第12話剣を振る音
血の臭いが香る現場から逃げ出したは良いものの……なんか僕人殺しっぽくない?まあ似たようなもんかもだけどさ。
それはいいとして、とにかく略奪品が運び難いことこの上ない。
少々錆び付いている金属製——多分鉄の剣が三振り防具が数点、そして作りの悪い弓一つに矢が十数本。携帯食料の類はささっと食べてしまった。
鞘はボロボロながらまだ使えそうなので良いとしても矢と弓とともに抱えた状態なのは頂けない。
「さてと、この辺りでいいかな」
なにもいなさそうな崖の窪みに身を潜める。
戦利品を運び易くするためには木の皮を薄く剥いで縛るのがいいと思う。
でも襲われたときのために一本選んで手持ちの武器にするべきだ。
三本の剣を抜き放った。
どれも基本的なロングソードに見える。
「これは長すぎるな」
長すぎて、重すぎる。逆に剣に振り回されてしまうだろう。
「あとの二本は……」
うん、剣の良し悪しなんてわからない。どっちも同じくらいの大きさで同じくらい錆びている。
でも、自作の石槍でこれらを持った敵に勝てるビジョンは浮かばない。一撃で柄を折られてそのままバッサリやられる。
となると、下っ端で装備が整っていない二匹のみが生き残ったのは幸運だった。
これで僕の装備を整えられる。あっそういえば。
「ステータス」
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種族:ゴブリン
位階 : 新兵
状態:通常
Lv :7/15
HP :8/43
MP :2/18
攻撃力:20
防御力:16
魔法力:11
素早さ:14
魔素量:F
特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv2]
[仲間を呼ぶ]
耐性スキル:
通常スキル:[罠作成:Lv1][槍術:Lv1]
称号スキル:[邪神の教徒][同族殺し]
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「……ぉぉおおおお‼︎」
メッッチャ上がってる。
というかHPの上限値が上がりすぎて今瀕死に見えるのはなぜ。
いや瀕死でいいのか。何せ元''戦力的価値を有さない''だからな。……なんかそう考えたら泣けて来た。
あと同族殺しって。確かにそうだけどさ。
それもいいとしよう。過去は振り返らない主義だ。うん、トラウマは忘れよう。
だー、もういい。取り敢えず左にある剣を掴んでコボルトの皮で作ったベルトに吊るす。
大分バランスが悪いが無視だ無視。
武器に満足して僕は防具の整理に取り掛かった。
肩にかけるタイプのよく世紀末の住人が付けたそうなヤツ、アメフトのショルダーパットの方が分かりやすいかもしれない。
唯一の肩から心臓にかけてを守る所々に鉄の使われた革製のそれをまず身に纏った。
あまりサイズのズレはないようだ。ちょっと大きいが問題はない。少々動きにくいがまあ仕方ない。
腹部を守る物をサイズを見て選択し、膝を布で包み靴を手に入れた。
兜の類は損耗が激しく申し訳程度に厚めの布で頭を覆うだけだ。
川まで歩いて水飲みがてら自分を眺める。そういえば水筒もようやく手に入れた。
そこには……ボロボロながら防具を持ったゴブリンがいた。
そういえばこんなゴブリンいたなー。序盤なのにドロップ品が良くて結構狩ってたっけ。
え?なにそれ悲しすぎない?雑魚敵から美味しい雑魚敵にランクアップした!みたいな。切なすぎるだろ僕のゴフ生。
悲しさをぶつけるため視界に入った
呑気に草を食む茶色いウサギは庇護欲をそそられるが仕方ない、夕飯兼八つ当たりになりやがれ!
ウサギはその鋭敏な耳で僕を感知したのかクルリと振り返るがもう遅い。
ウサギの退路を予想して剣を振るった。レベルアップの効果は僕の期待を裏切らずゴブ生最高の一撃をもたらす。
「ガギャギャャャャ(オラァぁぁ)」
そして、剣撃は空を切り、腹部を強烈な衝撃が襲った。
「グギャ」
悲鳴がグギャってそりゃないだろ。
現実逃避がてそんなことを考えつつ力の苦し紛れの蹴りを放つ。
直撃はしなかったものの、牽制程度には働いたのか、ウサギが距離を取った。
いやね、おかしいとは思ってたのよ。角あるし、目が赤いし。
でもさ、あのゴブリン二匹よりウサギの方が強いなんて考えなかったとしても僕のミスじゃないと思う。
もういい。何よりも先にこのウサギには死んでもらおう。
右の手の甲に四つ突きでた関節の裏側に、持ち手のへりを合わせて、親指を立てて持つ。盾があればなのいいのだがないので左手は暇である。
ドイツ剣術ではこれが正しい持ち方だった筈だ。たぶん、きっと、めいびー。
「グギャャャ」
怒声と共に剣を振り下ろすが、遅い。が、まだ終わりじゃない。飛び退いたウサギ目掛けてガムシャラな連撃を放つ。
息のつく間もない攻防は終始ウサギが有利だった。
しかし、嗚呼、しないな。しない。
負ける気がしないっ!(ゴブリンVSウサギです)
リーチが違うのだ。ウサギの攻撃手段は蹴りのみ、対してこちらには剣がある。
いくらウサギが素早かろうと剣の間合いを取り続ければ負けはしない。それに気付くまでに数発食らったが、防具のおかげで致命傷ではない。
さあ、終わりだ。
引きずるように剣を振るった。それを避けるためかウサギが飛び上がる。
予想通りだ。このままだと僕は確実に蹴りを喰らうが。耐えてウサギが地に足を付ける前に一撃を加える。
果たして…ウサギは僕の剣を握る手を踏み台にしてもう一度跳躍しその角を前にして、僕の目のほんの少し下を抉った。
そうかっ!ウサギの武器は蹴りだけじゃなかったのか!
実に見事な戦いだった。ウサギは最後の最後まで角を隠しておいたのだ。
しかし、終わりだ。
ウサギを左手で鷲掴みにする。残念ながら身を捩るウサギを抑えられるほどの握力はない。
だが、剣を振り上げるには十分な時間だった。
ウサギが諦めたように目を閉じた気がした。さらばウサギよ。僕の糧になってくれ。
「グギィィィィ」
耳に残る風切り音とととに、右手に握った剣がウサギを切り裂いた。
倒れたウサギが音を立てることはない。
その場に響くのは僕の荒い息の音だけ。実に静かな勝利だった。
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