第18話 クラレンス殿下の立ち直り

「なっ、何をする」

 私の腕の中で固まっていたクラレンスが、椅子ごと飛び退いたもんだから、ひっくり返りそうになっている。

 私もその反動で、勢いよく椅子に座る形になった。良かった、後ろに椅子があって。


「何って……抱っこ?」

 クラレンスが真っ赤になっている。

 そりゃあね。大人の男の人が、子ども扱いで抱っこされたら恥ずかしいだろうけどさ。

「だっ。だっだっ……」

 真っ赤になったまま、私を指さして言ってる。

 もしかしたら、壊れた?

「キ……キャロル嬢? 一体、どうして」

 ダグラスもうろたえてるみたい。もしかしたら、王族の子どもって抱っこされないで育ってる? それとも、私がキャロルだから?


「だって、辛そうだったから」

 私がそう言ったら、二人が微妙な顔になった。

「平気になったらダメなんだと思うのですよ。こういう事は……」

 人が多すぎて、これ以上の事は言えない。


「仕方が無いだろう? 自業自得だ」

 先に口を開いたのはダグラスだった。

「もっと穏便な方法があったのに。バカがブライアントの思惑に乗りやがって。本当に自分の娘ごときが、王妃になれるとでも思っていたのか」

 容赦ないな。と言うか、ブライアント伯爵の思惑だったんだ。

「リリーだって、本当にあんたの事を好きだったのかどうか」

「うるさいっ」

 いきなりの大声で、体がビクッとなった。まだ、いきなり怒鳴られたら怖くて体が震えてしまう。


「大声出すなよ。キャロル嬢の前で。だいたい、そこで怒るって事は、あんたも本当はそうじゃないかと思っているって事だろ?」

 なんだか、二人してにらみ合ってるけど。ケンカになったら誰か止めてくれるのかな?


「どちらにしろ、もうすんだことだ」

 クラレンスは、ため息交じりにそう言った。そして私の方を見て

「大声出して、すまなかった」

 とだけ、言った。




 私たちの訪問から、数日後。

 クラレンスは、通常の公務に戻って行った。

 表面的には、立ち直ったように見える。

 社交界では、色々な憶測が飛び交っているけど、それに対し、クラレンスはにこやかに対応していた。


 主な噂は、私との事。

 もう、私が王妃になる事は決まっているので、お相手はどなたになるのだろうという、無責任なもの。私のお相手は、必然的に国王陛下になるので、皆様の関心がすごいみたい。


 今のところ、最有力候補がクリス殿下だなんて……なんなのよって感じだわ。

 まぁ、クラレンスと正式に婚約破棄が決まってしまったら、そうなるのでしょうけど。

 何せ、同じ王妃から生まれているから。

 クラレンスにとっては、リリーとの関係もマイナス要素になっていた。



 でも、さすが、私にアドバイスくれた事だけは、あると思う。

 こんな逆境の中、クラレンスは平然と夜会に参加している。にこやかにひどい噂話をかわし、時に反撃している。メンタルの強さは半端じゃない。

 この日の夜会。私はずっとクラレンスに張り付いていた。


「なんなんだ。人の周りをちょこまかと……。お前には、お前の仕事があるだろう」

 とうとうクラレンスに言われてしまった。

「つい」

「つい?」

 クラレンスが怪訝そうに聞く。

「わたくしが側にいた方が、噂が早く消えるかなと思いまして」

「アホか。さっさと女性陣の方へ行ってこい。挨拶をしておかないと後々面倒な奴とかいるだろ?」

 いや、もう言い方が子どもに対するものになってる。

 正論なんだけどさ。

 現王妃のご実家の公爵夫人とか、姉妹の方々とか……他にもたくさんいますけどね。


 社交って、キャロルのスキルがあっても慣れないけど。

 仕方が無い。行ってくるか。

 

 クラレンスから離れて、私はムーアクロフト公爵夫人の方へ向かって行った。

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