10話:四天王、勇者を探したい
【
「これが……マスターの為に研究に研究を重ね、更に最新魔科学を駆使した設備を全て揃えた……まさに【至高のキッチン】!」
クロムウェルがめちゃくちゃ早口で嬉しそうにまくしてている。
俺とミウがベールで一日を過ごし、城に戻った時には既に厨房は出来ていた。
「吾輩が全責任を持って、最高のキッチンを作り上げました……きっとマスターも満足されること間違いないかと」
「おお……凄い」
クロムウェルが自信を持つのも仕方ない。
そこは確かに素晴らしい厨房だった。調理器具や、調味料、スパイス類なんかも全て揃っているし、一人で使うには少し広過ぎるが、まあ問題はないだろう。いざとなればミウにも手伝ってもらうしね。更に魔科学という聞き慣れない単語が駆使されているらしいオーブンや、魔力で常に中を冷やしている食料庫など、十分すぎるの設備だ。
「これなら思う存分腕を振るえそうだな。ありがとうな、クロムウェル。最高の厨房だよ」
「お褒めの言葉をいただき恐縮です」
そう言って、クロムウェルは少しだけ口角を上げて、綺麗なお辞儀をした。
「ルインの料理楽しみ!」
ミウが笑顔を向けてくる。うーん可愛いなあ。
「任せとけ! んで、食料はどうするんだ?」
俺がそう言うと、どこからともなく、ルクスが現れた。
「僕が食料担当だよ! さあ外に出よう!」
ルクスの転移魔術によって俺とミウは一瞬で城の外へと転移した。
城のある中央島の隣にある比較的大きな島。そこには、畑と果樹園らしきものができていた。
「【
見れば、小人のような精霊――【
「おおー、自然の権化たる精霊の力があれば余裕だな」
「もちろんだよー。魔力でいきなり作っても良いけど……魔力効率は悪いし、何よりあまり美味しくないからね。やっぱりこうやって一から作る方が良い物はできる。ここは野菜畑。向こうは果樹園。あとは稲と麦も栽培予定だよ!」
うんうん。俺も田舎では農作業に従事していた事があるから分かる。汗水垂らして作る物が一番美味いんだ。まあ、ここに関しては、俺にやれることはなさそうだが……。
「ルクスちゃんすごい!」
「……まあね」
ミウの言葉を受けても、なぜかあまり嬉しそうじゃないルクス。なぜかルクスとレーヴェはミウに対して一定の距離を保っている。別に仲良くしろなんて言うつもりはないが、ミウは誰に対しても明るいし優しい。なのになぜか二人はミウを疎んでいるように見えた。
「あー、ルクス。俺もここでの作業手伝って良いか? 畑仕事って結構好きなんだよ」
田舎に帰って、のんびり畑でも耕す。そういう暮らしをしたいとは確かに思った。ちょっと形は違うが、まあこれも悪くないだろう。もう冒険者やるのはまっぴらごめんだ。
「ふふふ、もはや【
「ありがとう、ルクス。素晴らしい仕事だよ」
「えへへ~」
嬉しそうにルクスが飛び回った。その様子だけを見ると、可愛らしい妖精にしか見えないのだけどね。中身は邪神だ。
「肉類については、ゼテアの部下達が狩猟してくるって話だよ。クロムウェルが、肉が美味な魔物を家畜化させて品種改良をどうのって言ってたけど、まあまだ先の話だね」
「すげえな……この島で自給自足できそうな勢いだ」
「この先、僕達みたいに食料が必要ない住民ばかりとは限らないからね。きっと住人も増えるだろうし、それを見越しての事だよ。厨房が広いのその為だね」
「住人が増える?」
「ん? クロムウェルがそんな事言っていたよ? 国民のいない国なぞ滑稽だって。あはは、まるで王様みたいな物言いだったよ。まあとにかく、土地は結構あるからねえ」
確かに土地は結構ある。俺は周囲を見渡すと、城のある中央島以外の島も結構大きい島は多い。全部合わせたら、ちょっとした面積にはなるだろう。とはいえ、やはり国と呼ぶには少々狭すぎるけど。
「まあ、いざとなったら、島と島の間を埋めて土地にすればいいよ。そこまでする必要は今のところないけどね」
「なるほどな」
んー。住民が増えたら、当然、俺が王? になるんだろうけど……。治世って、スローライフに入るのか?
