第二十話『父の思い』
バチッ!……バチッ!
と、道場内を竹刀同士がぶつかる音が鳴り響く。
お互いに相手の行動を読み合いながら前へ後へ……右へ左へと動く。
避けられるものは避け、避けきれないものは竹刀で盾代わりに受け、隙あらばカウンターを仕掛け……と、そんな打ち合いが始まってから、かれこれ1時間が経とうとしていた。
「はぁはぁ……さ、さすがクリス君……わたしが見込んだだけはある……はぁはぁ」
「はぁ…はぁ……アルデライトさん……こそ……さすがですよ……全然弾けない……」
両者共に休憩なしで続けていたため息が上がっているが、そんな状態にも関わらずクリスはアルデライトに竹刀を向け構える。
「つ、次で……終わらせます……」
「……来い……クリス君」
クリスは軽く腰を落としながら体重を前に掛け、足に残りの力を入れアルデライトに向かって真っ直ぐ走り出す。
アルデライトの4歩ほど手前で身体を左に振る、その瞬間アルデライトもクリスの攻撃を竹刀で受けようと、右側に身体を向け防御体勢に入ろうとした矢先。
クリスは左足で思い切り床を蹴り反対側へ瞬時に移動した。
「はあぁぁぁぁ!!!」
アルデライトはクリスの切り返しに驚き、反応が遅れてしまった。
クリスはそのまま右側から左手前に目掛けアルデライトの持つ竹刀に引っ掛けるように竹刀を振るう。
バンッ!!
と、道場内に鳴り響いた音はアルデライトの手から弾かれて壁に激突した竹刀の音だった。
あまりにも勢いよくやりすぎたのか、疲れたクリスには耐えられず走った方向に飛ばされるようにドテッ!と盛大に転けてしまった。
その直後、道場内にパチパチパチと鳴り響く、それはアルデライトが手を叩き拍手していたからだ。
「いやー、凄いね……クリス君……最後の切り返しは素晴らしかったよ」
アルデライトは転けたクリスに近ずき軽く腰を曲げ手を伸ばす。
「あ、ありがとうございます……」
と、返しながらアルデライトの手を掴み、クリスは立ち上がる。
「君の勝ちだ、クリス君……そんな君に1つ頼みたい事がある」
アルデライトは真剣な眼差しでクリスを見つめる。
その表情にクリスも真剣な顔で
「なんですか?」
アルデライトは一息吐いて口にした。
「エリアを……旅に連れ出して欲しい」
「俺が……ですか?」
アルデライトは頷きクリスの右肩に手を乗せ
「今夜はもう遅い……また明日詳しく話すから、今日はもう寝なさい」
「……分かりました、では今日の所は失礼します、おやすみなさい」
クリスはそう言い、道場を後にし部屋へと戻って言った。
アルデライトは心臓当たりを抑え、膝を着く。
「……ぐっ……ゴホゴホッ……少し無理をし過ぎたか……はぁあ……」
先に部屋に戻ったクリスは寝着に着替えベッドに寝転がっていた。
「エリアを……か、まぁ確かにあの娘の実力なら足でまとい所かむしろ戦力になる……んー」
クリスは何か考え事をしつつ、眠りに着く。
翌朝。
ベッドから起き上がり、普段着に着替え部屋を出ると。
「あ、クリス……おはよー!」
と、同じく部屋を出ようとしていたエリアにばったり会った。
「あぁ、おはよエリア」
と、クリスも笑顔で返す。
すると、エリアの表情がとても明るくなり上機嫌で先に階段を降りていく。
そんなエリアの後姿を見て、太もも近くまで伸びた長い水色の髪が、左右に揺れているのを見蕩れて、姿が見えなくなるまで足が止まってしまった。
「クリスー? 早く降りておいでー」
エリアの声にハッと気が付き階段を降りていき、作ってくれた朝食を済ませアルデライトの所に向かう。
リビングのすぐ横にある、アルデライトの部屋の扉をノックする。
すると、中から
「入りたまえ」
と、返事があった。
クリスはゆっくりとドアノブを回し、扉を開けて中に入る。
中へ入るとアルデライトが座布団に正座で座っていた。
「おはようございます……アルデライトさん、朝食食べないんですか?」
と、挨拶をしつつ正座で床に腰を下ろす。
「あぁ、おはよ……朝はいつも食べないんだ」
と、返すアルデライトは1本の巻物を手にしている。
それをクリスの前に置き、アルデライトが口を開く、
