32.白虹の球体は綺麗だけど危険です
オボステム市の市庁舎の爆発、それは三年前に起こった事件です。
ユガレスのフッカ王が、市庁舎に滞在しているところを狙い、ヴォーアムの王子が建物もろとも爆破して、王を殺害したらしいです。
その時はまだ、私はイビラガ村に居たので、爆発に関しては詳しい事は知りませんが、それは酷い惨劇だったらしいです。
明け方だったため、市民への被害は最小で済んだようですが、市庁舎の建物は跡形もなく消し飛んでしまいました。
その威力は凄まじく、爆発の後には大きなクレーターができ、そこに、市内を流れるボアム川の水が流入して、今では、さながら小さな湖を形成しています。
オーク王国は、この市庁舎後の湖を中心に街の再建を試みているようで、市の東側の丘を削り出しては、一部を埋め立てたりしています。
その爆発、街の地形をも変える程の爆発と同じだと、今、レシアさんは言っているのですよね?
「レシアさん、どういうことです?」
私は不安になり、レシアさんに尋ねていました。
「レープリさんの手にある、あの白虹の球体、規模は違えど、見たことがあるのよ。爆発する直前、市庁舎の時計塔を中心に、あの白虹の球体が広がっていたわ。まだ子供の頃のことだったけど、はっきりと覚えているわ。凄く綺麗だけど、とても危険なのよ!」
「そんな……」
私はハル君の持つ白虹の球体を見つめました。
「まずいわ、また精霊を吸って大きくなっているわよ! このままだと危ないかもしれないわ」
今や、持つというレベルではなく、その球体はハル君の体を半分ほど包み込むまでに膨れ上がっています。
「どうしよう! レシアさん!」
無意識なのでしょうか? レシアさんの猫の手の爪が肩に食い込みます。
そのチクリとした痛みに、私が顔を歪めると、ハル君の向こう側から、オートムが走り込んで来ていました。
「あっ! ハル君!」
私が声を上げると同時に、オートムは、精霊を吸収し続けるハル君へ、猛然と体当たりをしました。
お腹の辺りでオートムを受け止めたハル君は、くにゃりと一瞬だけくの字に曲がったかと思うと、その反動で握っていた幻導力灯を手放していました。
弾け飛ぶハル君。
宙を舞う白虹の球体。
倒れ込むオートム。
吸い込まれる精霊たち。
「逃げろ!」
オートムが叫びながら、床に転がる白虹の球体を拾い上げています。
「ハル! しっかりしろ! こいつらを連れて離れるんだ! ボサっとするな! また、あのときみたいになるぞ!」
今や体の大半を包み込む光りの球体を抱えて、オートムが踵を返します。
「レシアさん! ハル君が!」
倒れ込むハル君に手を伸ばそうにも、レシアさんの爪が、それを阻みます。
「分かっているわ! でも、あなたは下がっていて」
レシアさんが、素早く私の前へ回り込むと、
「そして、見ていてちょうだい、一部始終を」
と言って、私の顔の前で、指をパチンと鳴らしました。
すると、瞬時に目の前が暗くなり、辺りに漂う精霊たちが姿を消してしまいました。
いや、精霊だけではありません。レシアさんも、ハル君も、そしてオートムまでもが、姿を消してしまいました。
どっ、どうしたのでしょうか?
突然、私一人になってしまいました。
不安が込み上げてきます。
「レープリさん!」
あれ? レシアさんの声が聞こえます。
しかし、声のする方に顔を向けても、レシアさんの姿がありません。
「オートム! なにを!」
今度はハル君の声です。
しかし、やはり何も見えません。
いや、部屋の風景は見えているのですが、そこに居るはずの、ハル君やレシアさん、それにオートムや漂う精霊は、まったく見えません。
無機質な研究室の風景が広がっているだけです。
私が困惑してキョロキョロと辺りを見回していると、突然、前方から窓の割れる大きな音がしました。と同時に、ハル君の絶叫の声が響きます。
えっ! なに? と思う暇もなく、ハル君の咆哮が尽きると、私は激しい暴風を受けて、後方へ吹き飛ばされていました。
そして、そのまま、背中と頭を壁に打ち付けると、マツリカの標本箱が割れる音を聞きました。
それが、このときの私の最後の記憶です。
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