4話:四天王、国を作りたい


「ジョブ?」


 いや、待って欲しい。ジョブっていうのは、例えば俺の【テイマー】とか、ラーズの【賢者】といったような、自分の素質や適性を表すものだ。冒険者なら、皆がどれかのジョブ適性を持っており、そのジョブのスキルだったりを駆使して戦うのだが……。


「つまり、主様は魔王のジョブを持っているという事よ。それは……主様がこの時代における魔王である何よりの証拠」

「いやでも、レーヴェ。俺はテイマーの適性しかないと言われたんだ。だけど、スライムやゴブリンすらも使役出来なかった。だから……魔王なんてありえない」


 俺の言葉を聞いて、思案げな顔をしていたクロムウェルが口を開いた。


「ふむ……魔王とは……魔物を束ね、使役する存在であるがゆえに……魔物を従えて戦うというテイマーだと、誤解されても無理はないのかもしれませんな。更に、スライムやゴブリンといった魔物は寿命が短いゆえに世代交代が早く、もうかつての魔王の影響が薄れてしまっているのでしょう。強い魔物ほど寿命が長いので……そういった魔物であれば魔王の力でテイムできましょう。そう……我々のように」


 そう言って、クロムウェルがまたお辞儀をする。


 そう言われてみれば、そんな気がしてきたけど……。確かに、俺はスライムとゴブリン以外の魔物にテイムを試した事がない。ベイグが、その二体を出来ない限り他の魔物も無理だと言っていたからだ。


 ベイグはテイマーについての知識がない癖に、そこだけはいやに断定的だった。となればそれを吹き込んだ人物がいると考えて自然だろう。


 まあ、どうせラーズだろうな。


「こうして実際に我らを使役できているのだ。それで良いではないか、我が愛しの君よ。……魔王自身が生け贄になるのは、流石にこれが初めてだが……」


 ゼテアの言葉に、俺は乾いた笑いを返すしかない。何ともマヌケな魔王だ。


「でも人間共も命拾いしたわね。もし、最後の生け贄が主様でなければ、私達は主無きまま復活していたでしょうね。そうなっていれば……」


 レーヴェがそんな事を言った瞬間に――殺気がその場に渦巻いた。


「吾輩達は真っ先に――。あのラーズとかいう男は何も分かっていない。封印を解いたところで、魔王の資格なき者に無条件に頭を垂れるほど吾輩らの頭は――軽くない」

「いやいや、なんで!? 仲間なんでしょ!?」


 俺が慌ててそう言うと、殺気が嘘のように消えた。彼らが本気で殺し合ったら、この周囲一帯どころか、大陸がヤバイ事になりそうだ。


「我らがこうして平穏でいられるのは……魔王のおかげ。我らという劇物は魔王という名の下にあるからこそ、今のように四天王でいられるのだ。もし我が愛しの君がいなければ、我らはこの時代における魔王が見付かるまでは、自由であり、そうなれば当然、殺し合うのは必然――そうすれば魔王の寵愛を一身に受けられるからな」


 ゼテアだけではなく、全員が当然とばかりの顔をしているの。


 つまり……これ、俺がいなかったらかなりヤバイ事になっていたんじゃ?


 いまだに俺が魔王……という事実は受け止められない。だけど、少なくとも俺が持たされた手綱の先には……暴れさせるとまずい魔物が四体も繋がっている。


 いや、そりゃあ死ぬよりはマシだけどさ。


 冒険者になって名を上げ、勇者のようになる……という俺の夢は、ガラガラと音を立てて崩れていったのだった。やっぱり田舎に帰ってスローライフが一番だな。


 番犬……にしては少々物騒な奴らが付いてきそうだが。


「とりあえずさ、俺は魔王なんて相応しくないよ」


 と俺が言うと、全員が目を見開いた。〝いやいや、そんな事はないです!〟とか言い出すのかと思いきや――


「ふっ、流石はマスター。魔王如きで満足はしないという高い目標を持っていたとは……」

「確かに私達は魔王なんていう小さな概念に囚われすぎていたわね……。仰る通り、主様は魔王なんていう器に収まらない傑物……」

「うむ。もうあれから数百年は経ったのだ……我らも価値観をこの時代に合わせないといけないようだな」


 四天王達が、やっぱり今回の主は違うぜ! とばかりに感心している。

 

 ……だめだこりゃ。俺はため息をつきつつ声を出す。


「とにかくさ、そんな感じだから、拠点とか言われても困るんだよ。今はラセンの街の宿屋を拠点にしているけど……。ベイグ達もいるしね」


 流石に彼らを連れて街に入ったらまずいだろうしなあ……特にゼテアは目立つし。いや、よく考えなくても全員目立つ。


「どこか、気になる城や国があれば奪いますが?」


 クロムウェルが、まるでちょっとそこまでお使いに行きますよ、みたいな感覚でそんな事を言い出した。


「いやいや、いきなり奪うとかは駄目だって」

「それはつまり、既存の物ではなく――新たに城……いや国を作るという事ですな!」


 クロムウェルが、それはそれは嬉しそうに笑った。そんな事言っていない!!


「なるほど! 確かに拠点や国が誰かの使い古しというのは少々、格が落ちるな。ならば我が愛しの君に相応しい城を、国を我らで作り上げようではないか!」

「ふふふ……主様のお考えは


 いや、そもそも最初の考えとやらもないからね! 国を作るとか言っちゃってるよこいつら。


「なるほど……そういうことかレーヴェ」

「分かったようねクロムウェル」

「どういうことだ? 我にも教えろ。我だけ何も分かっていないみたいではないか」


 ゼテアがそう、したり顔のレーヴェとクロムウェルへと聞き返す。大丈夫だよ、ゼテア。俺にもさっぱり分からん。


「それはまたマスターの口から語られるだろうさ。まずは、やはり拠点となる城だ。どの国にも攻めやすい立地を……」

「あ、いや、そんないきなり攻めるとかしないからね! それに住む場所の為に他の国の土地を奪うとかも無し!」


 俺は、放っておくと碌な事をしなそうな彼らに釘を刺しておく。いや、ほんとにそんな古の魔王みたいな動きされたら困るぞ。もう俺は田舎に引っ込んでのんびり暮らしたいんだ。


 畑を耕して、可愛いお嫁さんもらって、俺はスローライフを満喫するんだ……。


「……っ! 分かったぞ! 我は、我が愛しの君が言わんとしてる事に最適な場所を知っている!」

「え?」

「ほお……それは何処でしょうか?」


 クロムウェルの言葉に、ゼテアが翼を広げ、高らかに答えたのだった。


「誰が所有しているわけでもない領土、かつ他の国の脅威となり、そして魔王の居城に相応しい立地……そんな場所は一つしかない。それは――」

「それは?」

「――【レギエ】だ」

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