第14話 ポテチを食べながらする話じゃない気がする

 王室主催のクリスの快気祝いの為の夜会の数日後。

 ブライアント家の領地没収及び爵位返上命令……いわゆる実質上のお家取り潰しが決まった。ブライアント家の人間は皆、行方が分からなくなっているという噂が立ち始めている。


 キャロルは、謁見の間のさらに奥。

 クリスがいるはずの、賢者の間の扉の前に立っていた。

 第二王子の方のクリスじゃないから、ここに来ても仕方が無いかもしれないけど……。

 私の立場で、クリス殿下の私室に行くわけにいかないから、仕方ないよね。

 誰かが聞いたら『何が仕方ないんだ』と突っ込みが入りそうな事を考えながらここにいる。


 それにしても、開かないわね。

 手でどれだけ押しても引いても開かない。「開けて~!」って叫んでもピクリとも反応しない。

 思わず、扉にもたれるように頬を寄せた。

「意地悪しないで、開けてよ。クリス」

 その瞬間、ふわっと光が舞い。扉が開いた。

 すぐ前には、賢者のクリスがいる。


「ずるいなぁ、君は。どこでそんな事を覚えてくるんだろうね」

 促されて中に入ると、今日はちゃんと最初からテーブルと椅子が出ている。

 テーブルの上には、見慣れたお菓子が……。

「何で、ポテチがあるの?」

「え? ユウキの好物だったよね。まぁ、立ち話も何だから座って」

 クリスの言うままに座ったら、お茶を入れてくれた。

 急須から可愛い柄の湯飲みに入れてくれたのは、緑茶だ。


「この世界にも、向こうと同じお菓子とお茶があるんだ……」

「お茶はともかく……このお菓子は無いよ。油を大量に使う揚げ物なんて、貴族でも上位層しか出来ない贅沢だし」

 ふ~ん。そうなんだ。

「だけど、そうだな。僕と居たら向こうと同じ食生活が出来るよ」

「何アピールですか、それ」

 思わず笑ってしまった。社交以外の笑顔なんて、この世界に来て初めてかもしれない。

「僕……というか、第二王子を選んだらって話だよ」

 クリス殿下を選ぶ。この話はそんな話なんだ。


「あの、ブライアント家の、行方不明になった人たちって」

「死んでるよ、両夫妻は……。処刑したから。後は、知らない」

 クリスも私の前に座って、ポテチを食べている。

「知らないって……」

「使用人は、もともと刑罰の対象外だし……。娘の方は、処刑の朝もう牢獄から消えていた」

「なんで処刑なんて」

「悪い前例を作れないからね」

「悪いって」

「だって、賢者って国王ですら忠誠を誓っている存在だろ? で、他の王族貴族は国王に忠誠を誓っている。この前、宰相が言ってたろ? 身命を賭してって。そういう事だよ」

 指先に付いたポテチの油と塩を、ペロッと舐めながらクリスが言った。

 ……緊張感が無くなるな。


「よく分からないです」

「だよね。今の日本じゃ縁がない話だもんね。王命の重さも分からないだろうな」

 う~ん、どうしようって、目の前で悩んでいる。

「ああ、君が読んでいた本の中にあったじゃないか。バレンタインデーの由来※。あれって、自由な結婚のためにバレンタイン司祭が殉職した日だよね」

「そういえば……」

 何かのマンガに載ってた気がする。

「あれだって、王命に逆らって結婚させていたから、国王の怒りを買って処刑されたんだろ? 王命に逆らう人間を放置していたら、誰も言う事をきかなくなって、国が乱れちゃうからね。だから、今回の処置は仕方ないんだよ」

 どうしよう、反論が出来ない。

 ポテチを食べながら軽い感じでするような会話じゃないハズなのに。


「心配しなくても、クラレンスの方は分かってるよ。自分の愚行の結果がどうなったかなんて。自業自得だけど、また君に当たり散らすかもね」

 げっ。ヤダなまたあの人怖くなるのかな。

 そう思っていたら、私の考えを読んだようにクリスが言ってくる。

「良いけどね。我慢できなくなったら言って。もともとクラレンスも一緒に処刑するつもりだったんだから、あの時点で婚約破棄を成立させてね」

 なんだろう。穏やかな笑顔をしているのに、怖い。

 クリスは、穏やかな顔をして恐ろしい事を平気で言う人なんだ。








※バレンタインデーの由来は諸説あります。

 ここでの会話は賢者が王命の説明をするために、由有紀が読んでたマンガの内容を元にしているので、信憑性はかけらもないです。

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