11話:四天王、感動する
「みんな……よく聞いてくれ」
「はっ!」
「勇者を捜すのは構わない。だが見付かった際の、勇者との接触は俺自ら行うし、それまでは俺以外の者による一切の干渉を禁止する」
勇者が生まれる前に殺すとか外道すぎる作戦は無し! お前ら本気過ぎて怖いよ!
「かしこまりました」
「だが、我が愛しの君よ、勇者は危険な存在だ。見付け次第、魔王軍の全戦力で居場所ごと消し炭にするのが得策かと思うが……」
ゼテアが、おずおずとそう進言してきた。俺も、もし魔王を本気でやって、世界を征服する気ならそうする。でも、俺にはそんな気はない。
「ダメだ。勇者とは基本的には敵対しない方向性で俺はいきたいんだ」
そしてミウの口添えで、俺を倒すのは勘弁して欲しいとお願いしたいからね。
「――なるほど。そういう事ですか。やれやれ……やはり吾輩の知能程度ではマスターには敵いませんな」
「ふふふ……私は気付いていたわよ? だってもし勇者を殺す気ならとっくにそう命令していたはず。それをせずに、まずはこの城の厨房と、自給自足できるようにと食料調達を優先させた。クロムウェルも知っている通り、あの【
「我にはさっぱり分からん……」
ああ、なぜだろう。俺はゼテアに妙に親近感が湧く。きっと俺の気持ちを代弁してくれているからだろうな。
うん。こいつらが何を言っているかさっぱり分からん!!
「――僕も分かったよ。なるほどなるほど……じゃあ僕は
なんかまた壮大な勘違いをしているようだから、俺は宣言しておく事にした。
「良いか。俺は、みんなが知っている魔王とは違う。世界征服なんてする気なんてないし、侵略だとかもする気もない。だから勇者とは敵対せず和平を結ぼうと思う。他の国を刺激しないようなこの場所に城を作るのを良しとした理由がそれだ」
まあ、結果論だけどね……。
「みんなが、かつての魔王の雪辱を果たしたい気持ちは分かるが……。俺はみんなのかつての主人ではないんだ。だから同じ物差しで測られると、ちょっと困る」
俺がそういうと、みんなが押し黙った。
言い過ぎたかな? と思っていると。
クロムウェルが身体を震わせていた。やべっ!? 怒らせちゃった!?
「――ああ……吾輩は……吾輩は感動に震えております……マスター……いやルイン様に、吾輩はどこかかつての魔王を重ねて見ておりました」
泣きそうな声でクロムウェルがそんな事言いだした。ええ……。いや怒られるよりは良いけどさ。
「ええ。でもそれは間違いだったわ。だって主様――いえルイン様は……それ以上の存在よ」
なんでそうなるんだ。俺はまだ何もしてないぞ……。
「我は反省している。そして誓おう、二度と過去を振り返らないと。我はずっと考えていたのだ。なぜ我々は負けたのか。ずっと勝っていたはずなのに……負けた。だから今度こそ……今度こそ勝つと。そう息巻いていた。だが、我が愛しの君――ルイン様は違うと言う。ならば――我は過去を捨て、ルイン様と共に前を、未来を見据えよう」
ゼテアがそう言って、翼を広げた。いや、過去を捨てる必要はないんだけど……まあなんか分かってくれたみたいで助かった。
「僕は、最初からそのつもりだったよ? だから旦那様――いやルインに僕はついていくよ!」
ルクスがそう言って、俺の肩に座った。
「やっぱりルインは凄いね! みんな感動してる!」
ミウがニコニコとその様子を見つめていた。そんな凄い事を言った覚えはないんだけどなあ……。
「では、ルイン様。勇者を捜すのは我々にお任せください。各地に密偵を放っておりますので、それで何か分かり次第ルイン様にご報告し、直接の接触はルイン様にお任せします。その間ですが……ルイン様はどうされますか?」
「ああ、俺も地上に降りてミウと一緒に捜してみるよ。ただ、当てずっぽうに行っても無駄足になるだろうしなあ」
「そう言うかと思って、実は僕に一つ思い当たるところがあるんだ!」
「ん? ルクス、そこはどこだ?」
俺の肩から離れたルクスの玉座の前で僕へと笑顔を向けた。
