第9話族長
瞬く間にミンチになったかつて猪だったモノのたてる、血の滴る音だけがその場を支配していた。
その沈黙を破ることが出来るのはそのゴブリン一匹だけ。
そのゴブリンは猪だったモノに近づき巨大な斧を拾い上げた。
「で、どういうことだ」
呟くように発されたゴブリン語が金縛りから解く魔法の呪文であるかのように他のゴブリンたちが動き始めた。
「は、はい。どうやらこの猪が巣に迷い込んだようで」
威勢よく同胞を死地に送っていた術師がオドオドと答えた。
「そうか」とだけ呟いてボスは狩に付いていた者に斧を持たせ、一番大きな建物に向かって歩き出した。
慌てて続く大型のゴブリンたちを僕は無言で見送った。
なんなんだあの化け物は。あれがゴブリン?冗談じゃない。
何一つ動きが見えなかった。
地面に転がっているコボルトの首を蹴飛ばす。あれほど輝かしい武器に思えたモノがもはや食べることすらできない肉の塊に思えて仕方がない。
これはマズい。僕の想像より遥かにゴブリンの集落、いや街は強大だった。
圧倒的な物量に加え大型のゴブリンのつよさ。一筋縄では行かない。
知恵を絞らなければ、こちらが縄に締め付けられる。
いいよ、いいよ。面白いじゃない。
ただのゴブリンなら全てを絞り尽くされるしないだろう。
しかし、残念ながら、僕はただのゴブリンじゃない。
思考学的に発達した世界の知識がある。合理的思考と感情を支配する術を持てばいい。
どうする僕。唯一信じられるのも、有用なのも君だけだ。
片付けを始めるゴブリンたちを尻目に僕は森の外へと歩き出す。もっとレベルを上げなければ知恵を発揮する機会すら得られない。
「ステータス」
種族:リトルゴブリン
位階 : 新兵ニュービー
状態:進化可能
Lv :5/5
HP :9/9
MP :2/2
攻撃力:8
防御力:8
魔法力:2
素早さ:10
魔素量:G
特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv1]
耐性スキル:
通常スキル:[罠作成:Lv1]
称号スキル:[邪神の教徒]
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「レベルが上がっている⁈」
なんでだ?僕はモンスターを倒した訳でも……待てよ。猪の分の経験値?が僕にも入ったのか?
そもそもレベルってなんだよ。意味がわからない。どこからそんな概念が出来たんだ?
全くわからない。
ま、いっか。考えていても深みに嵌るだけだ。
「よし、シンプルに考えよう」
レベル諸々は受け入れるとして進化ってのが気になる。
タップしてみるか。
「……」
「ギギャャッッギッッ」
何もない虚空で腕を走らせている僕をゴブリンが嘲笑っていた。
ま、まあ?VRではないのだ。それにこれは未知の力、失敗はつきものだ。そう、別に恥ずかしくない。恥ずかしくなくて、めちゃくちゃ恥ずかしい。
その指へし折るぞゴブリン。
実際そんなことをしたらこっちがボコボコにされるので黙っておく。
力をつけるか、ボスの威を借りるか、方法はわからないがあのゴブリンより上に立って必ず後悔させてやる。
まあいい、それは後で考えよう。
この辺りは集落の外れだ。また変なのが来ては敵わない。
今住んでいるのは粗末な荒屋だが、屋根はあるし同胞にくへきはいる。
みすぼらしい木の扉を開けると騒々しい、耳障りな甲高い話し声と独特の悪臭、それに新顔が見つかった。
そして、同世代のゴブリンが何匹かいなくなっている。まあ、見間違いかもしれないが。
隅の方に腰を下ろし、壁に背中を付けた。
「ステータス」
種族:リトルゴブリン
位階 : 新兵
状態:進化可能
Lv :5/5
HP :9/9
MP :2/2
攻撃力:8
防御力:8
魔法力:2
素早さ:10
魔素量:G
特性スキル:[成長率向上][邪神の加護:Lv1]
耐性スキル:
通常スキル:[罠作成:Lv1]
称号スキル:[邪神の教徒]
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
進化、頼む。
『進化の意思を確認』
は?
『進化先を表示します』
ステータス画面が切り替わる。
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現在
《リトルゴブリン》
概要
ゴブリンの幼体。戦力的価値を有さない。
《ゴブリン》
概要
一般的な亜人の魔物であり、一体一体の脅威度は低いが群れると非常に危険。また、旧魔王軍において使い捨て兵員兼非常食として高く評価されていた。
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使い捨て兵員兼非常食ってひどくないか?
ねえ?酷いよな?
リトルゴブリンも大分ひどい。なに、戦力的価値を有さないって。
一択か、これ。
スクロールさせても他の候補が写る様子はないので多分一択だ。
……純粋に嫌なんだけど。
これはあれか?我らが邪神様は僕にやれやれ系の主人公になって欲しいのか?
やれやれ、これだから勤労は。とか?ただの穀潰しじゃねえか。
はあ、仕方ないか。
明後日の方向に向かった思考を矯正する。
決めたゴブリンに進化しよう。
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