第6話ケモミミ?いや、違う!
北の森に向けて慎重に歩く。道端にある果実は今回は食べないことにした。毒かどうかなんてわからないしね。
「剣が欲しいな」
と、そのゴブリンはゴブリンらしくない望みを口にする。
が、実際そうなのである。剣とは言わないまでも、ナイフ一本あるだけでかなり生活が変わる。
サバイバルでナイフが重宝されるのにも納得だ。
さて、なにか良さそうな獲物はいないかな。出来れば生きている兎を一匹捕まえたい。兎とゴブリンの食性は違うだろうけど、実験動物がいれば果実を食べられるようになる。つまり、毒味役だ。
それがダメなら味も美味しいメタルスライムがいいな。
下らないことを考えながらも、ゴブリンの鋭い視力でもって、森を歩き回っていると、犬の鳴き声が聞こえた。
知らず知らずのうちにニヤリといやらしい笑みを浮かべていた。なんとも幸運だ。犬ほど忠実な獣はいない。猟犬の育て方なんてわからないが、普通に育てても良いかもしれないな。
とはいえ、群れた野犬に襲われると多分呆気なく死ぬ。群れてなくても死ぬけど。
ナメクジに塩を振ったレベル。なんで小学生ってああいう残酷なことを平然とやれるのかね。僕もやったけど。ナメクジは水をかけると復活することを知った。
足音を出来る限り殺して犬のいそうな茂みに向かう。
はたしてそこに居たのは……犬と言えなくもない。
ファンタジー的に言えば
大分顔は醜いが、確かに犬だ。所々はげた毛、血走った目に、荒い鼻息、ダラダラと涎を垂らしている。
うん、あれは犬じゃない。およそ人が犬と聞いて思い浮かべるものとはほど遠い。
唾を吐きたい気分だった。ケモ耳美少女とのラブコメを期待した僕に謝るべきだ。死んで、
まて、まて、僕はそこまで考えて、槍を振り上げた右腕を掴む。
僕はこんなに野蛮な人間だったか?そうだ。平和、ピース、いい言葉じゃないか。
進歩、いい言葉だ。
どこぞの世界の3分の一以上を支配した帝国の技官の言葉を思い出した。
さて、どうしよう。本能は殺せと訴えているが、そもそも僕はコボルトに勝てるだろうか。問題はそこだけだ。
お互いを見比べてみる。こちらは小学生ほどの未発達な矮躯に、粗末な石槍。対して、あちらは、戦うために発達した筋肉に鋭い牙、そして手に持つ棍棒だけでなく、その爪も脅威になるだろう。
結論、勝てない。うん、実に単純明快だ。嫌いじゃないぜ。
“戦え”戦え”戦え”
さっきから誰だか知らないがそんなに戦いたいなら自分で戦え。僕はごめんだね。
ゆっくりと後ずさる。コボルトから目を離すことは出来なかった。そして当然の帰結としてポキリと、枝の折れる音がする。
あちゃー、そう呻きたい気分だった。こんなミス古い映画でしか見たことがない。馬鹿なことはせずに周りにもっと注意すべきだった。
大物密輸人でも反乱軍の将軍でもない僕は直接対決では勝てないのだ。
音に反応したコボルトが、耳障りな呼吸音と共に鼻をヒクヒクと動かす。
僕を探している。そう思うと焦りが募る。
逃げなければ、いや待て、逃げ切れるか?
無理、だろう。足の形からして四足歩行も出来ると見えた。
ならば二足歩行の小鬼など、かけっこでは勝てない、よね。
鼻を動かしながら段々と近づいてくるコボルトから距離を取ろうと、木の陰に紛れながら静かにその場を離れる。
歩きながら、必死に思考を巡らせた。どうしようか。
これがゲームならば遠距離攻撃の出来る武器で一発かましてやるんだけど、生憎とこちとら無双系のRPGのモブ敵である。
一発かまされるのはこっちの方だ。
取り敢えず、足元の石を投げつけた。前世の僕は本気で投げれば時速100キロを超える剛球の持ち主だったが、残念なら今の腕ではそこまで出ない。そもそも剛球じゃないって?ほっとけ。
やる気なく軽い放物線を描いた石はひざらしき部分にジャストミートしたものの、
「ギャァゥン」
コボルトはという短い悲鳴を上げたのみで、ピンピンしている。むしろそのせいで方向がバレ、怒りに目を真っ赤にしながらコボルトは走り寄ってきた。
マズい。直感的にそう思った僕は即座に背を向ける。
走り出した背中を吠え声が追いかけてきた。
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