第45話:泉堂さんの踏ん切りと吉沢さんの話

 ちょっと前に、グアムに行って、あんなに元気だったのにねと、言うと、しんみりして、思い出したのか、涙を流して、そうなのとため息交じりに言った。でも、緩和ケア病室に移る時には、連れて行ってと言うので、聞いてみると宮入が、答えた。


 その後、吉沢さんが、下村君の昔話を始めて、彼の苦労話や地元に帰って来て、地元民へ親切にしたことなどを語った。でも、下村君、ずっと、泉堂さんの事が好きだったのよと打ち明けた。泉堂さんが辰野を出た時、未成年だったけど、佐藤君の店で、やけ酒を数人で飲んだ話をした。


 そんな話、知らなかったわと泉堂さんが言った。その後、北海道旅行へ行き、すすき野で働く、泉堂さんを見つけた時の喜びようと言ったらなかったわと話した。そういえば、その後、数回、着てくれ、すぐ帰ったと、泉堂さんが思い出した。


 不景気で、店をたたんだ時に来て、俺が金を出すから、小さなバーでもやったらと言ってくれたっけと思い出した。その時は、本気だったのよと言った。その直後に、辰野の支店長で栄転して、札幌に行けなくなったのを残念がっていたっけと吉沢さんが言うと知らなかったわと泉堂さんが言った。


 これを聞いて泉堂さんが、あの時、店を出すなら、金を出してやると言ったのは、飲んだ時の冗談だと、てっきり思っていたわと言い涙を浮かべた。追い打ちをかける様に、吉沢さんが、下村君、そう見えても一途なとことがあるのよと打ち明けた。


 これを聞いて泉堂さんが大泣きして酒を飲むペースが速くなった。泣きながら神様って本当に意地悪ね。なんで教えてくれないのよと怒った。かなり酔って、泉堂さんが、私だって、宮入君が、いなくなった時、天竜川に飛び込んで死のうと思った事あるのよと語った。


 もうやめてくれよ、今、俺たちがしなければいけなのは、下村君を励まして、彼をできるだけ安らかに送ろうと考えることだろと言った。これを聞いて、泉堂さんが、そうよね。考えるべきは、過去の事ではなく、ミリの事よと言い、吹っ切れたような顔になった。


 これを聞き、吉沢さんが、下村君が、死ぬなんて、今日知ったばかりで、いちばん、整理がつかないのは、私よと言い、いつも、私の順番は最後のよねと言い、私だって、宮入君の事が、好きで、東京へ行った時、泣きはらしたのよと、憂さを晴らすように言った。


 なんだか、みんな、酔いが回ったから、今日は、お開きにして帰ろうと言い、宮入が、精算を済ませて、店を出た。そして、タクシーを呼んで、泉堂さんを乗せ、運転手に京王永山までいくらと聞き前支払いし見送った。その後、吉沢さんと彼女のマンションに送り、家に帰った。


その後、2017年2月1日、吉沢さん、泉堂さんと3人で、有明病院へ行った。そして緩和ケア病棟の下村君の病室を訪ねると個室で立派な部屋だった。この頃には、下村君は、さらに痩せ、あばら骨が浮き出て、顔も急に老けた気がして死期が近いと予感した。


「吉沢さんは、驚き、目頭を熱くし涙をぬぐい、突然、驚かせてごめんねと言った」

「俺も、こんな体を見せたくないよと寂しそうに語った」

「吉沢さんは、病室を出て少しして、すみません取り乱してと謝った」

「体調は、相変わらず良くないが、精神的には、随分良くなったと告げた」

「でも今年の桜は、何としても見たいなと、つぶやくと、泉堂さんもこらえきれず声を上げて泣き出した」


「なんて、かわいそうなの、神様って、意地悪ね」と、小さな声で言った。

「下村が、きっと人生ってこんなものじゃないかなとつぶやいた」

「まだ俺なんかベッドの上で死ねるのだからましだと考えてると告げた」

「吉沢さんが、やっぱり下村君は、賢く、すごい人だわと言った」


「それに対して、君は、中学の時から、僕のいい加減な所も見てるし、みんな知っているものなと答えた」

「辰野には、美しい自然があり良い所だと言い、そこで、暮らせたのは、幸せだったと懐かしんだ」


「僕は、死んでも辰野のホタルに生まれ変わり辰野の草むらを飛び回りたいたいなとつぶやいた」

「すると、たまらず、まわりから、嗚咽が、聞こえた」

「お前を俺の車に乗せ今生の別れに満開の桜を見せてやると宮入が断言した」


「そんな話をしてると20分たち、これ以上いると下村君の体に障るから帰ろうと告げた」

「3人は、部屋を出ようとすると何かあったら宮入に連絡すると話した」

「宮入が、了解と言い、みんなは、病室を出た」

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