ブラック・オペレーション
IZMIN
第1話 ベトナムでの出会い
時は冷戦、1966年のベトナム。米海兵隊の緑の戦闘服とM1956ウェビング個人装備携行システムを着た黒髪の若い日本人男性がテントの中でファイルを開いて黙読していた。
すると、同じ格好をした一人の茶髪のロシア人男性が入り、日本人に問い掛ける。
「お前、CIAか?」
日本人はファイルを閉じて右を向き答える。
「そうだが、あんたが俺と組む事となったKGBのエイジェントか?」
ロシア人は頷きロシア語で返す。
「это оно(そうだ)」
そして日本人とロシア人は笑顔になってその場で握手をする。
「新しくCIAエイジェントとなった桧原 嶺だ」
ロシア人も自己紹介する。
「рад знакомству(はじめまして)、KGBエイジェントのヴィクター・クレニコフだ」
そして二人はテントを出ると多くの米海兵隊員が行き交い、空にはミニガンとロケットポットを装備したUH-1Bが複数機が低空飛行で飛んでいった。
嶺とヴィクターは左右に積み上がった木製の長方形の箱に座り、向かい合って嶺がヴィクターに問う。
「で、本当なのか?ソ連が北ベトナムに核兵器を持ち込んだってのは?」
ヴィクターは頷き、後ろからファイルを取り出し嶺に渡す。
「実行犯は軍闘争派だ。一年前にホーチミン・ルートから持ち込まれた」
嶺はファイルを開き、中には衛生撮影された写真が二枚とロシア語で書かれた偵察記録であった。
「こっちの衛星でも確認はしたが、一体何が目的で核兵器を持ち込んだんだ?」
嶺の問いにヴィクターはため息を吐いて答える。
「軍闘争派は北ベトナムで核を起爆させて、それをアメリカの攻撃として世論を味方につけて南ベトナムからアメリカ軍を追い出そうとする計画さ」
ヴィクターの答えに嶺はクスリと笑う。
「はっ計画が幼稚だなソ連の軍闘争派は。んで勿論、ゴルヴァチョフはそんな計画は承認出来ないときっぱり言ったんだろ」
「ああ、核戦争の引き金になるからと。でも軍闘争派は独断で計画を開始、それを知った同志ゴルヴァチョフは秘密裏に計画を阻止しろと命令が下されて俺達は現地入りしたんだが・・・」
嶺は何かを納得した表情をする。
「味方と思われていた北ベトナム軍とベトコンの妨害で上手く活動出来ないと」
ヴィクターは嶺の指摘にそうだと言う表情で頷く。
「ああ、完全に軍闘争派の言いなりでな。本当はあまりアメリカを頼りたくなかったんだが、一刻も猶予が無いから仕方なく応援を頼んだってわけさ」
嶺はヴィクターから貰ったファイルを閉じてヴィクターに返す。
「まぁ心配するな。実は一ヶ月前にベトコンが占領するドンホイ付近の町に核兵器らしき物が衛星で確認されてな、これからCIA指揮下の海兵部隊と共に急襲する」
嶺は知らせにヴィクターは驚く。
「それは本当か⁉︎」
嶺は頷く。
「ああ、ヘリ部隊の準備が出来次第、すぐに向かう」
すると一人の黒人海兵隊が駆け寄って来る。
「嶺大尉、準備が出来ました。いつでも出撃出来ます」
報告を聞いた嶺は言う。
「分かった。俺らもすぐにヘリポートに向かう」
「ハッ!」
知らせに来た海兵隊員は敬礼して去って行く。
「んじゃ行きますか?」
そう言うと嶺はますぐ歩き始め、ヴィクターは彼の後を追う。少し歩くと5機の武装したUH-1Bがエンジンを始動して待機していた。
嶺とヴィクターはその内の一機に乗り込み天井に提げてあった無線機を耳に着けドアガンの座席に座る。
そして嶺は無線でHQ(司令部)に作戦開始の報告をする。
