27.幻子力研究所は立入禁止なのです

 ハル君とレシアさんの会話が続いています。

 私は、園長さんの淹れてくれた美味しいハーブティーを口に含みながら、心の中で、今度は零さないようにしようと注意していました。毎回毎回お茶をブチまけていては、本当に子供のようですからね。大学生になったのですから、もう少し大人の振る舞いを身につけないとです。


「じゃあ、簡単にまとめると、こういうことだねぇ」

 あっ、どうやらハル君の話しが戻ってきたようですよ。

 ここからは、ちゃんと聞かないといけませんね。


「そう、オートムダム・ケセウは、幻子力研究所のソリンダム・ブーケメリク主任に命じられて、植物園の花を集めている。それも、精霊を生み出せるくらい大量に。そして、その精霊は、きっとオートムの持つ導具によって創り出すことが可能である。とね」

 分かり易いですね。ハル君がレシアさんの精霊の話しと、植物園の花の摘み取り事件の話を関連付けてくれました。

「なるほど、じゃあ、私が昨日見たものは、やはり、ツマトリソウをベースとした精霊だってことになるわね?」

 レシアさんが、また猫の手を顎先に当てています。

「でも、待って、そうすると少し変よ。私が精霊を見たときは、まだツマトリソウは摘み取られていなかったのではなくて?」

 そうですね。昨日ここで園長さんたちとエレンを使って見たときは、ツマトリソウはまだありましたね。

 レシアさんが正門の脇で、精霊を捕まえた後に、ツマトリソウの花が摘み取られたと推測したはずです。

「そうだねぇ、これはあくまでも仮定の話しになるのだけれど、オートムは、花を摘み取る前に、一度試したんじゃないかな? 花壇にこれだけの花が咲いているのであれば、このままでも、導具を使えば精霊を創れるかもしれないってねぇ」

「なるほど、その可能性はあるわね……、そのとき出来た精霊を私が……、でも、そうすると今度は、花を摘み取る必要がなくなるわよ。ここで精霊が創れたのであれば、なんで摘み取る必要があるのかしら?」

 レシアさんの疑問が続きます。

「それは、たぶん、場所の問題じゃないかな? お昼に話してくれた、レシアさんの見解だと、本来精霊はれることが出来ない存在だよねぇ、さわれたとしても、直ぐに霧散してしまう存在。もし、オートムに何らかの目的があって、精霊を創り出しているのだとすれば、それは創り出した精霊を利用することが前提になっているのではないだろうか? そして、精霊を利用するには、この花壇では不可能で、どこか別の場所へ持って行きたいが、精霊を捕らえることは難しい……。であれば、発想を変えてベースとなる花を摘み取って持ち去り、利用する場所で、その花を使って精霊を創り出せばいい。こんなんで、どうかな?」

 レシアさんの顎先の猫の手が止まりました。

「レープリさん、しかし、凄い推理ね! でも、確かに、それなら、理に適っているわ」

 どうやら、レシアさんも納得のようです。

 本当に凄いですねハル君は。いつの間に、こんな探偵みたいな人になったのでしょうか?

 村にいる頃は……、いや、村にいる頃から片鱗はありましたね。そう言えば、あの『クネニのジャム事件』のときも、こんな感じでしたね。凄い洞察力というか、観察眼というか、推理力ですかね?


 うん? でも、あれ? そうすると、

「ハル君、そもそも、なんで精霊を創る必要があるのですか? オートムさんにしろ、ソリンさんにしろ、ツマトリソウやクサフジの精霊を創り出して、何をするのでしょうか?」

 私は無意識に口元に人差し指を当てていました。


「殴られた相手に、さん付けとは、ルリちゃんらしいねぇ」

 偉いぞ! という意味でしょうか? ハル君が私の頭を撫でてくれました。

 えっ! いやいや、もう子供ではないのですよ!

 そんな私の気持ちを無視してハル君は、私の頭を撫でながら続けます。

「そうだねぇ、精霊を創る理由、ソリン主任の幻子力研究所、この辺に関連性があるとすれば……、うーん……、分からないねぇ。主任の研究はホロエンジン、つまり幻導力機関だからなぁ、これのどこに精霊が絡んで来るのか……、確かにルリちゃんの言う通りなんだよねぇ」

 ハル君! 私の髪の毛、クシャクシャなのですが……。

「そうなのよ! 私も、花の利用方法までなら分かる、と言ったのも、この部分が不明だったからだわ。大量の花から精霊を創り出す、そして、その後は? ここが分からないのよね」

 レシアさんも再び考え込んでしまいました。


「なら、ソリンダム教授に直接聞いてみたらどうだい? まだ、この時間なら研究室にいるかもしれないよ?」

 唐突に園長さんが声を上げました。

 おっ! 頭の上のハル君の手が止まりましたよ!

「ルウさん、そうしたいのですが、幻子力研究所は立入禁止でして」

「ハル坊、それは、あんたたちが学生だからでしょ!」

「うん? と言いますと?」

「標本だよ。そこのマツリカの標本、あれを見たいから、研究室まで持ってきてくれって、ソリンダム教授に頼まれててね」

 そう言うと、園長さんは立ち上がり、入り口のドアの前の棚に置いてあった、マツリカの標本箱を持って戻ってきました。

 あっ! これは、昨日、私が感動したやつじゃないですか! 是非、もう一度拝見したいですね!

「ほら、私のお使いで、これをソリンダム教授の所へ、持って行ってくれないかい?」

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