第十八話『エリア』

 「キ、キャーーーー!!!!」


 ドッパッーン!!


 突如目の前に大量の水の壁がクリスを襲う。

 「う、うわぁ!! ごごごごめんなさ…ゴボゴボゴボゴボ……」

 津波のようにクリスを襲った大量の水はクリスとその辺一面をびしょ濡れにする。

 びしょ濡れになった顔を拭いていると、ドボンッと音がし、片目で音の方を見ると。

 こちらを睨みつける赤い瞳、それに対照的な水色の髪をした女の子だった。

 肩まで水に浸かっていて全身は見えない。

  「ごめんなさい、まさか水浴びしてる人が居るなんて思わなくて……」

 「……こ、こっちこそ、大声出して……その、ごめんなさい……」

 頬を赤く染めながら返す女の子。

 「と、とりあえず向こう見てるから出て服着たら?」

 と、来た道の方を振り向きながら言うクリス。

 しかしその時、クリス達の背中を強風が襲う、急に吹いた風に驚きクリスと女の子は風が吹いた方向を向く。

 するとそこには、青色の頭身に赤い瞳、4枚の翼を持つドラゴンが辺りに風を起こしながら降りてきた。

 そのドラゴンは2人の方を直視する。


 そして、水面ギリギリまで降りてきた瞬間。


 ヴァァァ!!!!