「HQ、HQ、こちらイーグル・リーダー。準備完了、これより作戦を開始する」
嶺の報告にHQが返す。
「HQ了解。全機、離陸を許可する。幸運を祈るイーグル・リーダー」
「感謝するHQ。よーーーし、ロックンロールだ」
嶺の気合の言葉にパイロットや乗り込んだ海兵隊員達が騒ぎ出し、ヘリは一斉に離陸する。
そして嶺は無線でヴィクターにある事を話した。
「ヴィクター、一応言っておくが核が確認されてから一ヶ月が経っているからもしかしたら既に移動されている可能性ある」
嶺の話しにヴィクターは座席にあった迷彩答える。
「分かっている。核が無くても何か情報が手に入るかもしれない。必ず見つけ出して同志に逆らった奴らを全員、強制収容所にしてやる」
それから一時間後、ヘリ編隊はジャングルの上空を飛びながらドンホイ付近の町が見えて来る。
嶺は身を乗り出し目標の町を確認すると無線で全機に指示を出す。
「イーグル・リーダーより全機へ、目標が見えて来た。町は既にベトコンが占領している。遠慮なく真正面からロケット弾をぶっ放せ!」
指示を聞いていたパイロット達が叫ぶ。
「ラジャーーーーーッ!」
そして全機は一斉に目標の町目掛けてロケット弾を発射する。
発射されたロケット弾は町の至る所に命中し、突然の奇襲に町のベトコン兵は慌てて銃火器を使って応戦する。
UH-1Bは次にミニガンを発射、凄まじい音と共に銃弾が雨霰の様にベトコン兵に襲い掛かる。
そして町に着いたヘリ編隊はバラバラになって減速してゆっくりと移動する。
嶺は座席に戻って無線機でヴィクターに言う。
「ヴィクター!ドアガンを使え!まずは町を掃除しないとな」
ヴィクターを喜びながらM134ミニガンのグリップを両手で掴む。
「ああ!そうだな!」
二人は引き金を押して建物や地上に目掛けてミニガンを発射する。
すると地上のベトコン兵がRPG-7を持ち出し至る所でヘリに向かって発射する。
RPGの攻撃に一度、ミニガンでの攻撃をやめた嶺は大声で指示をする。
「全機へ!回避行動しつつRPGを持っているベトコンを優先的に排除しろ!」
全機は嶺の命令に従い回避行動をしつつ攻撃を続け、嶺も再びミニガンでRPGを持ったベトコン兵を攻撃する。
ある程度、ベトコン兵が一掃されるとヘリ編隊は町の外に着陸する。
嶺もミニガンから離れてポッケから濃い緑色の布を出してそれを頭に巻いて座席裏に積み込まれていたM16A1、二丁を手に取る。一方、ヴィクターもガンドアから離れて座席の裏にあった嶺の居る方へ向かい嶺からM16A1を受け取る。
嶺とヴィクターは胸のマガジンポケットから20発入りのSTANAGマガジンを取り出しM16A1ののマガジンハウジングに差し込みチャージングハンドルを引く。
そして嶺はヴィクターに大声で言う。
「核が持ち込まれたのは町の中央の教会だ。行くぞ!」
ヴィクターも気合の入った返事をする。
「ウラーーーーーーーーッ!」
ヘリが大通りの目の前に着陸すると二人は急いで降り、ヘリも二人が降りた瞬間、すぐさま離陸する。
奇襲によって至る所から火と黒煙が上がり、そしてヘリを降りたアメリカ兵が生き残ったベトコン兵と銃撃戦を繰り広げていた。
二人はM16A1を構えながら大通りを進むと右の細道から複数のベトコン兵がAK-47を持って現れる。
嶺は大声で叫ぶ。
「コンタクト!正面!」
嶺とヴィクターは素早く照準を合わせてM16A1の引き金を引きベトコン兵を攻撃する。
火を吹きM16A1から発射された5.56mmNATO弾はベトコン兵に命中、二、三人のベトコン兵もAK-47を構えて応戦するが、弾を受けて倒される。
