪の内の一つを発動。そして頭の中に浮かぶスキル名を口にした
「――【
俺の左手の薬指についていた、ルクスの魂である光の輪が一本の短杖となった。それは白木で作ったような小さな杖だが、そこから無限とも思えるほどの魔力が流れてきているのを感じる。
「ふん、異教の魔術師が。やりなさいカルマス。我ら【
「もちろんですとも――【
カルマスという男が杖を俺に向けて、魔術を放つ。光り輝く槍が俺へと向かってくるのだが――
「遅え」
【瞬転移】のスキルによって俺は一瞬で倒れている少女の側へと転移。見ている範囲にしか転移出来ないが、その分魔力消費も少なく、使いやすいスキルだ。少女を抱えると、もう一度【瞬転移】を使用。
カルマスという男の背後へと回り込み、俺は片手で短杖を掲げた。
「叩かれる痛み、ちったあお前らも知っとけ――【アース・シェイカー】」
掲げた短杖から土くれで出来たような柄が生え、その先端には大岩で出来た巨大なハンマーが形成された。
「な!?」
驚く顔を見せるも、もう遅い。俺はそれを思いっきり奴らへと叩き付けた。
轟音が鳴り、土煙が上がる。その間に俺は逃げようとするが――。
「異教徒の魔術なぞ我らには効かぬ!!」
見れば、イルナンテとカルマスとかいう奴だけには傷一つ付いていない。
どうやら前衛職のジョブなのか、イルナンテが地面を蹴って加速、あっという間に俺へと肉薄しあの棍棒を振り下ろしていた。
だけど、俺は焦らない。
「ったく……隠れてろって言っただろ」
「っ!! がはっ!」
背後からそれ以上の速度で迫る陣風がイルナンテの両腕を切り裂いた。
その疾風の如き斬撃を放ったのはミウだった。
「ミウも戦う!」
ミウが俺の横に立つ。さっきの動きも悪くない。やはりミウは英雄に間違いないだろう。
「獣人風情が私に傷を付けただとオオオ!?」
怒るイルナンテをよそに、俺は抱えていた少女をそっとミウへと渡した。
「後は任せろ。とりあえず森で集合だ」
「分かった! ルイン、ほどほどにね!」
「分かってるよ」
獣の如き瞬発力で、ミウが少女を抱えて去っていく。
さてと。
目の前で怒り狂うイルナンテ達だが……。
「もしかして、さっきの攻撃で終わりだと思ったか?」
俺がそう言った瞬間に地面が揺れた。
「は?」
イルナンテとカルマスが下を見た瞬間に――地面が爆発した。
爆発と共に勢いよく飛び出した岩柱がイルナンテ達を、倒れている【
「精霊魔術――【アース・シェイカー】は二段構えの魔術だ、覚えとけ。ついでに――【トルネード】」
俺は上空へと舞いあがった【
俺が込めた魔力が切れるまで彼らはあの竜巻に取り込まれたまま、どこかで移動し続けるだろう。まあ死にはしないさ。
「……精霊魔術って便利だな」
ルクスの魂によって得た、スキル【精霊刃】はあらゆる精霊魔術を使えるようになるスキルだった。この杖も、精霊魔術に特化した杖で、発動までの速さや威力精度も申し分ない。更に、魔術を杖に乗せて、まるで武器のように使えるようだ。
なにより魔術なんて使った事ない俺でもここまで使えるほどに、扱いやすい。精霊魔術も属性を組み合わせる事で他にも色々出来そうだ。
「ふう……しかしもうこの村には立ち寄れないな」
向こうから、神官達がこちらに向かって来ている。さて、逃げるか。
視界の片隅で、村人達が、良くやった! と言った感じに小さく頷いているのを見て、俺は満足する。
俺は風の精霊魔術を使って、加速。森へと逃げ込んだミウの後を追った。
☆☆☆
「ミウ!」
俺は、戻ってきたニュートの案内にされ、ミウの下に向かった。そこは大きな木の下で、ミウは少女に膝枕をしていた。
