第5話孤高なるゴブリン

 すげなく断れても不貞寝することは出来ないので、一人で行くこととする。


 そう、最初からそうすればよかったのだ。ゴブリン風情が、元とはいえ人間様と行動しようなどおこがましいっ!


 別に話していたら狙いを付けていたゴブリン全員がいなくなっていたからではない。


 孤独ではなく孤高なのである。断じて、断じてボッチなどではないぃ!


 誰にともなく言い訳をしていた僕は遂に目的地に着く。


 ここは薬草の群生地だ。


 茎を折り、青臭い臭いのする液体を体に塗りたくる。


 これでも、ゴブリンは鼻が利くので刺激臭による刺すような痛みに涙が出そうになるが、涙を流すゴブリンなど絵面が最悪すぎるので、必死に耐える。


 はっきりと言う。ゴブリンは臭い。残念ながら僕も例外ではないみたいで、こう、なんというか、臭い。


 だからこそ、より強い臭いで体臭を消し、少しでも安全に森を探索する。


 知識は力だ。役に立つ時がくる。

 …と思う。


 せめて、非常用の避難場所くらい欲しい。


 何より、食えて経験値になる美味い獲物が欲しいぃぃぃ!


 僕ははRPGをする時は無駄にレベルを上げるタイプだ。徐々に上がっていく数値を見るのは楽しいし、それに戦うのも好きだ。というかレベル差で一方的に殴るのが好きだ。


 残念ながらリアルの僕は平々凡々な人間で、戦闘などしたくないし、ゴブリンとして戦うのはごめんだ。


 ただ、レベル1というのは面白くないし、何より、 腹 が 減 っ た


 そう、腹が減ったのだ。ゴブリンは大抵ガリガリに痩せている。


 そうでないのはデカくて強いやつだ。多分一度くらい進化しているやつ。

 そうでなければ、食い物の奪い合いに運良く勝ち続けたやつ。そういう奴は要領がいいとそを元手に成り上がったりする。


 まあ、ドSな美人ならともかく、ゴブリン風情に頭を下げて成り上がるのは勘弁なのだが。


 下らないことを考えつつ、森を探索する。

 前に、辺りで木を見繕った。


 木と言ってもその辺に落ちている太い枝だ。


 手頃な物を見繕うと僕は数回振って確かめる。よし、いい感じだ。

 

 ゴブリンは きのえだ を てにいれた!


 特徴的な効果音を脳内再生しながらどうしようかと辺りを見回す。

 

 流石に木の枝を振り回して悦に浸るほど馬鹿じゃない。アタッチメントが欲しい。


 それは傍から見ると異様な光景であった。貧弱そのものと言った矮躯の怪物が、まるで人間のように紐を使って鋭い石を木の棒に結びつけている。


 紐といっても植物の筋を簡易に束ねただけのものだが、ゴブリンの行動ではない。


 彼が世界を破壊することはないだろう。彼が世界を変えはことはないだろう。しかし、彼は……





 簡易な石槍を持って、僕は森を歩く。素人の探索ではあるが、ゴブリンの鋭い視力でもって、小動物のいそうな場所を探す。


 茶色い物体を枝で突いた。かなり時間が経っていそうだが、まあいい。一応森に動物はいるようだ。


 これも練習のうちだ。ここに罠を仕掛けよう。


 どこぞの部族のように獣をおびき寄せる踊りなんて出来ないし、できたとしてもおびき寄せられた獣に勝てないので却下。


 ちょろまかしておいた布に地図がわりにこの場所らしき痕をつける。


 これでわかるだろう。わからなかったらまた考える。


「さて、どれくらい穴を掘るか」


 あまり大物を狙うつもりはない。そこまで凝ったものを作ることが出来るほどゴブリンは器用ではない。それに、一つの罠に傾注したら森の生き物なりゴブリンなりに横取りされる確率が高い。


 そんなことを考えながら穴を掘っている。作る罠はオーソドックスに落とし穴だ。


 スコップなんて気の利いたものはないし、石で掘るしかないんだけど、これが結構手が痛いんだよね。


「よしと」


 僕は身体中についた土を落とそうとして、やめた。多分土が付いている方が生き残りやすい。と思う。


 ノビをしてから他の場所に回る。さてと、次はどこへ行こうかな。

 今いるのは集落の東側、だと思う。多分。太陽がこっちから昇ってきたから。


 西に行けば行くほど森が濃くなっているように見えたし、出来れば西に行くのは遠慮したいな。


 なら、更に東に行くか、それとも南か北に行くか。


“東に行くのはやめた方がいい”


 そう、そうなのだ。もし探索中にゴブリンには太刀打ち出来ない化け物に襲われたら集落に逃げ込む。デカいゴブリンならなんとかするかもしれないし、なんとか出来なくても囮が増える。


 それなりも、今の声は誰のモノだ?


 左右を見回しても、それらしき影はない。さっきのはゴブリン語だったから、話したのはゴブリンで間違いないはずだ。

 でも、それらしき影はない。

 ま、いっか。左手に握る平たい石を投げた。表なら南、裏なら北だ。


 石は回転しながら舞い、ポトリ、と落ちた。出たのは裏、つまり北に行くこととなった。


「じゃ、行きますか」


 ゆっくりと北に向かい歩き出した。

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