第43話:運命に従うと下村の返答

 俺にも、その下村の気持ち、よくわかるな。東京にあこがれを持っているが、地元の名家の息子として、自由に挑戦する訳には、いかなかったのかもしれないと思うよと同意した。その後、D銀行の辰野支店の支店長を退職して地元の代表として住民の相談事を取り仕切っていたのは偉いと言った。


 ところで、もし、下村が、余命半年と言われ、緩和ケアと言って手術せず、現状のまま、寿命を全うしたいと希望したら残りの間、どうしたいと聞いた。下村君が、そういったのと聞くので首を縦に振った。それなら、協力してあげるしかないでしょと、半泣きで答えた。


 でも、怖いわ。下村君が、死んじゃうなんて、信じられないものと、大泣きした。肩を優しく抱き、落ち着け、死ぬのは下村だぞ、彼の身にも、なってやれ。ちょっと前に、彼を支えてきてくれた。真面目で、懸命に下村に尽くした奥さんが死んで目的がなくなったのだろと言い、気持ちは、わかると静かに言った。


 その後、じっと黙って、その頃を思い出して、宮入の目にも大粒の涙があふれ出した。小さな声で泉堂さんが、怖いわ、今日は、帰らないで、お願い。うちに泊まっていってと耳元でささやいた。それを聞き、嫌とは言えなくなり、わかったよと答えた。

 うれしいわと言うと22時過ぎとなり、店を出ようかと言い、寒いからタクシー呼ぶよと、宮入が言い、店の人に、タクシーをお願いし、精算をした。数分後、タクシーが来て乗り込んで数分で泉堂さんのマンションについてエレベーターで5階の彼女の部屋に入った。


 化粧のにおいがして、2LDKのリビングにソファーベッドと小さなソファーと隣の和室が、寝室になっている様だった。すぐ、エアコンをつけて、部屋をあたためウイスキーと日本酒どっちが良いと聞くと、宮入が、ホットウイスキーが良い、俺が作るから、お湯を沸かせと言った。


 大きめのコーヒーカップとウイスキーを持ってきてと言い泉堂さんが用意した。そしてホットウイスキーで乾杯しなおした。そして、突然、宮入が、泉堂さんに下村、来年の紅葉を見られないと言った。えー、そんなに悪いのと聞くと延命治療を拒否したと伝えた。


 何で、どうして、と聞くので、奥さんをなくして、子供もいないし、長生きする意味がないと考えたのだろうと語った。その気持ち、よくわかると、言った。諦めが、早すぎないと、泉堂さんが、聞くので、がんで長生きするって痛いし、本当に大変だ。


 その目的を見いだせないのだよと、言うと、信じられないと言うので、守るべきものないのさと言い放った。信じられないと言うので、君が、彼の立場になれば、よくわかると思うよと言った、もし、宮入君が、その立場になった、そうすると聞いた。


 その時になってみないとわからないと言った。守るべきものが、その時にあるかどうか。また、死ねないほど夢中になるものがあるかどうか、死ねないと思うほど、愛する人が現れているかどうかもわからないと言った。なーる程ねと、相槌を打った。


 死ねないと思うほど、愛する人が現れるって素敵ね、私も宮入君が、死ねないと思ってくれるほどの愛人になりたいわと言い抱き着いてきた。彼女を抱きしめると豊満な肉体が感じられた。そして、目で、誘っているのが分かったが、冷静に、今日は、やめておこう。


 少なくとも、お前を愛してる下村がいるのを知って、彼が生きている時に君を抱くことはできないと、言い放った。その話を聞きわかったわ、残念だけれど言い離れた。でも下村君を見送った後なら仲良くしてねと言うと、その時になってみないと何とも言えないと答えた。


 とにかく、今は、下村君の意向をかなえてやることが一番大切だと語った。僕は、今日、ここに寝ると言い、毛布と掛布団を貸してと言い1時頃に消灯して眠りについた。翌朝、9時に起きて、冷蔵庫のパンをトーストにしてバターと紅茶をもらって10時過ぎに泉堂さんの部屋を後にした。

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