第9話:桜の花見と沙織さんとホタルのはかない命

 思いっきり泣いて、少し深呼吸をして、後の事は、任せてと言った。その後、長い間、本当にお世話になりましたと言うと再度、涙が流れた。その後、死期が近いと感じた宮入晋平は、奥さんのベッドの横で寝て、彼女の話をじっと聞いた。


 すると、出会った頃の話、結婚を決めたときの気持ちを回想しながら話してくれた。その時、宮入が、実は、中学時代、父の転勤で、長野県の辰野で暮らして、夏の夜、幻想的な光を放つホタルを最初に見た時の話をし始めた。お盆の頃、真っ暗になると多くのホタルがあつまり光を放つ。


 ホタル祭りが、約10日間、開かれて、大勢の人達が見に来る。そして、ある夏に、ホタル祭り終了後、自治会で、会場の掃除をしに行ったとき。多くのホタルの死骸も見つけて愕然とした。あのホタルたちは、最後の力を振り絞って幻想的で美しい光を我々に見せてくれたのだ思うと自然に涙が出てきた。


 その後、地元の大人たちが、詳しく説明してくれた。それによると、ゲンジボタルの成虫の生命は2週間たらず。この間、水以外の食物はとらない。雌が産卵をはじめる頃には、雄はほとんど、死んでしまう。


 雌も産卵がすむと2、3日で死ぬ。つまり、ホタル祭りの頃、ホタルたちは、懸命に、人生の終わりのショーを人間たちに見せてくれる。そして、それが終わると、雄が先に、死んで、2,3日後、後を追うように雌が亡くなる。


 「何て素敵な人生なんだ!」

「そう思うと、再び、涙がこみ上げてきて止まらなくなった」

「こんな話をすると本当にホタルって潔いわねと沙織さんが言った」

「私、そんなに、潔く、人生というショーのフィナーレを他人に見せられないわ」

「ホタルって本当に、偉いのねと言いながら、涙を流した」


「その後2013年4月26日、沙織さんが急変し11時過ぎに自宅で亡くなった」

「5月6日、宮入家と三輪家と親戚の12人で八王子の公営の斎場で葬儀を行った」

 お坊さんの読経と亡き沙織さんを忍び、ご焼香をして精進落としの昼食を食べた。


 13時半から骨拾いの儀式が行われ亭主の宮入晋平と長男の智和、長女の悦子が行い骨壺に収めた。その後、8人で、墓地へついて行き、亡き沙織さんの墓前に花をたむけ、お参りした。自宅に帰っても誰もいない生活が、はじまると、やはり寂しい。


 6月14日に49日法要を執り行った。その後、6月何か、面白い事はないか調べると辰野ホタル祭りが6月22日までやっているとわかった。そこで急に、中学まで過ごした辰野中学の友人達に会いたくなった。そして、今までの人生を振り返ると、夫婦で旅行に出かけていなかったことに気づいた。


そこで辰野中学時代の名簿を探し出した。そして級長をしていた下村敏広君の家に2013年6月16日、夜、電話した。すると、下村君が、久しぶりと挨拶して、宮入が、下村君に、今どうしてると聞くと、八十に銀行の転勤で県内中心に多くの所へ転勤して10年前、辰野の銀行の支店長になった。


 そして数年前に60歳で定年を迎えたと教えてくれた。急に、どうしたと下村君が聞くので、宮入が、実は、最近、妻を亡くして、子供達は、それぞれ独立し、独りぼっちになり寂しくなり辰野時代を思い出したと答えた。仕事はと聞かれ随分前に体調を崩して、今は、土日、進学塾をしてると言った。


 すると、良いご身分だねと笑った。下村君が、もし来るなら6月21日迄が、「辰野ホタル祭り」、だから、それに来ると良いぞと教えてくれた。それいいねと言い、ホテルを予約して、行く事にするよと伝えた。詳しい日程が、わかったら、また電話してくれと下村君が言い、礼を言って電話を切った。


 翌日早速、辰野近くの歴史ある旅館を2013年6月20日から3泊予約。宮入の両親は、既になく、旧友が、数人残っている程度。兄弟たちも大阪、名古屋に住んでいる。若い頃に、単調な田舎生活に嫌気がさし金を稼げる大都会にあこがれた。そのため兄弟たちは、それぞれ大都会に出て行った。


 その後、自分の生活を作り上げるために東京で必死に働き小さな賃貸マンションを借り結婚。宮入晋平は、亡き沙織との間に2人の子供ができた。といっても宮入晋平は、自分の兄弟たち会う事は少なくスマホでの連絡と写真、ユーチューブでの近況報告ばかりだった。

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