第10話進化

 闇の中にいた。暗い、昏い場所にいた。


 暖かく包み込む夜闇ではなく、もっと粘着質で悍しい闇。


 自分と闇との境界は曖昧で常に変化している。


 見られている。そう感じた。見ているとも感じた。自分が溶けていく恐怖。


 ニタニタと悪意に満ちた笑顔と視線。


しかし、いくら探ってもそれらを僕に送っている者は見つからない。


 奇妙な気分だった。喝采と、侮蔑と、嘲笑と。それらが混じり合い、一つになり僕をーーー



「っっっ!」


 跳ね起きた勢いで辺りを見回すがそろそろ慣れて来た光景のみが目に映る。


 あばら屋の中でゴブリンたちが雑魚寝している光景はいつも通りだった。


 最近の僕の気に入らない日常は何もなかったかのようだ。


しかし、


「ふぅふぅふぅ」


 

 鼓動が激しく脈打っていた。この鼓動とありえないほどの恐怖が僕の錯覚ではないと教えてくれる。


 なんなんだあの場所は。奈落、深淵、はたまた地獄。


 そんな言葉が脳裏をかすめるがどれも適当でない気がする。


 だからだろうか。どうにも体に違和感を感じる。


 ん?起き上がってみればどうやら、身長が伸びていたようだ。


 成長期、じゃないよね。


 元々1メートルを超えたか超えないかぐらいの身長だったが、今は120センチは確実にあるだろう。


 幅も広くなったせいか、腰布がはだけで非常に不快だ。


  良くなった点は傷が治ったことぐらいだ。


 まあ、それは後でいい。


「ステータス」




————————————————


種族:ゴブリン

 位階 : 新兵

 状態:通常

 Lv :1/15

 HP :9/9

 MP :2/2

 攻撃力:9

 防御力:7

 魔法力:3

 素早さ:7

 魔素量:F


 特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv2]

[仲間を呼ぶ]


 耐性スキル:


 通常スキル:[罠作成:Lv1]


 称号スキル:[邪神の教徒]


 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「おおぉー」


 あんまり変わってない。というか所々退化している気がする。


 あれ?邪神の加護のレベル上がってない?絶対に気のせいではない。


 そして仲間を呼ぶって、定番の雑魚ムーブなのでは⁈

 ちょっと強くなったかもしれないけど雑魚キャラ度が上がったのかよ!


 待てよ、現状ソロの僕に仲間などいないのでは。そっか、ボッチだからそもそも呼ぶ仲間がいないのか。


 ワー、ヨカッタナー。


 目から汗が。


 くっ、別に寂しくなんてないんだからねっ。ゴブリンなんかいても気分が下がるだけだからっ。


 孤独耐性とか獲得しないかな。


 まあいい。狩に行こう。


 登り始めた朝日と共に僕は南に繰り出した。


 北は前回死にかけたし東西は論外。なので今回は南に行く。


 さてと。まず今回の第一の目標は食料調達だ。次にレベル上げ、最後に情報収集となる。


 前回作った石槍1号は折れてしまったので手早く二号を作る。指が長くなったせいかスルスルと石槍を作れる。


 素振りでもしてみようかな。


 ヒュッンという軽い風切り音と共に前回とは比べものにならない安定した軌道で槍が振るわれた。


 単純に体重ウェイトが上がったせいか、腕の長さリーチが伸びたせいなのかはわからないけど、どうやらステータスに表れていない部分での発展がある模様。


 「あーあ、これなら槍でも習うべきだったな」


 前世ほど安全で時間があれば適当に道場をググって電話をすれば良かったが今はどうすればいいんだろう。


 「ゴブリンに技術なんてあんのかね」


 あるかもしれないがよほどの馬鹿でない限り渡さないに違いない。


 産油国が石油を流出させなければ叩き潰されるが、先進国が技術を秘匿しても問題にならない。


 詰まるところ結局交渉の舞台に立つにはある程度対等でなければならないということ。


 そんなことは今はいい。


 それよりも、


「ャ•••キャ•••」


 微かな悲鳴が耳朶を打った。


ゴブリン特有の耳を動かしてギリギリ聞こえるレベルの小さな音だ。


 厄介事か、それとも漁夫の利のチャンスか。


 挑戦がなければ前に進めない。少なくとも尋常なやり方では目的は遂げられない。


 だからこそ、見ておかなくてはならない。


そこにいたのは果たしてーー

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