ティナレの森戦記

第17話新章

「槍隊構え!」


 走ってきたゴブリンが隊列の後ろに隠れると同時に地面に倒していた木製の槍を持ち上げて槍衾を形成した。 


 槍と言っても木を削っただけなので大した攻撃力があるわけではない。  


 地響きのような足音とともに四足しそくの獣が茂みから飛び出してきた。もののけ姫に出てきたような巨大な猪だ。

 軽トラ並の重量がありそうなそれは、ともすればこの前集落に出没した猪より大きいかもしれない。


 そんな猪は突然現れた槍衾を前に一瞬躊躇うが、


「ブゴゴコォォオォォォォォォォォ!」

 

 と鼓膜が破れそうになる程大きく咆哮しそのまま進み出た。


 もう一度言おう。木製の槍衾にはそれほどの攻撃力はない。が——敵を前に躊躇いを見せた間抜けな猪を一匹、串刺しにして紅い花を咲かせるには充分すぎる威力だった。


「ふむ。形になってきたな」


「ええ、お陰様で」


 満足げに顎を撫でている族長に頷いて返した。


 狩に同行し始めてから三日。簡単な、ごくごく簡単な作戦を献じるだけで族長の評価は大分上がってきた気がする。


 しかし、


「はっ、わざわざ面倒な事をせずとも、槍の一撃で仕留めればいいものを」


 まあ、それをできる力があるならその方が確かに簡単なことは否定できないな。わざわざ言うことかよ、とは思うけど。


 わかりやすく言うと僕はほかのゴブリンから嫌われている。この蠱毒のような集落を生き抜いてきたゴブリン達からしてみれば「ぽっと出が調子に乗るな」という考えになっているらしい。


 まあ、それは別に構わない。行動を起こさなければ捨て駒として消費されただろうし。なにここ地獄?殺伐としすぎじゃない?人間界かよ。


 出る杭は打たれるのはどこでも同じなようだ。この杭は打ってきた相手を自動で十字架に打ちとめる機能付きなので要注意。


 あ、そう言えば。


「ステータス」


—————————————

 種族:ハイゴブリン

 位階 : 精鋭

 状態:通常

 Lv :3/25

 HP  : 78/78

 MP :24/24

 攻撃力:34

 防御力:30

 魔法力:27

 素早さ:25

 魔素量:D


 特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv2]

[仲間を呼ぶ]


 耐性スキル:


 通常スキル:[罠作成:Lv1][槍術:Lv1][剣術:Lv2]


 称号スキル:[邪神の教徒][同族殺し][狡猾]


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[ハイゴブリン]


 経験を積んだゴブリンが至る種族。ある程度高度な指示を理解する知能があるが、その能力はゴブリンの域を出ないので、補充が効き、すぐに新たに生まれるため、失ってもいい戦力として重用される。

一部の個体は群れの長となることもある。


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説明が辛口すぎて思わず「あー、わかるわかる。タワーディフェンス系のゲームで地味に使えるやつ」と納得してしまった。納得するのかよ。ちなみに僕はそのユニットを肉壁として重用していた。スタッフがおいしく使わせていただきました。



 何の反応も示さない僕にフンッと高圧的に鼻を鳴らすとゴブリンは大股で仲間たちのもとに歩き去って行った。


「嫌われているようだな」


 族長のからかうような言葉に「そうですね」とだけ返した。


 いやー、普通のゴブリンでもある程度まで進化すると中々複雑な感情を抱くものらしい。変に思われるかもしれないがそのくらいの思いしか持っていなかった。


 それより気になるのは……族長の横顔をチラリと伺った。楽しそう、なのだとは思うがそれ以外のことはわからない。


 族長は、僕より二回か三回多く進化しているであろう彼らよりもさらに進化している彼はかなりの知能を誇っているだろう。


 自然、一触即発とまではいかないものの、僕のいつリンチを受けてもおかしくない状況を察しているはずだ。それでも動かないのは僕をいつ失っても惜しくない部下だと思っているのか、それとも案外肝が小さいのか。


 まあいい、どちらにせよいずれ対処すべきなのは変わらない。


 さしあたっては他の集落との戦争か。なんにせよ死力を尽くして戦うほかない。


 全ては生き残るために。

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