第4話勧誘
足どり軽く集落を出た僕は、一旦引き返す事にしていた。
理由は簡単!怖いからである。怖い普通に怖い。
という訳で同行者 肉壁とも言う を探そうとしている。
壁役を期待してでもあるが、今から教育すればいつかは話し相手なるかな、なんて可愛い打算もあったりする。
そこ、キモいとか言わない。
対象は、まだ狩りを済ませていない同年代のゴブリンだ。
もっと強い方がいいのでは?とか、そんなんじゃ捨て駒も無理だ、などの意見もあるだろう。
だがそれらを踏まえても僕は敢えて同年代を選んだ。
なぜか、それはそっちの方がまだ便利だからである。
なぜ便利かと言うと、囮なんて考えは、小学生でも思いつく、すなわち、同程度の知能を持つゴブリンでも思いつくのだ。
つまり、成体となったとはいえ、未だに経験のあるゴブリンには肉体能力で負けるだろう、そのため狩で危ない場面になれば、確実に囮にされる。
ゴブリンの中でも幼い僕はゴブリンにすら負けるのだ!
フッ負けることにかけては我が最強よ。
ちなみにゴブリンには子供は宝なんて暖かい考え方はない。
むしろ、ぽこぽこ生まれてはバンバン死ぬのが当たり前のゴブリンの中では、生き残った個体の方が遥かに重要とされる。
種の繁栄のために仕方ないとはいえ、弱者が軽く扱われるのは悲しいことだ。まあ、弱者からすればだが。
おっと話が脱線してしまった。
えー同年代を選ぶ理由だったかな。
その中で最も重要なのは僕の指示に従うことだ。
僕は自分が特別頭がいいとは思はないが、流石にゴブリンよりは賢いと自認している。
よって、僕に従うのがシャクだという理由で僕に従わない諸先輩方よりも、接し方次第では僕に忠実になりうる同年代を選ぶ。(q.e.d)
そんなことを考えている間に、僕ら世代の家が見えてきた。
自己主張が激しくなさそうな同年代に目星はつかているが、候補の中なら正直、どれでもよかった。
というより、選ぶのに迷う。
どれにしようか…よし、ここは伝統的な決め方で行こう。
どれにしようかな 天の
よしっ、あれだな。
声をかける奴を決めた僕は、誘い文句を考えながらゴブリンに近づいづいて行った。
「グギャグギャギーギャギャギャ(なあなあ君、特別な割のいいお得な仕事が有るんだけど、興味ない?)」
現代日本でこんな明からさまな言葉に引っかかる人がいるとは思えないが、相手はゴブリン。それもほとんど子供と変わらない、騙すことは造作もないだろう。
多少悪いとは思う。具体的に言うと交差点を車でちょっと強引に右折した時ぐらいには。
「ギギャ?(自分か?)」
フハハッ引っ掛かったな!この場面での最適解は無視なんだよ!
僕は下衆な事を考えながら、勧誘を続ける。
「そうそう君だよ君。やっぱり賢そうだと思ったよ流石だね。」
悪い事にはならないだろうと思い、僕はそのゴブリンを持ち上げておいた。なんで持ち上げるか?高みから一気に落とすためだよ。
「で、仕事の内容は?」
あれ、効かない。いい気になると思ったのに。まあいいさ。
「まあまあ、そんなに焦らずに、ゆっくり話し合いましょうよ。取り敢えず、こんな所で話すのもなんだ。ちょっと外に出よう」
僕の提案をゴブリンは素直に受け入れる。
「分かった、どこだ?」
体感で一分と言った所か、準備段階から用意してきた人目に付きにくい、静かな木陰に到着した。ポン引きと違い警官を恐れる必要はないが念のためだ。
適当に座ってくれよ、と僕が言うと、では、と言いながらゴブリンは木の根に腰掛ける。
「で、仕事とは?」
おもむろに話しを始め、会話の主導権を握ったゴブリンに瞠目しつつ返答する。
「簡単だよ僕と一緒に狩に行かないか?」
出来るだけ間抜けのように、お人好しの馬鹿のように、そういった。
「なぜ一人で行かない?」
予想通りの質問。答えも決まりきっている。
「闘いに自信がなくてね。ああ勿論道具は俺が作るし解体もする。獲物の分け前は3:7でどうだ?」
無論そのまま渡すつもりはない。解体中にちょろまかす。
ハハハッ騙された方が悪いのさと、誰にともなく言い訳をしつつ、僕は慎重に言葉を重ねる。
「ギギャギギャ(どうかな?悪くないと思うんだけど?)」
クイズ大会レベルで返事は速かった。
「ギギャ(悪いな、断る)」
チッ騙されなかったか。僕は内心舌打ちしつつも、それを表に出さず、驚いた振りをして問いかける。
「ギギャギギャ(なんで?かなりの好条件だと思うけど?)」
「ギギャギギャギギャ(信用出来ん」
「ガーギギャギ(いや、なんで?)」
「お前のような信用できない人間の話しに乗る方がどうかしてる」
言われちゃった。ま、納得できる理由だ。
でも……信用できない人間ね。僕がゴブリン語を上手く理解していないだけかもしれないが、違和感のある言い回しだ。
それに、誘った時から思っていたが話し方が知的過ぎる。観察していた時は、喋らなかったためにわからなかったことが惜しい。
どれくらい優れているかと言うと、基本的に下級ゴブリンの話し方は単語主体だが、それに比べ彼女はかなり流暢に話したのだ。まるで最初から知恵を持っていたかの様に。
だからまあ、転生者で邪神の使徒らしい僕が、人を怪しいとは言えないが。
「その目、嫌いだな」
唐突すぎる言葉に僕は素で驚いてしまった。
「え?」
「お前の目だよ。値踏みするよで腹が立つ」
……そう言われてましてもねえ。交渉ごとをする時にはついつい出ちゃうものだからな。
癖になってるんだ音殺して歩くの。
じゃ、仕方ないプランBだ! 考えてないけど!
侍にプランBはない。正面突破あるのみだ!
僕突破される側だけど。
「ギャギーキギギャグギャギーギャギ」
取り敢えず笑ってみた。
余裕を見せる事は大切なのだ。魔王っぽい笑い方をしてみたかったからじゃない。ないったらない。
「ギギャギャギギャ(なんだ、いきなり)」
何気に辛口な言い方である。若干引かれてる気がするが、日本人特有のスルー能力で流す。
「ギャギ(今回は諦めよう。次の機会が、有れば頼む。)」
「グキャ(ああ」
出来ないことはやらないに限る。逃げちゃいけないなんて傲慢な強者の持論だ。暴論だ。だから気のない返事でも、僕の心は折れない。戦略的撤退をするだけ。
目的に突き進むのは実に簡単だ。目的を探すよりかはな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます