9.園長さんにお話しを聞いてみます
「ハル坊、ところで、用事ってなんだい?」
目の前に座る園長さんが、ジャスミン茶を一口飲むと、ハル君に尋ねました。
「ああ、ええ、実はちょっとお聞きしたいことがありまして」
ハル君がお茶をテーブルに置きました。
「なんだい?」
「ツマトリソウのことです」
ハル君が、ツマトリソウと発すると、園長さんの顔つきが少し硬くなりました。
「あら、ハル坊、ツマトリソウの事、何か知っているのかい?」
「いえ、急に花が摘み取られていて、少し気になったものですから……」
「そうかい、やっぱり気付いていたのかい?」
「ええ、では、やはりルウさんも?」
「そうね、私が気付いたのは今朝方だよ。いつも通り出勤して、ここに来るときだよ。あれほど咲き誇っていたツマトリソウの白い花がごっそりと無くなってるんでビックリしたもんさ」
「と言うことは、夜間に摘み取られたってことですね? それにルウさんも知らないとなると、植物園側で採取したとかではないってことですよね?」
おっ! さすがハル君ですね! 探偵みたいです。
「そりゃそうさ! 採取するにしても、通常は研究に使う分だけだからね。全部いっぺんに取っちまうなんて、あり得ないよ! しかし、酷い事をするもんだね、とっ捕まえて説教してやりたいね」
園長さんはそこで、無念なのか、少し悔しそうに俯いています。
「であれば……、キャンパス内の誰かの仕業と言う事になりますね?」
ハル君が確かめるように呟きました。
でも、あれ? なんでキャンパス内の誰かなのでしょうか?
「ハル君、外から誰か入って来て摘み取ってしまった、ってことはないのでしょうか?」
私は疑問に感じて、思わず口を挟んでしまいました。
「うーん、外部からの侵入は無いと思うねぇ。あの正門、夜間は閉まっているんだよ。それに、あの高さだ。乗り越えるにしてもそう簡単ではないと思うよ」
「でも、乗り越えられないわけではないですよね? 例えばハル君ならどうですか?」
「まあ、頑張れば乗り越えられるとは思うけど……、摘み取った花を持っていたら、やっぱり難しいと思うな……」
確かにそうですね! ハル君の仰る通りです……、でも、そうするとまた一つ疑問が沸いてしまいます。
「摘み取ったお花は、どこに行ってしまったのでしょうか?」
「そうなんだよルリちゃん! それも疑問の一つなんだよねぇ、あれだけの量の花がどこに消えたか! そして、これはルウさんに聞きたかったことなのですが、ツマトリソウの花が大量に必要になる場面ってなんでしょうか? 持ち帰ったとしても、その用途はいったい?」
ハル君に質問されて、園長さんが考え込んでしまいました。
そうですね、ツマトリソウの花がたくさん必要になる場面……、なんでしょう? やっぱり、私ごときでは思いつきませんね。
あっ! いや、そんなことありません! とっておきなのを思いついてしまいましたよ! そう、お風呂です! 女の子の憧れ! お花風呂! いやー、なんて素敵な響きでしょうか! あれだけ大量の花びらをお風呂に浮かべたら、どれだけ気持ち良いでしょうか? お花の香りだって満ち溢れて、それはもうきっと天国ですよ……、ああ、夢が膨らみますね!
あっ、いけない! 園長さんが何か仰ってます……。
「……量はともかく、花びらの用途なら、まずはお飾りだろうね。料理に添えれば彩りになるからね……、その他だと、蒸留酒の香り付けなどかい? あとはなんだろう? 油が取れるわけでもないしね……」
おー、園長さんも凄いですね! 年の功でしょうか? お風呂の妄想とは格が違いますね。
「ですが、ルウさん、それですと、やはり……、あれだけの量は必要ないですよね?」
ハル君は冷静ですね……。
「そうなるね。ハル坊の言うととおりだよ」
「参りましたねぇ。そうなると犯人も分からなければ、目的も分からない……、もはや謎だらけで八方塞がりですよ」
ハル君が腕を組んで唸り出しました。
八方塞がり? いえいえ、とうとう私の空間風景幻象術を披露する場面ではないでしょうか? 犯人の目的は分からないかもしれませんが……、もしかしたら犯人は分かるかもしれませんよ!
「ハル君、では、そろそろ私の出番ですよ!」
「うん? ルリちゃんの? どうして?」
ハル君は不思議そうに首を傾げています。
「えっ! さっきのですよ! 忘れたんですか? 空間風景幻象術ですよ!」
「あー、忘れてた! 確かに! ルリちゃんのそれがあったね!」
ハル君が大層に驚いていると、園長さんが「なんだい、それは?」と疑問の顔で問いかけてきました。
「ええ、私の必殺技です! きっと園長さんもビックリして、ハル君みたいに鼻から幻導力が漏れちゃいますよ!」
「おいおいルリちゃん……、なんだい、その表現は……」
「うん? 私、何かおかしなこと言いました?」
「言ったねぇ、必殺技とか? 鼻から幻導力とか? ハハハ、まあ構わないよ……、じゃあ、シャボン玉を出してみようか」
ハル君の期待の眼差し? みたいなものが、私を貫いている? のですよね? あれあれ? ちょっと違いますか?
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