25.小さな精霊は創り出せるようです
「さっきまで調べていたのよ、図書館で。そうしたら面白いことが分かったわ」
「面白いことですか?」
「そう、まず結論から言うわね、昨日、私が見た精霊モドキと、摘み取られたツマトリソウの花には、関連性があったわ」
レシアさんは、先ほどまで図書館で調べていたこと、そして、それによって分かったことを、レシアさんなりの解釈を交えて、細かく説明してくれました。
「まず、この話しをするには、やはり幻導力と精霊の成り立ちを、もう少しだけ詳しく知っておく必要があるわ、なので、リカちゃん、ちゃんとついてきてね」
お昼の続きですね。
「ええ、がんばります!」
私が両手で小さなガッツポーズを作ると、レシアさんが小さく頷いてくれました。
「私たちが日常的に使用しているこの幻導力、これは人間だけのものではないわ。実は、生き物全てに備わっている力なのよ。小さな虫から犬や猫などの小動物、その辺に生えている草花や樹木、そして、ときには妖精や魔物と呼ばれている亜種生物まで、全ての生き物に共通の力としてね」
本当ですか?
「えっ? でも、レシアさん、犬や猫が幻導力を使っているところなんて、私、見たことないですよ」
「そうね。犬や猫、いいえ、人間以外の全ての生き物は、幻導力を持ってはいるけど、操ることはできないわ。だから、動物が幻導力を使っているところを、見かけることはないのよ」
「そうなんですね、なるほどです」
私が納得していると、レシアさんが続けます。
「でも、この世界で人間以外に一種類だけ、幻導力を操ることが出来る者がいるわ」
そこで、レシアさんが一呼吸置くと、
「精霊ですね」
ハル君が答えました。
「そう、精霊は幻導力を操れるのよ、というよりかは、彼らは幻導力そのもの、塊と言ってもいいわね」
「幻導力の塊ですか?」
私のスフィアスクリーン……、いや、今はエレンでしたね、これと同じでしょうか? あれも、ある意味では幻導力の塊ですが、違いますよね。
「そうね。彼ら精霊は、私たち人間の祈りや、動植物たちの僅かな願いが、一か所に大量に集まることによって発生するわ。でも、じゃあ、考えてちょうだい。この祈りや願いの正体が、いったい何か分かるかしら?」
そこで、またレシアさんは、ハル君に答えを言ってもらいたいのか、視線を投げ掛けます。
「幻導力ですね?」
「そう、私たちの想いや祈りを乗せて無意識に放出された幻導力。これは我々が普段使っている、イメージである幻導物を見せる力に似ているわね」
レシアさんは、右手を上げて、そこに小さな光の玉を出現させました。ボールを持っているみたいですね。どうやら、これが、私たち人間の想いのようです。
「そして、動植物たちの生命力から発する純粋な幻導力、こちらは生存本能に近い願いのようなものかしら?」
こんどは左手に、と言っても、こちらは猫の手ですが、そこに、またもや小さな光の玉を出現させました。動植物の願いですね。これが猫の手に乗っているのは説得力がありますね。
「これらが引き金となり、精霊の核を形成するわ。そして、これが依り代に宿ることによって、私たちにも見える存在になるのよ」
私たちは二つの光の玉を掲げるレシアさんを見つめています。
すると、レシアさんは、二つの玉を胸の前で合体させ、一つの大きな玉を作りました。
「あなたのエレンとは違い、何も映らないわよ」
レシアさんが、そんな冗談を言って腕を広げると、光の玉はフラフラと空中を漂い出しました。
美しい光景ですね。私たちは、ローテーブルの上に浮かぶ光の玉に見惚れていました。
すると、突然、光の玉がグネグネと形を変え始め、あっと言う間に、トゲトゲした星形になってしまいました。
「あっ! アスタリスク!」
私が声を上げると、レシアさんが、
「ツマトリソウの偽精霊よ」
と答えました。
「うん、そうだねぇ、精霊の成り立ちは、なんとなく分かったよ。でも、これは……」
ハル君がフワフワと漂う、レシアさんの偽精霊を捕まえようとしています。
「そうね、それを捕まえることは難しくてよ」
レシアさんは少しだけ微笑むと、ツマトリソウの偽精霊をポワンと消してしまいました。
「今のは、私が幻導力で創り出した単なるイメージに過ぎないわ、だから当然、
それは、そうですよね。話の流れで、レシアさんが精霊を生み出したのかと思いましたが、アレですよね。ハル君が毎朝投げてくる、あのリンゴと同じですよね。ただの幻導物です。
「でもね、疑似的にでも、人の想いや動植物の願いを、一か所にたくさん集めたら、どうなるかしら?」
レシアさんが、私たちの顔を一瞥すると、
「できるのよ! たくさん集めれば、精霊は意図的に創り出すことができるのよ」
と言いました。
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