「ルインはきっと良い王様になるよ!」
「そうだな。でも、当面、俺がすべき事は――
と俺が言った瞬間に、ルクスが、驚いたような顔をした。
「な、なんでそれを知っているの!?」
「へ? 知っている?」
「――とりあえず玉座に戻ろう。みんな集めてそこで話す方が早いかも」
そう言って、ルクスが転移魔術を再び使うと、俺は一瞬で玉座の広間に移動しており、玉座に座っていた。姿勢まで変えるとは芸が細かい。
「――四天はすぐに王の下へ集合せよ」
ルクスが珍しく真面目な声を出した瞬間、広間に四天王がすぐに集まった。どうやら全員が転移魔術を使えるようだ。便利だな。
「マスター、お呼びでしょうか?」
「いよいよ侵攻か。我と我の軍勢はいつでも征けるぞ」
「ゼテア、焦らないの。きっと主様には何かお考えがあるのよ」
三者三様の言葉に俺が頷くと、ルクスが口を開いた。
「旦那様から、次の命が我々に下った。それは――
え? いや命令とかじゃなくて……俺がミウの勇者捜しを手伝うって話なんだが……。
「――ルクス、話したのですか?」
クロムウェルの言葉に、ルクスが首を横に振って否定した。
「まさか。旦那様自ら発せられた言葉だよ」
「はあ……流石は主様。やはり、全てを見据えていらっしゃる」
「ぐぬぬ……いきなり侵攻を提案した先ほどの我を殴ってやりたい。なんと浅はかだったか」
なぜかしょげているゼテア。いや、確かにいきなり侵攻とか絶対にダメだけどな!
とりあえず俺は説明することにした。
「えっとだな。魔王……つまり俺が覚醒したってことは当然、勇者もどこかで生まれているはずだろ?」
「その通りでございます。【勇者】も特定の誰かを指す言葉ではなく、マスターの持つ【魔王】と同様に、【可能性の器】なのです。そしてその力の覚醒条件は魔王の覚醒と神の降臨。この二つが起きて初めて勇者は現れる――いわば、魔王を打ち倒すべく生まれた神の先兵」
「つまりどこかの誰かが、今頃、勇者として覚醒しているってことだ」
羨ましい奴だ。
「まだ、自覚していない可能性もあるわ。とはいえ、神が降臨した以上は時間の問題でしょうけど」
レーヴェの言葉に俺は頷きつつ、疑問を口にする。
「それなんだけどさ、あの噂って言うなればルクスの自作自演だろ? その神とやらは本当に降臨してるのか? それとも、実はルクスがその神だとか?」
「そもそも、僕は精霊神だとか呼ばれているけど、実際は精霊を束ねているだけで、厳密にいえば魔物なんだよ。エルフ達が信仰してくれているおかげで、神としての属性も付与されてはいるけど……ここでいう【神】とは違うんだ」
「その神ってのはなんなんだ? そりゃあいくつか宗教があるのは知ってるが……」
「この場合における神とは、おそらくミレネシウス神のことでしょうな」
ミレネシウス神といえば、ミレネシウス教が信奉する唯一神であり、この世界を創造した存在だそうだ。ああ、そういえば勇者の伝承は、ミレネシウス教の聖書が元になっているって聞いた事があるな。
「つまり、そのミレネシウス神が降臨していると」
「吾輩が各地に放った密偵によると、ここ数日ミレネシウス教団の動きが活発になっています。おそらくは、勇者を探しているのと同時に、
「邪魔はしたんだけどねえ」
ルクスがそうぼやいた。
「邪魔?」
「僕がやったこと覚えている? 魔王の目覚めと神の降臨の噂」
「ああ。それが?」
「あの時に、わざと、どんな神が降臨したかをあえて具体的にしたんだよ。降臨したのは――【妖精】だってね」
「つまりですね、マスター。人々は、妖精のような神が降臨したという噂を広めてしまったです。当然、ミレネシウス神は妖精ではない。信仰という物は怖いものでして……一度そういう信仰が広まってしまうと……中々それを修正することは出来ないのです。つまりルクスはあえて、ミレネシウス神とは違う姿で降臨したと刷り込む事によって、それを真実としたのです」
えーっと。どういうことだ?
「みんなは、妖精……つまりルクスちゃんが降臨したーって信じたから、それが本当になってしまって……妖精でないミレネシウス神は降臨できなくなった……ってこと?」
ミウがそう言うと、全員が押し黙った。
お、俺もそれぐらいはわかっていたよ!
「その通りだよ。僕が降臨したということにして、ミレネシウス神の降臨を阻害した。だけど、どうだろうなあ。実際に効果があったかはまだ分からない」
「いずれにせよ、通常とは違う形でミレネシウス神は降臨したのかもしれない。そう思い、吾輩は密偵を放ったのです。結果としてミレネシウス教団は、勇者と化身を捜索している事が分かりました」
密偵ね。全くクロムウェルは抜け目がないなあ……。
「で、その化身ってのは?」
「神の化身。ミレネシウスの現し身。神は勇者や魔王と違い、【可能性の器】ではありません。彼、もしくは彼女は、降臨の際に、人の姿になります。そして勇者の器を持つ者を、勇者へと覚醒させるのです」
「なるほど。つまり、その化身が勇者……勇者候補か、そいつと出会って初めて勇者は覚醒する」
「その通りよ、主様。前回の勇者も、神の化身と名乗る巫女と出会ったことで覚醒。そして次々と生まれる英雄達と共に、我々魔王軍へと挑んだ。そして――あとは主様が知っている通りよ」
レーヴェの言葉に俺は何度も読んだ英雄譚のラストを思い出す。
魔王は勇者に負け、四天王は封印され、世に平和は戻った。
「おそらく、勇者はまだ現れていません。化身もまだ見付かっていないでしょう。ゆえに吾輩らで先に勇者を見付けて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます