第11話戦いの足音

ゴブリンを殺すゴブリン。


「なっっ」


 同族を殺すのは人間だけだ、などと賢し気にのたまうお花畑どもと違い僕は現実受け止める大人を標榜している。


 事実、同族と殺し合う生物は非常に多い。弱いくせに血の気の多いゴブリンであれば縄張りに踏み込めば即座に戦いになるだろう。


 が、衝撃は隠せなかった。


 慌てて声を潜めた。


 状況を把握しなければ。


 倒れているゴブリンの内いく匹かは多分同じ集落のゴブリンに間違いない。


 対して、いまだ立っているゴブリンたちの顔に見覚えはない。殺しに発展した可能性としては様々なことが考えられる。


 取り分で揉めた。これが多分最有力候補だ。金銭トラブルは古くから厄介な争いを引き起こして来た。


 まあ、僕レベルのモンスターになるとその場で作れる程度の物しか持ってないから、争いは生まれないんだけど。もう世界史的に超ガンジー。


 あとは、タチの悪いはぐれにでも遭遇したか。

 はぐれというのはゴブスレさんから学んだ言葉で群れを追放されたか、滅ぼされて行くところがなくなったゴブリンのことだ。


 ま、流賊に絡まれたようなものだ。


 それはいいとしても、ボスが追放らしきことをしていたのを見たことがあるのでこれもありそうだ。


 あとは……別の群れか。これが一番まずい。


 とにかく、調べる必要がある。


 相手に大型種はいないし、まだ立っているのは棍棒を構えた二匹だけだ。充分に戦える。


 静かにゴブリンの死体を漁っている二匹の後ろに回り込み石槍の最適な間合い(多分)をとる。


 槍の間合いなんて知らないよ。


「ギギャガキャ(お疲れ様)」


 内心に反して僕の声は驚くほど落ち着いていた。


 両方のゴブリンが振り向いたが、興味が湧かなかったのか、片方はすぐに死体漁りに戻った。


「ギャギ(お前、誰だ)」


 ゴブリンの声は疑問の色があったがあまり警戒していないように思う。


 地方都市で昼間からナンパされた女の子程度。あれ?それ結構警戒してない?


「クギギャキキ(あの方の使いだよ)」


 ゴブリンが考え込むような仕草をした。


心臓が100メートル走り切った時のように危険な音を立てている。


 少々記憶が曖昧なせいで確信はないが棍棒で殴られるほどアウトローな生活をして来なかった。


 出来れば、痛いのは勘弁。


 ゴブリンの表情を読むのは不得意なのだが、このゴブリンはどうだろうか。僕の緊張の表情が読まれないことを願うほかない。


 ゴブリンの考えていた時間はどれほどだったか。何時間もかかったように感じたがほんの数秒だったようにも思う。 


 とにかく、僕が先制攻撃を繰り出す前に終わったことは確かだ。


「ギャギ、クギガガカキ(そうか、敵の縄張りはこの辺りまでだったぞ) 」


 ちょっと待てよ。


 情報が多すぎるぞ。敵?縄張り?つまりこいつらは群れの存在を知っていて縄張りを侵したのか?偵察か。


「クガ、キギャギギックゴカギ(そうかい。参考までに君の素晴らしい武勇伝を聞かせてくれないかい?)」


 僕がそう聞くと小鬼は満更でもなさそうに語り始めた。


「ギゴガギギギ(まず俺様たちは)」


 そこからふんふん、なんだって、知らなかった!をキャバ嬢のように適当に使い回して得たのは少なくとも僕にとっては垂涎の情報だった。


 ゴブリンのはっきりしない説明に憶測を重ねたものだが、今の森のゴブリン事情はこうだ。


 理由は定かでないが、南東から魔物たちが流れて来たせいで縄張りを管理しきれなくなった彼らは北上することを選んだそうだ。


 なるほど、ふーんそうなのね。うん。クソまずいじゃねえか。


 詰まるところこのゴブリンたちの群れを片付けても、根本的な解決を図らない限り敵はワンコそばの如く無限に増えていく。


 腹が満ちても終わらないのだ。腹が破れれば終わるかもしれないけど。


「ギガギャギクギガ(それはそれは、さすがゴブリンの勇者だ)」


 得意げに鼻を鳴らすゴブリンを手を叩いて褒め讃える。


 さて、どうしようか。敵の拠点の大まかな方向は掴めた。これ以上深入りすれば逃げられなくなるだろう。


 ならば、先制攻撃を仕掛ける。


「あれ、なーんだ」

「「ギガ?」」


 間抜けにも僕が指差す方向を向いたゴブリンの無防備な後頭部に石槍を叩き込む。


「グギャャャ!」


 甲高い悲鳴を上げたゴブリンをもう片方に向けて蹴り飛ばした。死体漁りをしていたゴブリンは避けきれずに倒れ込んだ。


 目が合った。瞳と瞳で睨み合う。


 ゴブリンは間髪入れずに剣に手を伸ばしたが僕が槍を振るう方が早い。


 グシャリという嫌な音と共に一瞬心に苦みが走る。


 唇を強く噛みしめ、ゴブリンの死体から使えそうな物を手早く回収する。


 殺しに、盗み、か。


 罪悪感も良心の呵責なるものもないではない。

 ただ胸を占めるのは寂しさにも似た感情、単純に言うならばなんだか怪物になった気分だった。


 だが、全て飲み下した。今はそんなことをしている場合ではない。


 北にコボルト、南にゴブリン、西は森が深く、東はーーあれ?なぜ東を避けていたんだっけ。


 突如僕は頭痛に襲われた。


『今はまだ早い』『目を逸らせ』『受け入れよ』『いずれ来る日まで』


 潮のように頭痛が引いていく。


 なんなんだよ、今のは。僕の風邪に狙いを決めてくれる薬はないんだぞ。


 まあいい。これも含めて早く少しでも思考に時間を裂ける場所に戻らなければ。


————————————————


種族:ゴブリン

 位階 : 新兵

 状態:通常

 Lv :1/15

 HP :9/9

 MP :2/2

 攻撃力:9

 防御力:7

 魔法力:3

 素早さ:7

 魔素量:F


 特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv2]

[仲間を呼ぶ]


 耐性スキル:


 通常スキル:[罠作成:Lv1]


 称号スキル:[邪神の教徒]


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