「その、巻物はこれから私が君に教える技術が記された物だ持って行くといい……だが、それを見るのは私からの教えが終わってからだ……巻物に頼っていては時間が掛かってしまうからな」
クリスはその巻物を手に取り、手を広げ取り込む
「読むのはここを出発してからにします」
と言うと、アルデライトは少し微笑んだ様子で軽く頷いた。
「すー、はぁー」
アルデライトは深くため息を着き、クリスの方に強い眼差しを向け
「さて、昨日話した件だが……君が嫌だと言うなら無理強いはしない……どうかね?」
「俺は……構いませんよ、彼女を同行させても……エリアはちゃんとした戦闘能力がありますしね」
それを聞いたアルデライトは安堵を着いた。
「それなら……話は早い」
「ですが、アルデライトさん……なんで俺なんですか?」
その問いかけにアルデライトは一瞬目を見開き、直ぐに返す
「それはな、エリアが君を連れてきた時普段と違う笑顔を見せたからだよ……昨日出会ったばかりだと言うのに……エリアは君を完全に信用している眼をしていた……ただ、それだけだ」
「は、はぁ……」
クリスは少々反応に困ってしまい、2人の間に少し沈黙が続いた後、アルデライトが口を開く、
「クリス君はエリアから何か聞いたかい?」
クリスはエリアから聞いた事を説明した、エリアが口篭もったことも含めて。
「そうか……なら、エリアはまだ悩んでるのか……」
「そう……みたいですね……」
アルデライトはんー、とうめきながら数分考えた末
「やはり……クリス君……君にエリアを連れて行ってもらおう」
と、少々大きい声で発したにも関わらずアルデライトの表情は曇っていた。
クリスはアルデライトの表情を見て一瞬立ち去ろうと思い片膝を立てたが正座に戻し、問いかける。
「アルデライトさんは何故そこまで彼女を行かせようとしているんですか」
アルデライトは俯いていた身体を起こし、クリスの方を真っ直ぐ見る。
「それは……君も聞いただろう……エリアは母親の仇を討ちたいと言っていた……私もそれに反対しない……むしろ、望んでいる」
「旅に行かせてレベルを上げてから倒して欲しいと、そういう事ですか?」
アルデライトは目を閉じゆっくり頷き、突然上半身だけ脱ぎ始めた。
着ていたものを床に置くとクリスに背中を向け、
「この傷を見てくれ」
「!?……な!?」
クリスはその傷を見て目を見開くほど驚く
アルデライトの背中にあったのは左肩から右腰まで真っ直ぐ入ったドラゴンの爪跡だった。
それに加え、かなり青紫色をしている。
再び服を着たアルデライトが続けて口を開く、
「ははは……驚くのは無理もない……この傷は見ての通りドラゴンにやられたものだ……しかも、エリアの母親を殺ったドラゴンから受けた傷だ」
「で、でも……その傷はっ」
クリスは驚きを隠せないまま続けた。
「その傷は……もう、壊死してるのも同然じゃ……」
旅の途中で寄った街等で情報を入手しているクリスにはその傷がなんなのかすぐに分かるほどだった。
アルデライトは一息つき、話を続ける。
「この傷を知ってるなら、説明も要らんだろう……もう私には時間がないんだ……もって1ヶ月半と言ったところだろう」
クリスは頭の中を整理しながらアルデライトの話を真剣に聞いていた。
「だから、エリアが君を連れてきた時から半分決めていたんだ……君にエリアを任せようと……だから、頼む! エリアを連れて行ってくれ!!」
と、腰に手を当て軽く頭を下げるアルデライトにクリスは
「頭を上げてください、少し……いえ、今日1日時間をください……考える時間を」
アルデライトは頭を持ち上げ微笑みながらゆっくりと頷く。
「すみません……最後に一つ伺いたいのですが……」
「……ふむ、なんだね?」
「エリアはその傷の事知ってるんですか?」
クリスの質問にアルデライトは首を振る。
「……分かりました、ちょっとエリアに聞いてみようかと思ったのですが……その傷抜きで話した方が良さそうですね……では、失礼しますね」
クリスはそっと立ち上がりアルデライトの部屋を後にした。
世界創造者 エターナルロリコン師匠 @eta_loli
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