#134 束の間の休息
予約ミスしました、すみません( ;´・ω・`)
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結局、眞矢宮の誘いを断ることは出来なかった。
心身共に疲弊している上に、星夏にあんなことを口走ってしまったのもあって自宅に帰るよりマシだと受け入れたのだ。
とはいっても一日だけ。
ストーカーを警戒していた時と違って長く泊まる理由がないし、あの状態の星夏を一人にしたままだと心配で休むどころじゃなくなってしまう。
そんな条件を受けた後から付けたにも関わらず、眞矢宮は不満を見せることなく了承してくれたのだ。
バイトは眞矢宮と揃って早退し、今は彼女の家の風呂に浸かっていた。
冬場の寒さで冷えた体には湯船のお湯が心地よく沁みる。
ちなみに眞矢宮の両親は仕事で居なかった。
なので風呂から出た後は彼女が作った夕飯を食べることになっている。
星夏に外泊のことは伝えていない。
正確には連絡しようとしたが、自分がどこに泊まるのかを説明出来ないため断念した。
ホテルやネットカフェに泊まるならまだしも、眞矢宮の家だなんて言えるわけがない。
バイトに出る前の口論の発端は、星夏が眞矢宮の変心を疑ったのが切っ掛けだ。
それなのにバカ正直に『気まずいから眞矢宮の家に泊まる』なんて言って見ろ。
……何が起こるのかは想像に容易い。
そういう訳で無断での外泊と相成った訳だ。
居どころを尋ねるメッセージを送って来ることも考えて、スマホの電源を切っている。
だがそうなると一晩とはいえ星夏を一人きりにさせてしまう。
ここまで心配が尽きない俺を見かねたのからか、意外な助け船が出された。
『星夏のことならあたしが見てってやるよ』
俺と眞矢宮を車で送ってくれた真犂さんが名乗り出てくれたのだ。
店はどうするのかと訊いてみれば、今日は閉めると店長権限の行使を見せられた。
相談には乗ってくれても直接的な手助けは滅多にしないだけに、自ら買って出てくれたことにはとても驚かされたモノだ。
持って来ていた家の鍵は真犂さんに渡してる。
どういう風の吹き回しなのか気になるが、尋ねるより先にある質問を投げ掛けられたことで結局なぁなぁになってしまった。
「なんであんなこと訊いて来たんだろうなぁ……」
疑問は残るが今は眞矢宮に言われた、俺が反省するべき点について考えないといけない。
軽くのぼせるまで考えたがハッキリとした答えは出なかった。
湯船を出てバスタオルで身体を拭いてから、脱衣所を出て夕食を済ませる。
そうして一息ついた時に眞矢宮からある話を切り出された。
「荷科君、丁度良い機会なのでこれをお返ししますね」
「え? これって……」
言葉と共に差し出されたのは一枚のTシャツだった。
見覚えがある……というより俺のシャツだ。
なんで眞矢宮が持ってるんだと問い掛けるより早く思い出す。
そう、このシャツは訳あって下着姿で迫って来た彼女に着せたものだった。
……。
うっっわ気まずっ。
思い出した途端に風呂で温まったはずの身体に冷や汗が流れる。
だがここで変に意識してしまったら、振ってからの彼女の気遣いを無駄にしてしまう。
とりあえず表面上は笑顔を浮かべて受け取っておく。
「……て、てっきり捨ててるもんだと思ってたなぁ」
「そんなことしませんよ。ちゃんと綺麗に保管しないと失礼じゃないですか」
「別にそこまでしなくても良かったんだぞ? 俺、三ヶ月以上も経ってたから忘れてたし……ん?」
「どうしたんですか?」
「いや……逆にこの三ヶ月の間ならバイトで会った時にいつでも返せたんじゃないかって──」
「………………学校のカバンに入っているのを友人に見られると、色々と勘繰られると思ったので持って行けなかったんです」
「そ、そっか……」
それ以外の理由を深く聞くなという圧を言外に感じ取り、そういうことだと頷くしかなかった。
なんとなく分かってしまった気がするが、言葉にするのはやめておこう。
若干、静寂が訪れるが程なくして眞矢宮が咳払いをして払拭する。
「コホン。話の前に一つだけ確認したいことがあります」
「な、なんだ?」
「星夏さんとケンカになった発端は私……なんですよね?」
「あ~……まぁ、な」
改まって尋ねられた問いに、気恥ずかしさを感じながら肯定する。
流れで事の経緯を話したため、彼女が気にするのも当然だった。
だが眞矢宮が気に病むことは何もない。
「星夏に一方的な物言いをした後ろめたさはあっても、眞矢宮への邪推に対して怒ったことに後悔はないぞ。断った俺が言うのもなんだけど……いや、断ったからこそ星夏が相手でも許せなかったんだ。俺が勝手に怒っただけだから気にすんな」
「──……もう。そんなことを言われたら、それこそ変な期待をしてしまいそうじゃないですか」
あくまで自己満足だと返すが、眞矢宮は堪えきれない喜びを表すように微笑む。
「え、あ、いや……別にそういう意味で言った訳じゃなくてだな……」
「分かっていますよ。それでも……ありがとうございます」
決して意識させるつもりはないと咄嗟に繕っても、彼女は嬉しそうに礼を言う。
むず痒さを覚えながらも拒否することなく感謝を受け取る。
暫しの沈黙の後、眞矢宮が口を開いた。
「それで荷科君、反省点は何か分かりましたか?」
「え? あぁ、えぇっと……」
唐突な問いではあったが、風呂上がりに漠然と答えらしきものは浮かんでいた。
今回の件で俺が反省すべき点。
それはまさに今日になって実感したことで……。
「──もっと他の人に相談するべきだった、とか?」
方々から一人で抱え込むなと口酸っぱく注意されていたにも関わらず、この体たらくなのは実に申し訳なかった。
もう少し星夏の状況を共有出来ていれば、今朝のような口論は起きなかった可能性はある。
考えた結果がある意味で当たり前な反省なのだから、正直に言って自信は無い。
でも一番思い当たるのはこれだった。
正解かどうか眞矢宮の顔を窺うが、彼女は神妙な面持ちを浮かべたままだ。
やがて口を開き──。
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