「それは――【ルエッダ大森林】だよ!」
「なるほど……そういうことね」
レーヴェが分かったとばかりに頷いた。クロムウェルも流石ですね、みたいな顔をしている。分かっていないのは俺とゼテアだけだ。あ、ミウはどうだろう。ニコニコしてるけど。
えっと、確か【ルエッダ大森林】って……この大陸の西部に広がる森林地帯で、今も未開の土地と言われている場所なはずだ。かつてはその大森林の外縁にはエルフの里があったのだけど、ミレネシウス教団と王国による侵略によって焼き払われてしまった。生き残ったエルフ達は大森林の奥深くへと逃げ込んだらしい。
「ルイン様。エルフの信仰する神は、そこにいるルクスです。そしてルクスが流した……妖精の神が降臨したという噂。これによってミレネシウス神の降臨が通常とは違う形で行われたと仮定すると……もしかしたら神の化身はそちらに引っ張られたのかもしれない……という推測ですね」
クロムウェルが言うには、つまり、ルクスのせいでねじ曲がった神の降臨が、エルフ達の近くで行われているかもしれないということだ。妖精が降臨したという噂が信仰によって真実になってしまった。という事を仮定したのなら、確かに筋は通る。
もし神の化身がエルフ達の近くで降臨してしまったのなら……その化身を見付けさえすれば、きっと勇者へと導いてくれるに違いない。
「つまり、【ルエッダ大森林】に降臨したかもしれない神の化身を捜す……ってことだな」
「その通り! 流石ルインだね。エルフ達と接触して情報収集すると良いと思う!」
ルクスが嬉しそうに俺の周りを飛び回った。
「うっしじゃあ、ミウ、行くか! みんなはどうする? と言っても全員連れて行くのはやっぱり目立つか」
「その指輪があれば一心同体。吾輩らは色々と準備が有りますのでそちらに従事しましょう。それぞれから一体ずつ部下をルイン様の護衛としてついて行かせます」
クロムウェルがそう言うならそれで良いのだろう。
「よし、じゃあ準備したら行くか。ミウもそれで良いか?」
「もちろん! ミウも頑張るよ!」
「おう!」
こうして俺とミウは【ルエッダ大森林】へ、神の化身を捜しに行く事になった。
☆☆☆
ルインとミウが転移魔術でいなくなり、空となった玉座の前で、クロムウェルとレーヴェが会話をしていた。
「ふふふ、ルイン様、意気揚々と行かれたわね。そういえば、クロムウェル」
「なんだいレーヴェ」
四天王の中でも頭脳労働担当であるクロムウェルとレーヴェ。二人の思考の速さ、深さは人間のそれを超えている。ただ、魔王に関する事となると少々暴走しがちなのが玉に瑕なのだが……勿論本人達はそれに気付いていない。
「ルイン様に言わなくても良かったの? 【ルエッダ大森林】のエルフ達が、
「フッ……何を言うかと思えば。そんな事は言うまでもなくルイン様は承知だよ。だからこそ、侵略ではなく和平を、と仰ったのだから」
呆れたような顔で答えるクロムウェル。
「それもそうね。英雄や勇者は……戦いの中で目覚める者が多い……
「さて、そこまで上手くいくのやら。では吾輩はその時の為にゼテアと軍の編成と指揮について打ち合わせをするとしよう。レーヴェはルクスと例の島の用意をするのだろ?」
「ええ。ふふふ、ルイン様のご活躍が楽しみだわ!」
「ああ。あの御方は……これまでの魔王とは全く違う。ゆえに今度こそ勝利されるだろう。だから吾輩らは精一杯サポートするだけだ」
「勿論よ、それじゃあ、また」
そして玉座の間から全ての気配が消えた。
だが彼らはまだ気付いていない。
本来なら魔王の、いや魔族全てにとって、不倶戴天の敵である勇者と、例え魔王からの絶対的な命令であろうと、和平を結ぶなどという世迷い言に、過去の彼らなら首を横には振らないにせよ、決して歓迎しないはずだというを。
それに気付く事になるのは――もう少し後のことだ。
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