「ルイン! この子、息が弱くなってる!」
「フェア!」
俺の言葉と共にポーチから、蝶の羽を背中に生やした妖精が飛び出した。フェアが少女の上を飛び回ると光の粒のような鱗粉が少女に降りかかった。
すると、少女の傷や顔の腫れがみるみる内に治っていく。
「ふあ……?」
少女が目を開けた。綺麗な緑色の瞳だ。
「だ、大丈夫!?」
ミウが覗き込むと、まだ状況を理解していないか、ぼけーっとした表情で少女が口を開く。
「お姉さん達は……? っ!! やめて! 殴らないで!! 痛いのはいやああ!!」
急に怯え、叫ぶ少女を、ミウがギュッと抱きしめた。
「大丈夫だよ。もう大丈夫」
「嫌!! 助け――て……? あれ?」
ミウが抱きしめた途端、少女が落ち着きを取り戻した。
「もう、大丈夫そうだな。フェア、ありがとう」
「るるー!」
俺がフェアにお礼を言うと、フェアは嬉しそうに俺の周り飛び始めた。それを見た少女が驚きの表情を浮かべた。
「よ、妖精!? 耳のお姉さん以外に妖精を連れている人初めて見た……」
「ん? 耳のお姉さん?」
俺以外にどうやらテイマーがいるようだ。いやそれよりも。
「君、痛いところはもうない? お腹は? 水飲む?」
俺はそう言って、ポーチから携帯食料と水の入った瓶を取り出した。
「っ!! 食べます!!」
少女はどうやらずっと何も口にしていなかったのか、凄い勢いで俺が渡した食料を食べ始めた。ほら、水飲まないと……
「もがもがっ!!」
喉に詰まるぞ……と言いかけ時に、案の定そうなった少女が慌てて水を飲んだ。
「ぷはー! 死ぬかと思いました……」
「落ち着いて食べて大丈夫だぞ。あいつらは俺が追い払ったから」
「お兄さん、見た目と違って強いんですね!」
……こいつ、サラッと俺の事馬鹿にしてないか?
少女が食料を食べ終えると、満足そうな顔をして、ぺこりと頭を下げた。
「助けていただいてありがとうございます。私はアリア、10歳です。特技は薬草採りです」
「俺はルインで、こっちのお姉さんがミウだ」
「ミウだよ!」
「お世話になりました」
アリアは10歳の割には、何となく大人っぽいというか、子供らしくない物言いだ。
「君、嫌なら答えなくて良いが、なぜあいつらに捕まったんだ?」
「えっと……それは……」
「さっき耳のお姉さんって言ったよね? それってエルフの事?」
「あー……えっと……秘密です」
どうやらアリアはまだ俺達の事を信じられないようだ。ま、あんな仕打ちを受けたら、誰だって大人には疑心暗鬼になるだろう。
「秘密なら仕方ないね。家はどこかな? ミウ達が送ってあげる」
「……家はもうないです。私の家はロッタの村から離れた場所で、森の近くなんだけど……燃やされました」
「あいつらのせいか」
「うん。森の中で薬草採りしていたら、森の中で耳のお姉さんが倒れているのを見付けて……助けてあげたら」
「それを見られちゃったんだね……」
秘密というわりには結構喋るな。まあいいけど。
「その耳のお姉さんとやらは、何処に行ったんだ?」
「傷が癒えたからって森に戻りました。あの黒い人達が来たのはそのすぐ後で……」
「なるほど……。俺達はその耳のお姉さんに用があるんだけど、その倒れていた場所ってどこか分かるかい?」
「分かりますけど――
「え?」
そう言って、少女が俺の背後を指差した。
俺がそちらへと振り向いたと同時に――
「死ね!! 愚かなる蛮族よ!!――【ウッド・アロー】」
魔術の矢が俺へと放たれた。
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