26.オークの秘宝は凄いものなのです

 人の想いや、動植物の願いを一か所に沢山集めるとは、どういうことでしょうか?

 教会のような場所ならば、人の想いは集まりそうですが、動植物の願いは、どうするのでしょうか?

「あの、レシアさん、沢山集めるというのは、いったい?」

「文字通りよ、単純に一か所に大量に集めるのよ。例えば、ここに映るクサフジの花のようにね」

 レシアさんは一度私の方へ顔を向けると、すぐさまエレンへ視線を戻しました。

「これだけの花を集めれば、精霊の一体や二体は生み出せるはずよ」

 花を集めるだけで、精霊を生み出せるのでしょうか? そうであるならば、私が集めても精霊を生み出せるのでしょうか? いや、集めるだけで良いのであれば、花壇に咲いている状態でも、既に十分に集まっているとは言えないのでしょうか?

「集めるだけ? そんな簡単なことで精霊になるのかい? だとしたら、花屋や八百屋なんかは、精霊だらけになってしまわないかい?」

 あっ、ハル君も同じような疑問を持っていたのでしょうか? 私の代わりにレシアさんに質問してくれましたね。

「そうね。単純に、とは言い過ぎかしらね。確かに集めるだけでは、精霊は生まれないわ。さっきも言ったように、集めるのは幻導力よ、人の想いや動植物の願いを幻導力として集める必要があるわ、でもそれには、物理的な数が必要になるの。人の想いを集めるのではなくて、植物の願いを集めるのであればね」

「それならば、やはり、花屋なんかは……」

 ハル君が話しだそうとすると、レシアさんが猫の手でそれを遮って続けました。

「待って、続きがあるのよ。物理的な数を集めるのは準備段階なのよ」

「準備段階?」

「そう、ある意味ではね。考えてみてちょうだい。自然の精霊が発生する状況をね。例えば、森の精霊が発生するには、そこに森があることが前提になるでしょう? そして、森の木々たちが生きる事を願っている状態、これが準備段階になるわ。花屋や八百屋は、この状況にあたるわね。ここに、人の想いや意思が重なると、どうなると思う? そう、精霊の核が発生するわ。さっき見せたように、精霊を発生させるには、二つの力が合わさる必要があるのよ」

 難しくなってきましたね。私には、この辺が限界かもしれませんよ。

「ならば、花屋の店先にある花に、僕が精霊になれ、と願いを込めれば、精霊の核が発生すると? そういうことで合ってますか? レシアさん?」

 ハル君が、内容を整理して、ゆっくりと自分に言い聞かせると、最後はレシアさんに確認するよう顔を向けました。

「そうね。ただし、レープリさん、あなた一人の願いでは、精霊は発生しないわね。何千もの人々の願いが花屋の店先に集まれば、あるいは、発生する可能性はあるかしらね」

「なるほど! では、逆に言えば、僕一人で何千もの人々の想いに匹敵するほどの幻導力を与えてやれば、精霊を発生させられる可能性があるってことですね!」

「そうね、可能性だけなら……、でも、そんな人は、なかなかいないわよ」

「いや、レシアさん、オーク人なら、そうでもないんだよ」


 はい、私もそう思います。ハル君の言う通り、オーク人なら可能性があるかもしれません。現にハル君は幻灯者ホロライターで、それなりの幻導力の持ち主です。そして、オークにはハル君以上の幻導師なんて、それはもう山ほど居るのです。

 それ以上に、オークの技術力は、時として秘宝と呼ばれるほどの強力な機能を持つ導具を作ることがあります。実は市内のあちこちで明かりを灯している幻導力灯ホロランタンも、今ではそれが普通となってしまいましたが、本を正せば、これもオークの秘宝の一つです。

 私の知る限り、幻導力灯の元となったものは、その昔、ハル君のセダリ氏族が、ホロナイト鉱石の蓄幻と発光の特性を生かして創り出した、『夜闇の幻陽石』という秘宝だったはずです。

 かく言う私も、ではなくて、私のリカ氏族も、その昔に秘宝を創った一族で、今ではどこにいったのか分かりませんが、『年輪の仮面』と言うものがあったそうです。私は噂話で聞いた程度ですが、これは、凄いもので、人の記憶の抽出と保存、そして、注入ができたそうです。

 何のために、人の記憶を操る、こんな恐ろしい物を創ったのか分かりませんが、今となっては、失われてしまって良かったと、私は思っています。


「オーク人なら? それは興味深いわね」

 あっ、レシアさんの瞳がキラリと光ったような気がします。

「ええ、オーク人、特にオートムなら、何かしらの導具を持っていても不思議ではないねぇ。沢山の分家があるにしても、彼のダム氏族は、あのイソダムに繋がる一族だからね。精霊を生み出すことのできる導具を持っている可能性は高いと思うねぇ」

「精霊を生み出すことのできる導具? オークの幻導技術が生み出した物かしら? だとしたら、それもまた興味深いわね」

「ええ、では、今度は僕が、オークの導具について簡単に説明しますよ」

 ハル君が身振り手振りを交えて、オークの生み出した幻導魔具、いわゆる導具の説明を始めました。

 合わせて、幻灯者である自分の生い立ちや、先ほどの秘宝『夜闇の幻陽石』の話しもしているようです。

 私には知っていることばかりなので、少し退屈になってしまいました。

 あっ、もしかして園長さんもですか?

 南ヴォーアムへのフィールドワークのときにでも聞いた話しなのでしょうか?

 少し息抜きしましょうと言って、お茶を淹れに席を立ってしまいました。

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