第15話 リオンお兄様とキャロルと秘密の話

「なんだか最近、王宮内で変な噂が立っていてね」

 家でお茶を飲んでいたら、兄のリオンが王宮から持ち帰った噂を私に話してきた。

 侍女たちが、リオンの席を作っている。

「噂って何ですの?」

 私は少しずつ、キャロルのスキルを使いこなせるように頑張ってた。スキルって言っても、キャロルの記憶と体に染みついた立ち振る舞いの事だけど。


「キャロルが王妃確定で、殿下方の中から婚約者を選びなおせるという噂だよ。王太子殿下との婚約破棄も無効になったというのに……」

「お兄様。どなたがそんな噂を……」

 貴族の間で広まる噂は、たいていの場合。ふんわり広まって、誰が出どこか分からない様になっている。訊いても無駄だとわかってるんだけどつい訊いてしまった。


「王宮でも噂されているけど、直接聞いたのはクリス殿下かなぁ。先ほど、謁見が叶って色々お話をさせて頂いたんだよ。今まで、引きこもっていた分、いろんな人にお会いしているみたいだね」

「クリス殿下が……」

 どういうつもりなんだろう、そんな噂流して……。

 普通ならありえない噂なのに。

 

「夜会でも、少し気になる発言をされていただろう? キャロルはあの中心にいたっけ。結局、あの後ブライアント家はお取り潰しになったし」

「行方不明の方々は……」

「ああ。表向きはそうなっているね。だが、キャロルが気にする事では無いよ。あそこには、散々イヤな思いをさせられてたんだから」

 リオンも知ってるんだ。その後、どうなったか。


 あれからクラレンスには、会っていない。

 賢者の間から帰る時も、王族の生活空間には立ち寄らなかったから。


 そういえば、クラレンスルートでゲームのヒロインが好感度を上げれず、バッドエンドになる結末があったっけ。

 誰かの怒りを買って行方が分からなくなって、後から遺体がとか……いうものがあった気がする。

 ゲームの中のクラレンスは変わり果てた姿のリリーを見て、もう少し自分が親身になってあげてたらと後悔するんだよね。好感度低いから、あまり深刻にならないけど。


 もしかしたらこの世界って、そのバッドエンドの後の世界なんじゃないのかな。


 だって、ハッピーエンドだったら、ヒロインが王妃になるもの。

 そしてクリスはリリーの行方を知らないって、処刑する朝に居なくなっていたって言ってた。

 このまま放置してたら、ゲームの様にリリーはどこかで死んでしまう?


 だからって、私に何が出来るの? だれか頭の良い人、プリーズ。


「なに百面相してるんだよ。キャロル」

 目の前にいた、頭の良い人。だって次期宰相様だよ。知識だけでなく、頭が良く無いとなれない職業だよね。

 ……ただ、ね。どうなんだろう。話通じるかなぁ。


「お兄様。これからお話することを、他の誰にも言わないでくれますか?」

 私がそう言うと、リオンは露骨に怪訝そうな顔をした。

「内容によるけど……何の話?」

 ものすごく警戒している。王宮にいる時の顔だ。

 これは……失敗したかも。

「何でもないです」

 私はヘラッとごまかすように笑って、話すのをやめた。

 だって、リオンは聞かなかったことにしない。リリーが逃亡していると知ったら、探し出して陛下の前に引きずり出してしまう。そういう立場なんだ。


「聞いてないから、勝手にしゃべれば? 独り言を……」

 聞き流してくれるんだ。ため息吐いてるけど。

「クリス……殿下が、処刑されたのは両親だけで、リリー様は処刑の朝、もういなくなってたって、知らないって言ってました」

 リオンは思わずと言った感じで、紅茶のカップをガチっと音をさせて置いてしまっていた。

 少し顔色が悪い。

「わたくしは、どうしたら良いのでしょう。リリー様を助けるために……」

「答えて良いのかい? 話を聞き流せなくなるけど」

 リオンの顔が怖くなってる。私何か間違えた?

 私が怯えているのに気が付いたのか、すぐに優しい兄の顔に戻ってくれた。


「僕の次期宰相候補という立場は、なかなかに厄介でね。時に宰相と同じ采配を振るわないといけなくなる。僕も国王陛下に忠誠を誓って王宮の仕事をしているんだよ。キャロルは、分かってくれていたと思っていたけど……」

 キャロル? 一瞬で、血の気が引いた。

 リリーを助けるって事は、アシュフィールド家も王命に逆らうという事。

 私、この家を処罰の対象にしてしまうところだったんだ。


「いえ。すみません。わたくしの独り言です」

 体が震える。

「そう? じゃあ、何も聞いてないよ。でもね、キャロル。納得がいかないのかもしれないけど、決まりには必ず理由があるんだ。従わなければならない事も同じだよ」

 そう言いながらリオンは頭を撫でてくれる。

「はい」

 子どもにするように、諭されてしまった。


「さて、あまりサボっているわけにもいかないな。王宮に行くなら一緒に出るようにするけど」

「いえ、今日は自分の部屋で少し考えたいと思います」

 そう? と言って、リオンはサロンを出て行った。


 さっきの事が衝撃的過ぎて、考えがまとまらない。

 だって、どうすれば良いんだろう。下手に動いたら、家も巻き込んじゃう。

 考えれば、考えるほど……う~ん。

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