 と、辺りを振動させるような雄叫びを上げた。


 その直後少し飛び上がり4本のうち、2本の翼を光らせ女の子に向かって羽ばたく。

 その瞬間、翼から無数の刃が女の子に飛んでいく。


 女の子の周りの水にも直撃しクリスの位置からでは女の子の様子が分からない。


 「おい!? 大丈夫か?!」


 数秒後、水しぶきが減り女の子のシルエットが見える、その女の子の目の前で高速回転する細い棒のようなものが見えた。

 女の子の姿がちゃんと見えるようになり、クリスはその棒のようなものが何かわかった。


 「まさか、あれは槍か!?」


 2メートルほどある槍を高速回転させ、ドラゴンの攻撃を防いだのだ。


 クリスはすぐさま背中の太刀を抜刀し、構える。

 「しばらく俺が相手するから服を着ろ!」


 その言葉に頷く女の子、それを見たクリスは辺りを見渡す。


 あそこなら……


 クリスは木の生えていない広い場所を見つけそこに走り出す。

 ドラゴンは動き出したクリスに目が行き、翼を広げクリスを追いかける。


 その隙に、女の子は木のそばに置いておいた服を取りにいく。


 もう少しで広い場所に出るクリスの後ろからドラゴンか氷のブレスを吐く。

 ドラゴンが吐いたブレスは水面や木々を次々と凍らせる。


 クリスの後ろから凍結が迫ってきたが、クリスは木々を使ってうまく避けながら、広い場所に出た。


 出た直後、空からドラゴンが奇襲してくる。


 「うわぁ!!!!」


 なんとか避けたクリスは、太刀を構え直し間合いを取る。

 すると、

 「君! 大丈夫〜?」


 先ほどの女の子が追いついてきた。


 「なんで来たんだ! 死にたいのか!」

 と、女の子に向かって少々大きな声で言う、すると。

 「私だって戦えるの、舐めないでよね」

 と、自慢気に槍を構える。

 「私は"エリア"、あなたは?」

 「……クリスだ」

 「クリスね……じゃあクリス、一緒にコイツ倒すの手伝って」

 エリアと名乗るその娘は嬉しそうな声でクリスに共闘をお願いした。

 クリスには断る理由もないので「わかった」と返す。

 「でも、指示は俺が出す」

 コクっと頷くエリア。


 太刀を右側にし、刃を上に先端をドラゴンに向けて構え、

 「エリア、真正面から行くから回って背中側に行ってくれ、そしたら隙を見て攻撃してくれ」

 と言い、ドラゴンに向かって走り出す。

 それに合わせエリアは、クリスの左側に居たのにも関わらず右回りで走り出した。

 それは、真正面に向かうのクリスから自分に視線を誘導させるための策略である。


 エリアの方を向きながら体ごと向かせるドラゴン、その側面が正面になったクリスはドラゴンから少し離れた所でジャンプする。


 ―――「疾風迅雷」―――


 全身、刀身に雷を纏い目にも留まらないスピードで敵を切り抜ける攻撃で、最大8連撃まで出来る技だ。

 基本的に斬撃可能な武器ならどれでも使える。


 クリスは敵の右側から真っ直ぐ切り抜け、その後、後から前、左前から右後ろと次々に切り抜けて7連撃を決めた。

 攻撃をまともに受けたドラゴンが少しよろめく。

 その隙を見逃さずエリアがドラゴンに向かって走り出し、少し手前で槍を構えそのまま突っ込む。


 ―――「雷迅一閃」―――


 雷を纏った槍の刃先をドラゴンに向け一瞬で突き抜ける。


 これはクリスの"疾風迅雷"の単発技だと思えばいい。


 さらによろけたドラゴンにクリスが走って近づき攻撃しようとするが、4枚の翼を広げ強く羽ばたき空に逃げたドラゴン。


 それを追うようにエリアが飛び上がる。


 ―――「空の階段(エンプティステアーズ)」―――


 空中を踏み台にし空へと上がっていけるスキルで1歩毎に魔力を消費してしまうのが難点。


 エリア自身跳躍力が高く5歩ほどでドラゴンの真横にまで到達した。

 しかし、ドラゴンはさらに強く羽ばたき天高く飛ぶ。


 エリアのジャンプ力はすごく高いのにそれすらも超えるか……さすがドラゴンだな


 クリスが感心している中、エリアがもう1歩上がり槍を逆手で持ちドラゴンに向けて構えた。

 すると、エリアの槍が赤く光だし、


 ―――「滅龍奥義"撃龍槍"」―――


 ドラゴンに向かって思い切り投げつける。


 槍はドラゴンの腹部から背部へと一瞬で突き抜け、その多大なるダメージを受けたドラゴンはそのまま逆さまに落ちていく。

 かなり上に逃げていた為落ちてくるのに数秒は掛かりそうだ。


 同じして、エリアも空の階段で地上に降りてくるが、落ちていくドラゴンに置いていかれるようにまだ空高くにいた。

 「クリス! 残りお願い!」


 クリスは落ちてくるドラゴンの影を基準にスレスレの所で太刀を右足付近に構える。

 そして、落ちてきたドラゴンが地面に当たる瞬間

 

 「―――剣舞(ブレイドダンス)―――」


 クリスが独自で作ったスキル技"剣舞"。

 剣系なら全て使用可能で一撃毎に魔力を消費する、その代わり自分の魔力が一定値以上残っている限り何段でも入る。


 クリスは素早く切っていき、18段まで入れた直後、ドラゴンを挟んだ反対側へ切り抜き片膝を地面に着いて逆手に持ち替えた太刀をゆっくりと納刀する。

 そして、太刀を完全に納めた瞬間


 パチン…………キーン、ドーン!!!!!!!


 とドラゴンの体内で何かが大爆発を起こした。


 降りてきたエリアも途中で足を止めるほど突然の出来事に驚いた表情をした。

 そして、だいぶ下に来たエリアは飛び降りてクリスに駆け寄る。

 「最後何があったの!?」


 クリスはエリアの方に振り向き。

 「あぁ、さっき連撃した時に爆発属性を付与して蓄積させたものを納刀をトリガーに締めただけだ」


 「……は?」

 エリアはクリスの言葉に開いた口が塞がらなくなった。

 「俺には属性付与のスキルを持っててな、爆発属性を刀身に付けドラゴンを切る度に蓄積させた……って言って分かるかな?」


 エリアは顎に手を置き首を傾げる。

 「ごめん、さっぱりわかんない! まぁそんな事はいいよ、それよりありがと……手伝ってくれて、おかげで早く倒せたわ」


 クリスは一瞬キョトンとしたが何故か口元が緩み、

 「あれぐらい大したことはないよ」

 と返し、ドラゴンが砂化した所を漁り始める。


 そんなクリスをじっと見つめるエリアがクリスに話しかけた。

 「ねぇ? クリスって旅人?」

 「ん? あぁ、そうだよ……旅をしながら修行中」


 エリアはふむふむと頷く。

 「もし、クリスさえ良かったらうちに来ない?」

 「……え?」

 クリスは驚いた表情でエリアの方に顔を向けた。

 「どういう事? 唐突すぎてわかんないんだけど……」

 「あ、ごめんごめん、話を飛躍させすぎたね、クリスが終わったら話すわ」

 「お、おう……」


 クリスは急いでドロップアイテム等を拾い集め、立ち上がる。


 いつの間にか近くの大きな岩に座って休んでいた、エリアの方へ向かう。

 「あ、終わった? お疲れ様」

 と、近づいてくるクリスに笑顔で言うエリア。

 そして、エリアは自分の隣の空いてる部分をぽんぽんと叩き、

 「ここに座りなよ……戦闘した後だし、クリスならわたしの隣に座っていいよ」


 ちょっと戸惑いながらも岩が大きいとはいえかなり接近しないと座れないのでクリスはエリアから拳1つ半ほど空けて岩に寄りかかる。

 そんなクリスにちょっとムスッとするエリアはクリスに近づくように座り直し、さっきの話の続きを話し始めた。

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