3話:四天王、賢者を三度殺す
ゼテアの大爪が轟音を上げながらラーズを、立っていた崖ごと削り取り、爆発。崖が一気に超高温まで熱せられ、ドロドロに融解していく。
当然、ラーズはミンチになって、大地と混ざっただろう。一瞬で灼熱の大地へと変わったところへ、クロムウェルがまるで指揮者のように手を振った。
「――【
次の瞬間に、赤く燃える大地の上に、ラーズが復活した。
「へ? アアアアア!! 熱い!! 痛いぃぃ!!!」
マグマの上に立たされたラーズの足が燃え、焦げていく。
「貴方もナイフ投げの的になってみると良いわ。まあ、ナイフではないのだけど――【妖狐術四式:火捻り】」
レーヴェの尻尾の内の一本が逆立ち、空中に捻れた棘のような物が何本も出現した。それらが一斉に放たれて、ラーズの身体へと突き刺さっていく。
「ひぎゃあああ!! た、助けてくれ!!」
ねじくれた棘が深く刺さり、さらに赤く発光。高熱を帯びているのか、ラーズの身体が刺さった部分から焼けていく。
そのままラーズはマグマの大地へと倒れ、発火。しばらく悶え苦しみ、そして動かなくなった。
「……まだまだ――【
「ぎゃああ!? 俺死んだ!? いや死んでな……痛えええええ」
復活したラーズが、今度は突如背後から出現したスケルトンに身体を掴まれた。そのスケルトンの足下から更にスケルトンが現れ、それが何度も繰り返されるうちにラーズは、スケルトンで出来た柱に磔にされていた。
その背中には、スケルトン達の手が深く刺さり、徐々にその骨の柱が赤く染まっていく。見れば、刺さった手がラーズの身体の中で蠢き、ラーズの骨を一本ずつ丁寧にゆっくりと抜いていた。
「痛いぃぃ!! 助けてくれ!! る、ルイン!! 助――」
ラーズが俺へと手を伸ばそうとした瞬間に、その頭に骨で出来た剣が突き刺さり絶命。その剣はクロムウェルが放った物だ。
「よりにもよってマスターに命乞いするとはな……恥を知れ!!――【
冷えて固まったマグマの上に落ちたラーズが涙とよだれを垂らしながら、助けを乞うた。
「助けてくれ……俺は悪くない……悪くない」
俺は何かをしようとするルクスへと目線を送り、首を横に振った。もう十分だろう。ルクスが拗ねたような顔をしているが、ちゃんと俺の言う事を聞いてくれた。
「ラーズ。あんたの思惑は知らないけど、俺が生け贄になったことによって、こいつらは復活した。そしてなぜか俺に忠誠を誓っているんだ」
「なぜだ……なぜお前で……俺じゃないんだ。俺は伝承通りに……儀式を」
「分からない。けど、俺のテイムが効いた」
本当にそうなのか、実際のところ分からない。なんせテイムが出来た経験がないんだ。比べようがない。
「ありえない……スライムすらテイム出来ないお前がなぜ、こんな伝説級の魔物を!」
「いずれにせよ、俺はもうあんた達と関わる気はない。だから、ここで起きた事は全て忘れて去るんだ。ベイグ達にも絶対に言うな。俺はもう……死んだ事にしてくれ」
もう、ベイグ達とも会うこともないだろう。俺はもう冒険者なんてこりごりだった。田舎に帰って、畑でも耕してスローライフでも送ろう。そんな事を考えていた。
「分かった。絶対に喋らない……だから命だけは……」
涙を流しながらラーズが俺の手を握ろうとしてくる。
「分かった。あと帰ったら、これまで行った悪事を全部白状するんだ。罪は償える。それがお前に出来る唯一の善行だ」
俺も直接は関わっていないとはいえ、同じパーティメンバーだ。何かしらの罪に問われるだろうが甘んじて受けるつもりだ。
俺の誠意が伝わったのか、
「ああ……勿論だとも……ありがとう……ありがとう」
そう言って何度も手を握り返すラーズは、やがて立ち上がり、ふらふらと去っていった。
「我が愛しの君は優しすぎる。慈悲の心は時に必要だが……あやつはどうしようもないクズだぞ」
ゼテアはそう言って、俺の横へと降り立った。不満げではあるが、別に俺を糾弾しているわけでもなさそうだ。
「良いんだよ。きっと反省してくれるさ。
俺がそう言うと、レーヴェが、ニヤリと笑った。
「なるほど。そういうことね」
「くくく……マスターにはやはり勝てませんね。そこまでを読んでの、慈悲だとは。人の心の機微を良く分かっている」
「なんと……我はまだまだ我が愛しの君の思考の次元には辿り着けていないようだ……猛省せねば」
へ? なぜかみんながまた、流石だ、みたいな顔をしているけど。
「じゃあ、それはルクスがやっても良いよね?」
クロムウェルの言葉を聞いて、ルクスが無邪気な声を出す。
「順番で言えばそうだな、我は構わん」
「私も良いと思うわ」
「吾輩も異論はない」
「じゃあ、行ってくるね! ついでに派手に
ルクスがそう言うと、光を残して消えた。
……あれ? なんか、ヤバイ方向に話が進んでない?
「さて……我が愛しの君よ。まずは、拠点を作らねばなるまい。どのような立地がお望みだ? 好みの国や城があればそれを奪うところから始めるが」
なんて事をゼテアが聞いてくる。
「え、拠点?」
「そりゃあ、魔王ですもの。城の一つや二つはいるでしょ?」
レーヴェが当然とばかりにそう言うけど、待ってほしい。
「魔王だと?」
そういえばラーズもそんな事を言っていたな。
「ええ、魔王ですわ」
「えっと、待ってくれ。誰が魔王なんだ? クロムウェル?」
貴族っぽいし。
「吾輩なぞ、足下にも及びません」
「じゃあ、レーヴェ?」
「私は、魔王の従順な獣……決して魔王たりえないわ」
そう言って、レーヴェが頭を垂れた。それにゼテアも続く。
「えっと……じゃあゼテアでもないと」
「無論、そうだとも、我が愛しの君よ。そしてルクスでもない」
「マスター。吾輩ら四天王は……かつて魔王と呼ばれた者に仕えていた。ゆえに……吾輩らは決して魔王にはなり得ない……」
つまり……いや、うん、分かっている。けど、知りたくなかった。
知りたくはなかったけど、認めざるを得ない。
「つまり……君達が忠誠を誓っているという……
俺の言葉に三人が満足そうに頷いた。
あああ……。待って欲しい。俺は魔王なんかになりたくて、テイムをしたわけじゃない。
だって、魔王といえば……この大陸に住んでいる者なら誰でも知っている存在だ。数百年前に現れて、悪逆の限りを尽くし、世界を破壊尽くした暴虐の主、【魔王】。
だけど、英雄達とそれを束ねる【勇者】によって、魔王は倒され、その配下は封印されたという。
そういうおとぎ話だ。俺は、その勇者に憧れて冒険者になったんだ。
「魔王は死んだはずじゃ」
「死んだ。立派な死に様だった」
ゼテアがそう言って、目を瞑りながら頷いた。まるで昔を懐かしむかのようだ。
「じゃあ俺が魔王ってのはおかしいんじゃないか?」
「……魔王とは、個人を指す名称ではないのですよマスター。魔王とは……そう、言うなれば貴方達、人類が持つ【可能性の器】の一つに過ぎないのです。そしてマスター、貴方はそれを持っていた」
「可能性の器?」
俺の言葉に、レーヴェが応えた。
「ああ。そういえば人間は、それをこう呼んでいましたね――
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