第38話渡りの生き方

 暇、だ。


 必要な斧や鉈に鋸を揃え、木こりを連れた僕たち。


 さあ木を切ろうというそのタイミングで、左腕が上手く動かない僕はリタイヤせざるをえなかった。


 日常生活を送ることは出来るが、両手で力を込める必要のある斧を使うのは少々厳しい。


 そんなわけでやることのなくなった僕は見張りをしている。


 見張りも重要な役割であることは理解しているけれど……暇だ。


「ステータス」


 小さく唱えた僕の目の前に邪神の奇跡が浮かび上がる。



——————————————-



 種族:ゴブリン呪術師

 位階 :部隊長

 状態:通常

 Lv :7/40

 HP  : 180180

 MP :184/184

 攻撃力:43

 防御力:52

 魔法力:65

 素早さ:49

 魔素量:D


 特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv5][仲間を呼ぶ][指示:Lv2][瘴気付与Lv2]


 耐性スキル:[毒耐性Lv1]


 通常スキル:[罠作成:Lv2][槍術:Lv1][剣術:Lv2][無属性魔術Lv2][呪術Lv1]


 称号スキル:[邪神の教徒][同族殺し][狡猾][ゴブリンチーフ][上位種殺しジャイアントキラー]


 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

[無属性魔術]


 無属性の魔術。


[無属性魔術Lv2]


 魔法の矢マジックアロー

消費MP20

 MPを使用することで、任意の地点に向けて魔法の矢を放つ。射程、威力は魔法力に依存。


衝撃波ショックウェーブ

 消費MP25


MPを消費することで任意の地点を中心に小範囲に衝撃を発生させる。


————————————


 新しい魔法きたぁぁぁ。


 でもね、気付くのがこのタイミングってどうなのよ。通知とかつけられないのかな。


 その辺どうなんでしょう?


 ……こないな。流石に邪神自らが来て解説してくれる神対応はないな。……自分でも寒いと思う。


 ま、邪神が来ても困るけど。


 同じく後衛枠として見張り役になっている森神官に話しかけた。


「新しい魔術を授かったようだ」


「本当ですか⁈」


 食い気味な森神官の返答に思わずたじろいだ。


「そ、そうだけど?」


 やばい。油断して素が出てしまった。


 仕方ないじゃん。森神官の目が血走っているんだもん。もんじゃねえょ。


「授かったのはいくつ目ですか?」


「3つ目だ」


「なんとぉ、おっと失礼しました」


 マッドのような瞳のギラつきがふっと消え、いつもの理性的な森神官に戻った。


 が、少なくとも僕だけは理性的な部下の仮面の下を忘れられないだろう。

 

 ぶっちゃけ怖かった。


「魔術を授かるとはそれだけ特殊なことなのです。授かった魔術だけを指して魔法と言うくらいですら」


「普通は授からないのか?」


「ええ、最初に2つか3つ授かることもありますが、基本的には魔術は学ぶものです」


 カンニングペーパーでもあるかのようにスラスラと答える森神官は魔術に熟達して見えた。


 気付いてはいたけど、僕って森神官より弱いんじゃないだろうか。多分そうだ。むしろ僕より弱い方が珍しいまである。


「詳しいんだな」


「私も元は渡りわたりだったんですよ」


「そうなのか?」


 初耳だ。先ほどの魔術への貪欲さを除けば、放浪の生活をするような性格には見えない。


「元いた群れの長と実力が近くなってしまいまして」


 合点のいっていないことを察したのだろう。森神官は続けて口を開く。


「長に魔術を教えてもらっていたのですが、私の方が才能がありましてね」


 ともすれば自慢にも取れる言葉だが、口にする彼は寂しそうだった。


 森の土が嫌に冷たく感じた僕は思わず顔をしかめる。


「気づいた時には、長と殺し合うか、出ていくかしか選択肢がなかったのです」


 強くなって恩師の地位を脅かす存在になってしまったというのか。


「世知辛いな」


 例え野心がなくとも実行できる能力がなければ疑いは避けられない。


 自分より実力があれば嫉妬し、同格の者に対抗心と憎悪を燃やし、格下の者を価値なしと蔑み、上昇を許さない。


 なんとまあ、社会的生物とは因果なものだ。邪神もゴブリンではなく他の生き物に転生させてくれれば良かったのに。


 これでは嫌悪したものから逃げられていないではないか。……嫌悪した?僕が?いつ?前世でだろうか?


「そんな物でしょう。その点この集落は素晴らしい。何せ族長が強いですからね。安心して強くなれる」


 諦観を消した森神官は嬉しそうに微笑む。

 

 ま、族長より強くなるビジョンが浮かばないからな。


「話してる余裕があるならこっちを手伝ってくれよ!」


 夢で見たように現場監督になったゴブリンリーダーは部下たちに混じってキリキリ働きていた。

 

「怒られてしまっな。見張りに戻ろう」


「そうですね」


 肩を竦めて返した森神官に笑って返して、計ったようにタイミングよく現れた現れた大きなトカゲに照準を定める。


衝撃波ショックウェーブ


 期待を裏切らない威力で周りの落ち葉や小石を巻き込み、衝撃波が展開された。


 風に揺らされる木の葉のように吹き飛んだトカゲはピクリとも動かない。


 即死だ。


「これは、中々の威力だな」


 面攻撃というのが特にいい。被弾面積の大きい巨体を相手にすればさらに有効な気がする。


「お見事です」


 パチパチと手を叩く森神官。


「にしても大きいなこのトカゲは」


 僕の腕ほどの体長を持つトカゲ。僕の持っている杖と並べれば杖の方が僅かに短い。


 これは正面から戦っていたら危なかったかもしれないな。


「そうですね。ここまで大きいものはこんな浅い部分にはいないはずですが」


 この集落は森の中層にあるとはいえ、それでも浅い部類だ。従ってあまり強い魔物は少ないのだが……。


 ま、最近の森は物騒だ。何があってもおかしくない。


 とはいえ、安全第一を肝に命じておいた方が良さそうだ。

 

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