23.フクロウワニ野郎を探し出します

「でも、なんで顔なんかに……」

 あらまっ! 私は、なんとなく納得しましたが、園長さんは、まだ少し不満のようです。

「ええ、それは、きっとルリちゃんの目が開いていたので、犯人も気持ち悪かったのでしょう。意識がないと分かっていたとしても、人に見つめられながら悪事を働くのは、あまり気持ちの良いものではないですからね。それを隠すために麻袋を顔に掛けておいたのだけど、いよいよ一つ目の袋がいっぱいになり、二つ目が必要になった、ってことになるのかな?」

 さっき、私が思っていたことと、だいたい同じですね。でもハル君、気持ち悪いって……、ちょっと傷つきますよ、私は……。


 と、その時、思わぬ光景に、私は声を上げてしまいました。

「あっ! 本当ですね。サンタさんみたいですよ!」

 ハル君の言った通り、パンパンになった二つ目の麻袋を担いだ男の後ろ姿が、エレンに映り出しました。

 突然のエレンの変化に、いや、私の声にでしょうか? 皆が一斉に注目しました。

「おしいわね、もう少しだけ、こっちに向いてくれないかしら? そうすれば顔立ちも分かるのに……」

「どうだろう? そうそう都合よく、顔を出すとは思えないなぁ」

「そうかしら? リカちゃんのこのエレンの能力を知っているのは、私たちくらいでしょ? だとすれば、特に警戒するとは思えなくてよ」

 おー! レシアさん、冷静な分析ですね。って、もう私の能力全部がエレンになってしまっているのですね………。

「それはそうかもしれないねぇ、確かに、ルリちゃんのエレンちゃんを知っていたら、目を開いているルリちゃんの前には、そうそう立ちたくはないよねぇ、一生痴態が残るわけだからさ」

 ハル君……、ルリちゃんのエレンちゃんって……、言っていることは、ごもっともですが、なんか、もう、訳が分からなくなっていますよ。


 私たちが、エレンを眺めながら、そんな議論をしていると、不意に男がこちらを向きました。

「あっ!」皆が一斉に声を上げます。

「ルリちゃん、止めて!」

 ハル君の指示でエレンを止めました。

「で、この顔、アップにできないかしら?」

 またもや、レシアさんが続きます。

「アップですか、出来ると思いますよ、ちょっと待ってくださいね」

 私は、少し遠目に映る男の顔を凝視するようイメージを送ります。

 すると、エレンの中の男の顔がみるみると大きくなっていきます。

「アップにはなったけど、また焦点が合ってないねぇ」

「ええ、分かってますよ、今、直しますから」

 私は輪郭を見つめながら、男の顔のイメージを再度エレンに送りました。

「あらら、確かにルリリカさんの言う通りだね、フクロウワニ顔だよ、これは」

 園長さんが笑いながら言っています。

 成功ですね。今やエレンに映る男の顔は鮮明で、これが肖像画と言われれば納得していまいます。

「そう、こいつですよ! 犯人です! フクロウワニ野郎です」

 私は、エレンに映る男を指して宣言しました。


 レシアさんは、顔を近づけて犯人の顔をまじまじと見つめています。

 が、それとは反対に、ハル君は、なぜか顔をそらしてしまいました。

 どうしたのでしょうか? そして、ちょっと苦痛な表情を浮かべていますね。

「あの、ハル君、どうしました? 念願の犯人ですよ」

 私の言葉にレシアさんの視線もハル君に向かいました。

「フクロウワニ野郎です。ほら、やっぱり。この髪と瞳の色、オーク人ですよね。誰なんでしょうか?」

 あれ? ハル君、なぜ黙ったままなのでしょうか?

「そして、なぜ、こんなことをしているのでしょうか?」

 おかしいですね。私と目も合わせてくれませんよ。本当にどうしたのでしょうか?

「ねえ! ハル君! 聞いていますか? 急に黙り込んで、どうしたんですか?」


 沈黙……。

 私の最後の言葉移以降、誰も口を開きません。

 私はハル君の顔を見続けています。


「分かったよ」

 私たちの視線に耐えかねたのか、突然ハル君が呟きました。

「ああ、それについては、と言うか、犯人は、もう分かったよ」

 えっ! ハル君?

「うん? どういうことかしら?」

 さすがのレシアさんも驚きの表情ですね。

「僕たちと同じオーク人でウチの学生、そして、そのルリちゃんの言うフクロウワニの顔」

 そこで、ハル君は一つ息を吐くと、

「オートムダム・ケセウ」

 私たちの目を見ながら、もう一度、

「ここに映っているのは、オートムダム・ケセウだよ」

 と、ゆっくりと言いました。


「なんですって! それは? レープリさんの知り合いかしら?」

 すかさず、レシアさんの質問が飛びます。

「知り合い……、まあ、そんなところかな? しかし、なんでアイツが?」

 オートムダム・ケセウ? 誰でしょうか? 私は知りませんよ。

 まあ、そうですよね……、知っていれば、こんな目に遭ってはいないでしょうから。

 それにしても、

「ハル君、どういうことですか?」

 事と次第によっては……。

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