第17話 引きこもった、クラレンス殿下
クラレンスかぁ~。
絶賛引きこもり中 (意味不明)、って噂なんだけど会えるのかなぁ。
キャロルの記憶を頼りに、二階の王族の私室がある場所に来たけど……。
「あれ? キャロル嬢。今日はまた、なんで王宮にいるの?」
「ダグラス殿下。お久しぶりでございます」
サッと礼を執った。良かった。ダグラスに会えて。
「クラレンス殿下に会いに来たのですが、自室にこもってばかりだと聞いて、どうしたものかと……」
本当は、賢者の間からの帰りなのだけど。
「まぁ、今だったら自主謹慎の名目も立つしな。会いに行くのなら付き合うけど?」
「良いのですか?」
やった。お願いする手間が省けた。
「あいつ今、謁見の申請をすべて断ってるからな。俺みたいな立場の人間しか会えないよ」
俺みたいな立場って、兄弟って事かな?
「そうなのですね。では、お願いできますか?」
「了解。では、キャロル嬢の護衛をしますか」
ダグラスは、気楽に頼まれてくれた。この人は優しい。リオンお兄様と同じで、そばにいると安心できる。
長い廊下を歩いてクラレンスがいる居住区に入った。
王族の居住区は、陛下と王妃、後は側室ごとに分かれている。
ちなみに側室の子のダグラスがいる居住区は別の建物になるらしい。
クラレンスの部屋の扉をノックすると、中から返事があった。
侍女らしき人が、扉を開けてくれる。
ダグラスは護衛をすると言ってくれた通り、私の後ろに控えてくれていた。
まぁね。人払いでもしない限り王族の私室なんて、使用人と護衛だらけなのだけどね。
中に入るとクラレンスは、椅子に座って何か書類を見ているようだった。
あまり顔色は良くない。
近づくと、私達にも座る様に言われた。
近くにいた侍女に、お茶の用意を命じている。
お茶を用意してもらって、少し落ち着いたらクラレンスが訊いてくる。
「それで、何の用だ?」
…………何の用だろう? クリスから、クラレンスに会ってないって指摘されたから来たって言ったら怒るんだろうな。
「いいかげん、引きこもるのはやめたらどうだって言いに来ただけだ。書類の処理はともかく、社交や外交の日程をこれ以上引き延ばすわけにはいかないだろう?」
私が何も言わなかったので、ダグラスが言ってくれた。
と言うか、公務を放ったらかしにして、引きこもってたの?
「分かってる」
不機嫌そうだけど、クラレンスはちゃんとダグラスの言葉には返事をしている。
「で、キャロルの用件は」
私の方をチラッと見て訊いてきた。まぁ、そうなるよね。
でも、言う事が無いんだよね。キャロルだったら、どういうんだろう?
「とりあえず、お顔を見に参っただけですわ。思いのほか元気そうで何よりです」
キャロルのスキルに任せたら……。あっ、クラレンスがイラっとした顔してる。
「相変わらず人の神経を逆なでするよな。お前は」
ああ。なるほど。こういう会話をしていたのね。中身がからっぽなキャロルと。
やっとわかった気がした。キャロルは人の気持ちが分からない。
人としての感情も愛情も理解できてないんだ。
クラレンスのリリーに対する愛情。ご両親は処刑され、自身は行方をくらましてしまったリリーを心配する気持ちも……。
「もっと……」
私は、キャロルの言葉をフォローしようとしてやめた。
目の前の、クラレンスを見て、以前、病院の廊下で父や母の嘆き悲しむ姿を見てしまったときの事を思い出す。
クラレンスは、泣いてなんかいない。
私の両親も、私の前では笑っていた。
私も……不安な気持ちを押し殺して笑っていた。
こういう気持ちがキャロルには分からなかったんだ。
私は椅子から立ち上がり、クラレンスの頭を抱きしめた。
不安な時、母がしてくれていたように、優しく背中を撫でながら……。
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