6話:四天王、痛恨のミスをする
玉座に座り、配下を見下ろす。
その行為はなんというか、妙に心地良かった。肌がぞわぞわするような感覚。
なるほど、王というものはこういう景色を見ているんだ、と実感できる。だからこそ俺は少しだけ危惧する。これはまずいかもしれない。なんだかこの光景は――癖になりそうだ、と。
慌てて横を見ると、ミウは側に立っており、ニコニコとしていた。それをレーヴェがジッと観察している。
「さて、マスター。まずは居城が完成しました」
「うん、ありがとうなみんな」
一応、俺のためにやってくれたことだから、お礼は言わないとな。本当はもっと小さな家でも良かったんだが……。
「次に、決めていただきたいの物がございます」
「決める? 俺が?」
「はい。この城の名前でございます」
「それ、俺が決めるの……?」
俺がそう言うと、クロムウェルもレーヴェもルクスも皆頷いた。背後でゼテアが頷いているのが分かる。
「ルインが城主だもんね! かっこいい名前付けちゃおうよ!」
ミウが嬉しそうにはしゃぐ。
「んー、でも俺、城に名前なんて付けた事ないんだけど」
「主様が付けた物が至高の名前となるので、どんな物でも構わないのよ?」
レーヴェが四天王を代表してか、そう言ったっきり、皆が黙った。
いやいや、こんな凄い城に名前を付けるなんて……荷が重すぎる。
「このお城は誰が建てたの?」
ミウが無邪気にそんな事を聞いてきたので、俺は答えた。
「彼らだよ。四天王と呼ばれる俺の……友達だ」
「良い友達だね!」
笑顔でそう言うミウを見て、俺は閃いた。
「そうか……四天王のみんなが建てた城だから……四天王城……いや、【
それは、俺の故郷に伝わる伝説に出てくる城の名前だ。四人の騎士が王の為に建てたという、四重の城壁に守られた不落の城。
「【
ミウが喜んでくれていた。
恐る恐る四天王達の様子を窺う。
「ふぅ……素晴らしい。吾輩が考えていた【スケリトル・デッドルイン・キャッスル】などゴミのようだ」
俺の名前入れるのはやめろ! しかもさりげなく殺してるんじゃねえよ!
「我が愛しの君はやはりセンスが飛び抜けているな。だが、【ストロングドラルイン城】も悪くないと考えていた」
自己主張激しいよ! だから俺の名前を入れるのはやめろって……。
「……【地獄煉獄大魔界殿】というのも一応候補としてあげようと思っていたけど……」
響きが怖い!
「僕は何も思い付かなかった~」
ルクスは相変わらずマイペースでした。
「じゃあ……【
一応聞いておく。いや、もし他が良いって言われても困るけど。
「勿論ですとも。流石はマスター、素晴らしい発想力」
「お、おう。ありがとう」
「それでは今後の方針についてですが……」
クロムウェルが話を進めようとした瞬間に、きゅるる~というお腹の鳴る音が響いた。
「ご、ごめんなさい!」
大事な話の途中で何を……という視線を受けるミウが赤面しながら、ペコペコと頭を何度も下げた。
あー、そういえば俺もお腹空いたな。あの大穴からここまで転移魔術で一気に移動したきたせいで、結局あれから何も食べていない。
「今のは俺の腹の音だよ。そういえば、腹が減ったな」
と俺がミウが庇ったら――
「……はっ!? なんたる不覚!! そういえばマスターはまだ人間であられた!!」
クロムウェルが目に止まらぬ速度で俺の前へとひれ伏した。え!? 何!?
「これは我ら全員、一度首を差し出すしかあるまい……これは……四天王にあるまじき失態だ」
後ろからゼテアの首が伸びてきて、俺の前に申し訳なさそうな顔を見せてきた。
「私達や配下の魔物は体内の魔力循環だけで済むから……失念していたはね……愚かすぎるわ……」
レーヴェがため息をつきつつ、憂いの表情を浮かべた顔を手で隠し、頭を下げた。
「あはは~、
ルクスの言葉に、俺はそんな馬鹿なと思いつつも仕方ないと思った。どうやら魔王とは本来、食事を必要としないようだ。
「あ、いや、なんかすまん。でも、ここに住むからには飯もいるし、睡眠も必要だ」
このノリで行くと、ベッドルームさえなさそうだ。
「いえ、寝室は当然用意しておりますが……しかしこれは吾輩らの落ち度ですな……魔王の最初期は食事が必要だと言う事をすっかり失念しておりました。こうして我々と接していれば徐々に魔力が蓄積され、いずれは必要なくなるのですが……」
「いや、そんなに落ち込むなって。ほら、このお城を建てたみたいに、後から付け足したらいいし。料理は俺がある程度作れるから、設備と食材さえあれば何とかなるよ」
いや、というか、今サラッと、魔王の最初期とか、魔力が蓄積されるとか言っていたな。何ソレ怖い。
「ですが……それでは私達があまりにも……やはり一度建て直しを! 今度こそ完璧な城を。そして調理に関しても――」
レーヴェがそう言葉を続けようとするが、俺は首を横に振った。ここで引き下がると、どっかの有名な料理人を厨房ごと掠ってきそうだもん、こいつら。
「俺はこう見えても料理が得意だし、作るのが趣味なんだ」
ベイグの下で、散々やらされた雑用の中には、料理も含まれていた。かなり味にはうるさいメンバーだったが、野営するときに俺が出す料理にはなぜか文句は言わなかった。
そんな事を思い出しながら俺は言葉を続けた。
「だから、設備と食材だけ用意して欲しい。それに食事が必要なのは、今のところ、俺とミウだけだろ? だったら自分で作った方が早い。だから俺がやる。良いな?」
俺がそう言うと、全員が頭を下げて、声を揃えた。
「「「「御意」」」」
というわけで、俺達――後に【魔王軍】と呼ばれる――はこうして結成され、今後はこの城を拠点に動く事になるのだが……
「埒が明かないな……よし、ミウ、下に降りるぞ」
結果として、俺とミウは早々とこの城から一旦、下に広がる大地の上にある街へと移動する事になる。
その街の名は、鉱山都市ベール。
そこで、俺は思わぬ再会を果たすのだった。
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