第16話獣の唄
深く暗く神の威光の届かない地の果てのその先で、邪神たちは今日も神々を陥れるための策を練っていた。
実行に移すための資源である瘴気は微々たる量しかないのであくまでも計画を練っているだけだが。
「なあ、あれ覚えてる?」
「あれって何だよ」
円卓の一人がふと漏らした言葉に他の邪神が反応する。
「ほら、異世界から召喚したヤツ」
ああ、と邪神たちは手を打った。
ほとんど忘れかかっていたことを知れば、本人、本ゴブは怒り狂うだろう。
「アイツの担当って誰だっけ?」
「私だ」
キメ顔で一人が言葉を発する。
「そうか。で、どうよ?」
「ま、ゴブリンとしては悪くないんじゃないか?まだ生きてるし」
ふーん、と興味なさげに相槌を打つ邪神たち。彼らはそもそも彼に期待していないのだ。
自棄になって打った一手に期待する方がどうかしている。
「あーあ、誰か贄を捧げてくれないかな」
「加護持ちが殺した魂は俺たちの所に来るぞ」
「邪神官はほとんど居ないからな。ゴブリン頼りかー」
「「はぁ」」
世界をより愉快で悲惨にする計画は予算不足により未だ決行されず。
——————————-
「……よって我々の計画は滞りなく遂行されております」
「そうか」
絢爛豪華な玉座の間で一人の文官がティナレの森開発計画の報告をしていた。
ノリの効いた美しく、機能的な官服に薄らと汗が滲んでいる。
ここにいるのは王と、その側近である参議たち。通常、この文官が拝謁を許される身分ではない。
ただ、王国の誇る秀才の一人である彼は立派に職務を全うしていた。
報告内容と臣下の層の厚さで二重に満足した王は鷹揚に頷いて返した。
「諸国の反応は」
王が最近出始めてしまった腹をさすりながら問いかける。
「内々に事を運んだことにより殆どの情報が伝わっていないはずです」
「諸侯は?」
文官は少し考えてから慎重に口を開く。
「直轄領でのことですから領主の方々はほとんどご存知ないはずです」
ふむ、と王は唸ってからチラリと側に控えていた宰相に目を向ける。
宰相は眉間に皺を寄せて問いかけた。
「どれほどの軍を使うつもりだ」
文官は困ったように眉根を下げてに答えた。
「申し訳ありません。私では概算を申し上げることしかできません。兵部省にお聞き為された方がよろしいかと」
「兵部」
王の短い呼び掛けに答えるため兵部卿カステリア公が手元の書類をめくる。
「はい、陛下。今回の目的はあくまでも前線基地の設置ですので技術者や魔術師が必要になります。そうしますとやはり軍務にそれらの護衛も含まれますので、五千は必要でしょう」
「大蔵省の立場で申し上げれば、出来ればもう少し控えていただきたいのですがね」
皮肉げに呟いた大蔵卿に兵部卿が鋭い目を向ける。
「技術者の数が減れば金で解決する問題ではなくなるのですよ」
金で解決しない問題だと?じゃあお前たちの武器だの食い物だのに金を出さなくても良いんだろうな?
大蔵卿とてそう言わないほどの理性は持っているが、自然と語気は荒くなる。
「お言葉ですが、その金が尽きそうだと申し上げているのです。そもそも兵部省が無駄に金を持って行くから」
「無駄だと⁈」
椅子を蹴って立ち上がった兵部卿に押されるように大蔵卿も立ち上がり、
「双方座れ」
水を差された。
今は体型が崩れてしまっているが若い頃は『紅い牡鹿』の名で知られた王の一喝は二人を抑えて有り余る力があった。
ゆっくりと椅子に座った二人に目もくれず王は、ホーバルウルト家の誇る大王カルドランは、文官に声をかけた。
「そのまま計画を進めよ」
「はっ」
深々と頭を下げて退出する文官を眺めながら王は口の中で呟いた。
「なにごともなければ良いのだが」
——————————————
あとがき
まずはここまで読んでくださった皆様に感謝とともに一章の終了としたいと思います。
今後とも本作品をよろしくお願いします。
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