嶺とヴィクターは再び進み始め、白い塗装の教会が見え始める。
「あれが言っていた教会か?」
右側に居るヴィクターの問いに嶺は答える。
「ああ、そうだ」
二人が目と鼻の先まで教会に近づくと潜んでいた大勢のベトコン兵が一斉に現れて銃火器で攻撃する。
ヴィクターは咄嗟に嶺ごと右に積み上げられていた砂袋に押し倒す。
嶺は起き上がってヴィクターに礼を言う。
「ありがとう、ヴィクター。借りが出来たな」
ヴィクターはサムズアップをする。
「いいて事よ、この借しはいつか返せよ」
嶺は笑顔で頷く。
「分かった」
嶺は積み上がった砂袋から少し顔を出し、様子を見る。
「くっそ!航空支援だな」
嶺は左のバックパックから無線機を取り出し航空支援を要請する。
「イーグル・リーダーよりイーグル2-1、応答せよオーバー?」
無線からイーグル2-1の声が返ってくる。
「イーグル・リーダー、こちらイーグル2-1」
嶺はイーグル2-1に指示をする。
「イーグル2-1、目標の教会から攻撃を受けている!白い塗装の教会だ!支援を頼むオーバー!」
「了解、イーグル・リーダー。到着まで3秒」
そう言うと二人の頭上にUH-1Bが現れ、ホバーリングしながら目の前の教会に向かってミニガンとロケット弾を発射する。
ヘリからの攻撃を受けたベトコン兵は一掃され、それを確認したイーグル2-1は攻撃を止める。嶺は無線でイーグル2-1に礼を言う。
「ありがとうイーグル2-1」
「どういたしましてイーグル・リーダー」
そう言うとイーグル2-1は飛び去って行き、嶺は無線機を閉まって、片腕でヴィクターを立たせる。
「んじゃ、神父様の説教を聞きに行くか?」
嶺のジョークにヴィクターは笑顔になる。
「ああ、そうするとしよう」
二人は再びM16A1を構えて駆け足で教会に向かう。
教会の正面入り口に着くと嶺とヴィクターは左右に別れ、嶺はヴィクターに小声で言う。
「スリーカウントだ。行くぞ」
ヴィクターは頷き小声で返す。
「ああ」
ヴィクターは前の肩ベルトに掛けてあったスタングレネードを手に取る。
そして嶺は無言で左指でカウントする。三、二、一と同時に嶺は教会のドアを蹴破り、身を隠しヴィクターはすかさずスタングレネードの安全レバーを外して中に投げ入れる。
スタングレネードが爆破すると中にいた敵がパニックになり、嶺とヴィクターは中に入り敵を殲滅する。
嶺は目の前に倒れた敵の死体を片足で上向きにする。敵はソ連特殊部隊のジャングル迷彩服と装備品を着けていた。
嶺は膝を曲げて死体を見ながらヴィクターに言う。
「ヴィクター、こいつらスペツナズだ」
ヴィクターは周りを見ながら頷く。
「ああ、核兵器は無いが、こいつらが此処に居ると言う事は核は確実に持ち込まれている」
嶺は立ち上がって祭壇の目にある木製のテーブルに向かい、置いてあった資料を漁る。
嶺は広げられていた地図を見て驚き、大声でヴィクターを呼ぶ。
「ヴィクター!来てくれ!」
死体を漁っていたヴィクターはすぐに嶺の所に向かう。
「何か見つけたのか?」
「ああ、これを見ろ」
嶺の見つけたのか地図にはある場所に赤ペンで丸とロシア語が書かれある所を指さす。
「此処だ。町から西に6km進んだ野戦基地に核兵器を輸送と書かれてある」
「本当だ・・・おっと、これは」
ヴィクターは目の前にあったボードに気付いて手に取る。挟んであったのが資料にはロシア語で日付と場所、そして指揮官の名があった。
