8.夜闇に光るは幻の灯りみたいです
幻導力を用いて明かりを灯すことは、火をもって明かりを灯すことより優れていると私は思っています。なぜなら、燃え尽きることもなければ、燃え盛って火事になることもないからです。また、小さなガラス玉のような
幻導力灯は幻導力を送り込めば、誰でも
幻導力には、人それぞれ個性のようなものがあり、ハル君のセダリ氏族は、代々この光を灯すという力に長けていました。持久力があると言った感じでしょうか?
莫大な幻導力で巨大な幻導力灯を光らせ続ける灯台守になった方も、昔は何人かいたようですが、最近のセダリ氏族では、そう多くはないらしいです。これは、まだ村にいた頃にハル君から聞いた話ですが……。
でも、分かりましたよ!
それで、なのですね!
さっきのマツリカのお花です。
あれは、夜にしか咲かないお花です。
月明かりを頼れば、あのマツリカを探せますが、お天気や日取りによっては闇夜になってしまいます。であれば、光を灯す者が必要なのも頷けます。
ハル君が同行したのは、まさに幻灯者だったからなのですね!
でも……、あれ? そうであれば、ダメな子にはなりませんよね?
幻灯者として大活躍ではなかったのでしょうか?
「ねえ、ハル君? ハル君はフィールドワークで何か失敗したのでしょうか?」
「うん? なに? 唐突に酷いねぇ……、僕が幻灯者だと失敗が前提なのかい?」
ハル君は、先ほど伸びをした体制のまま、天井を見つめています。
「いや、そうじゃありませんが……」
「ありませんが?」
黒目だけを私の方に向けてきます。あっ、あまり、触れては行けなかったでしょうか?
「い、いえ……」
「別に遠慮しなくていいよ。ルリちゃんなら僕の性格を知ってるでしょ?」
「ええ、まあ、村にいた頃なら……」
「村ねぇ、まあ、村にいた頃と、そんなに変わってないよ。僕は」
「そうですか? ハル君、なんかちょっと、村にいた頃よりカッコ良くなってますよ」
「えっ? 本当かい? それは嬉しいことを言ってくれるねぇ、じゃあ、やっぱり、今でも僕のお嫁さんになることを夢見てるのかい?」
うん?
えっ!
まずいですね! これはまずいですよ!
「ルリちゃん! そんなに頬を赤らめなくても大丈夫だよ」
ハル君がソファーに座り直しました……、そして、こちらを向いて……、私の目ですか? 目を見てきていますよね? うーん、まずいですね! 完全に目が合ってしまっていますよ……、ああっ、言い方を間違えてしまいました。
「あのー、ハル君……、違いますよ! ぜんぜん違います! 間違えてます! えっとですね……、言いたかったのは……、そう! 垢抜けた! ですかね。なんていうか、都会的というか……、シティーボーイっていうか? 小汚いじゃなくて、子ぎつねっていうか……、ゴンギレイです! いや小奇麗です! えっ? なんですか? ゴンって!」
「ハハハ、相変わらずだなぁ、ルリちゃんは!」
ハル君が笑いながら、またもやソファーに沈んでいきます。
うん?
あれ?
なんだか私は煙に巻かれましたか?
あー、またですか! 村にいる頃から、ハル君はいつもこうです!
そりゃぁ、小さい頃はハル君のお嫁さんになる! なんてことも言っていましたが……、それはアレですよ。なんというか、酔っ払っていたというか……、いやいや子供なのでお酒は飲んでいませんでしたけど、お誕生日会のあの楽しい雰囲気に酔っていたというか……、まあ、そんなことなのですが、今思い出すだけでも、とても恥ずかしくてなりません。
「あらまあ? ルリリカさん! 熱でもあるのかい? そんな赤い顔しちゃって!」
どこからともなく現れた? わけでもなく、扉から入ってきたとは思うのですが、ジャスミン茶を淹れて戻ってきた園長さんが、私の
「いえいえ、なんでもないです! これは、あのー、ハル君が悪くてですね……」
「いいえぇ、そんなことありませんよ。僕は何も、ねっ」
ハル君! また、そんなにシレっと爽やかな顔で! ズルいです!
「まあ、いいわ、はい、取り敢えずジャスミン茶でも飲んで」
「あっ、はい! ありがとうございます!」
うーん、それにしても園長さんのジャスミン茶、なんて良い香りなのかしら!
心が洗われるようです!
そしてなにより、とても美味しいのです!
「あー、このお茶で、心の中のハル君なんて、たちどころに除霊してやるんだからね!」
うん? あれ? ハル君と園長さんがこちらを向いて、目をパチパチさせています。
「ルリちゃん……、心の中でも除霊はしてほしくないなぁ……。というか、僕は幽霊とかじゃないから、除霊とか効かないよぉ……」
あれ? ハル君に心を読まれましたか?
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