34.記憶も曖昧で力も入らないのです
そうです! 私たちはクサフジの花を摘み取った犯人を探し当てたのでした。
ハル君とレシアさんと私で、大学の幻子力研究所に行って、そして、そこでヒーレンヴィルナの人工精霊を見つけて……、オートムです。オートムダム・ケセウが精霊を生み出していたのです。
オークの幻導科学技術の発展のためには、必要なことだと言っていましたか?
そのために無断で花を摘むことなんて些末なことだと。
確か、そんなことをハル君と話していて……。
その後は……、なんでしょう? ここから少し記憶が曖昧になりますね。
レシアさんに何か言われた気がします。
それで、その後は……、何も見えなくなって……。
ハル君が絶叫したかと思うと、急に吹き飛ばされた気がします。
と言う事は、この背中と頭の痛みは、この時のものですか?
そして、レシアさんも、今この病院にいるのならば、レシアさんも私と同じように吹き飛ばされて、怪我をしたということでしょうか?
であれば、当然、ハル君も同じ状況でしょうか?
うーん、やはり良く分かりませんね。
そもそも、なんで吹き飛ばされたのでしょうか?
オートムが何かしたのでしょうか?
いや、オートムは「逃げろ!」と言っていませんでしたか?
弾け飛ぶハル君。
宙を舞う白虹の球体。
倒れ込むオートム。
吸い込まれる精霊たち。
あっ、そうです。この場面ですね。
この後、何かがあって、吹き飛ばされて、怪我をして、病院に至る、でしょうか?
うーん、私は心の中で唸りながら、フッと横を向くと、不思議そうに私を見ているジャンセンさんと目が合ってしまいました。
「あっ、あの……、すみません。ここって、病院ですよね?」
私は、慌てて視線を外すと、今一度確認するかのように辺り見回しました。
クリーム色の壁に、クリーム色のカーテン。床頭台の上の小さな水差しに、壊れた標本箱。あっ! マツリカの標本箱を壊してしまいましたよ。園長さんに叱られてしまいますね……。
「ああ、市内のブリウル記念病院だ。大丈夫か? しかし、昨日の事は、何も覚えていないのか?」
昨日の事……、研究室のことですよね。ううん、頑張って思い出そうとしていますが、途中までしか記憶が無いみたいですよ。
「その前に、キミはルリリカさんでイイんだよな?」
ジャンセンさんが心配そうに尋ねてきました。
「えっ、あっ、はい! ルリリカ・ボタニークだと思います」
咄嗟に口を衝いて出ましたが……、だと思います? えっ? 私は何を言っているのでしょうか? 私は、ルリリカ・ボタニークですよ!
「まだ、少し混乱しているのかな?」
ジャンセンさんが気遣ってくれています。
「ええ、そうだと思いますけど……」
声は小さく、曖昧な返答になってしまいました。
すると、そこに、開け放たれていた扉から、看護婦さんが顔を覗かせました。
恰幅が良く、親しみやすい感じの看護婦さんです。
「ジャンセンさん、妹さんが目を覚まされましたよ」
看護婦さんは、優しい微笑みと共に、その吉報をジャンセンさんに伝えました。
すると、「本当か!」と言って、ジャンセンさんが勢いよく立ち上がりました。
妹さんってことは、レシアさんですよね?
良かった! レシアさんも無事なのですね! 一安心です。
「あっ! ジャンセンさん! 私もレシアさんに会いたいです」
横を向き、ベッドの下に足を降ろすと、太腿の辺りにも少し痛みを感じました。
ですが、そのまま、力を入れて立ち上がろうとしましたが、少しふらついてしまいました。
「おっと、無理するなよ!」
ジャンセンさんが私の様子に気が付いてくれて、肩を貸してくれます。
「あっ、ありがとうございます」
さすがレシアさんのお兄さん! 優しいですね。
「あら、あなたも気が付いていたのね」
扉から覗き込んでいた看護婦さんが、そんな私を見ると、そのまま近づいてきました。
「ダメよ、まだ寝てなくちゃ! あなただって怪我人なんだからね」
看護婦さんが、私をベッドに戻そうとしてきます。
「私は大丈夫ですよ。レシアさんはどちらでしょうか?」
抵抗するも、看護婦さんに両肩を掴まれてしまいました。
うっ、レシアさんの爪痕の痛みを思い出します。
「いいから、もう少し寝てなさい。先生を呼んでくるから!」
そう言うと、私はあっさりとベッドに寝かせつけられてしまいました。
体への力の入れ具合を忘れてしまったのでしょうか?
「そんな……」
「直ぐだから、ちゃんと寝ていてちょうだいね」
そう念を押すと、看護婦さんは足早に部屋を出て行ってしまいました。
「まあ、しょうがないな。キミも怪我人なんだから無理はしないこった。それにアイソレシアは隣の部屋だから後でくればいいさ」
ジャンセンさんが、そう慰めてくれました。そして、毛布を掛けてくれながら一言付け加えます。
「それと、病衣がはだけて下着が丸見えだから、部屋を出る時は直した方がいいぞ」
えっ?
毛布の中の私は殆ど半裸状態でした。
えっ!
「ジャンセンさん!」
扉を出るジャンセンさんは、こちらに振り向くと、
「そんだけ大声出せるなら大丈夫だな」
と笑いながら去っていきました。
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