「これによると輸送されたのは一昨日の夜で作戦の指揮官はベルウラク・ヴォルコフ少佐だ」
「知り合いか?」
嶺の問いにヴィクターは頷く。
「ああ、軍闘争派の一人でKGB内でも危険人物として監視していた」
嶺は無線機を取り出してイーグル2-1に連絡する。
「イーグル・リーダーよりイーグル2-1」
イーグル2-1は答える。
「イーグル・リーダーこちらイーグル2-1」
「イーグル2-1、目標に繋がる資料を発見した。直ぐに回収してくれ」
「了解」
嶺が無線で指示をしている間にヴィクターは小型カメラで資料と地図を撮影する。
嶺はヴィクターの右肩を叩く。
「撮影出来たか?」
ヴィクターは首だけを後ろに向けて頷く。
「ああ、全部取った」
「よし、行こう」
二人は駆け足で外に出る。
外に出ると目の前にヘリが現れ二人は乗り込むと同時にヘリは離陸、町を離れる。嶺はヘリの無線を耳に付け連絡する。
「HQ、HQ、こちらイーグル・リーダー」
「イーグル・リーダー、こちらHQ」
「HQ、目標に繋がる資料を確保。これよりデルタ基地に戻る」
「了解した、1分後には町を空爆する」
「了解、アウト」
同じ様に無線を耳に付けて会話を聞いていたヴィクターが無線で嶺に聞く。
「空爆⁉︎随分と派手な証拠隠滅だな」
嶺は笑顔で無線でヴィクターに返す。
「それがアメリカスタイルさ、最初から最後までド派手にやるのが」
そう言いつつ二人を乗せたヘリはデルタ基地に向かう。
その日の夜、デルタ基地のテント内で作戦会議が行われていた。
嶺やヴィクターの他にも白人と黒人のCIAエイジェントとロシア人のKGBエイジェントがいた。
そして目の前のボードには地図と資料が貼られ嶺とヴィクターが皆に説明する。
「持ち込まれた核兵器は今日、奇襲を仕掛けた町から西に6km進んだ野戦基地にある事が分かった」
続いてヴィクターが手に持っていたファイルを開いて強面のロシア軍人の写真を出す。
「指揮官はベルウラク・ヴォルコフ少佐だ、奴は作戦の最終確認で明日の昼に野戦基地に現れる事が撮影して来た資料から分かった」
話しを聞いていた黒人のCIAエイジェントがジョークを言う。
「そいつの顔、いかにも悪者ですね」
そのジョークに嶺とヴィクターを含み全員が笑う。そして嶺は話しを続ける。
「そうだな。では作戦だが、今回は至ってシンプルだ。ヴォルコフを見つけ出してぶっ殺して核兵器を回収する。お分かり?」
嶺のユーモアな質問に全員が各々の返事をし、ヴィクターは右に着けていた腕時計を見て言う。
「では早朝、0500時に装備してヘリポートに集合だ。解散」
解散と同時にエイジェント達はテントを出てそれぞれの場所に戻る。
嶺は一人、ボードを眺めヴィクターがゆっくりと後ろから彼に近づく。
「どうした?何か不満があるのか?」
ヴィクターの問いに嶺は首を横に振る。
「いいや、ただ実感が無いんだよ。アメリカとソ連が手を組んで任務をするのが」
ヴィクターは近くの椅子を引き寄せて座る。
「まぁ今回は異例だからな。こんな機会は無いし、お互いに少し身の上話でもしないか?」
嶺は笑いながら近くの椅子を持って来てヴィクターの前に座る。
「いいぜ。でもこれはプライベートの話だ、お互いの機密情報を聞き出すのは無しだ」
ヴィクターは笑顔で話す。
「安心しろ、聞き出す前に盗み出す方が手っ取り早い」
ヴィクターのジョークに嶺は笑い、ヴィクターも釣られて笑う。
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