第十七話『独り旅』

 朝、クリスが目を覚ますと昨晩隣で寝ていたセームの姿が無かった。

 体を起こしベッドから降りる。

 背伸びをした後、部屋を見渡すとセームの机の上に置き手紙があった。


 『クリスさんおはようございます 朝早く目が覚めてしまったので 外へ体を動かしに行ってきます』


 手紙を読んだ後、部屋を出て階段を降りて行くとリビングの方から物音が聞こえる。

 リビングへ向かうと、キッチンで料理をしている人影があった。

 セームの母親 セナさんだ。

 「セナさん、おはようございます」

 と、声を掛ける。

 すると、こちらの方に振り返り

 「あら、おはよう……まだ7時よ」

 セナさんは笑いながら言った。

 俺もそれに笑いながら返す。

 「そういえば、セームは?」

 セナさんは裏口の方を指差し「そっちに居るわ」と言う。

 裏口の扉に近づきドアノブへと手を伸ばすと、いきなりドアがガチャッと開き

 「ママー、お腹空いた」

 と、セームが入ってくる。

 急にドアが開いたためクリスは驚いて体がビクッとなった。

 「あ、クリスさん! おはようございます!」

 「お、おう……おはよ、朝から熱心だな」

 と、返しながら頭を少し撫でる、それが嬉しいのかセームは汗だくなのに笑顔をこっちに見せてくる。

 そのやり取りを見ていたセナさんが口を挟む。

 「そんな所でイチャついてないで、セームは顔と手洗ってきな……あ、クリス君はこれを運んで」

 「「はーい」」

 と、同時に返した。


 セームが横で美味しそうに卵焼きを食べる。

 セナさんの作る料理はどれも美味しい。

 朝食はシンプルに卵焼きとベーコン、ご飯だ

 ベーコンと言っても結局はモンスターの肉なので食べ慣れた元の世界より少し脂身が少なかった。


 食べ終わる頃

 「クリスさんは、いつ頃行かれますか……?」

 少し寂しそうな声で問い掛けるセームの頭をクシャっと撫でた。

 「すぐには出ないけど……午前中には出ると思う、それまで遊ぶか?」

 その返答にセームは今までで1番の笑顔を見せた。


 その後、4時間ほどセームの部屋で遊んだ。

 時刻は午前11時を回っていた。

 クリスは慌てて、支度をする。

 

 急ぎ支度を済ませ外に出ると、大勢の人が村の入口付近に集まっていた。


 ガヤガヤ……ザワザワ……


 「こ、これは……」

 クリスは驚いた表情で入口の方へ向かう。


 「おー、クリス殿 セームからそろそろ出られると聞いたものですので待っておりました」


 すると村長の奥さんがあるものを持って出てきた。

 それを村長が手に取り目の前に差し出す。

 「クリス殿、これを持って行きなされ……」

 「……これは?」

 白く光っているソレは太陽に反射し輝いていた。

 「これは光反石(こうたんせき)と言ってあらゆるエネルギーを跳ね返す力を持っています、クリス殿の旅に役立つでしょう」


 クリスは村長の手から受け取る、すると先程より更に輝きが増した。

 「ほぅ、クリス殿の魔力に反応しているようだ」

 クリスはソレを体内に取り込んだ。

 「ありがとうございます、村長」

 すると、村長は目を閉じゆっくり首を横に振った。

 「お礼を言うのは我々です、セームを無事連れてきた事は村みんなも感謝しています」

 そんな村長の一言に村の皆は拍手で答える。


 拍手が鳴り響く中人混みから少女がこちらに駆け寄ってくる、セームだ。

 「クリスさん……お別れですね……」

 涙目になっているセームの頭を軽く撫でるクリス。

 「強くなって俺とまた旅をしような」

 泣きだしそうな声で「うん」と頷くセーム。

 そんなセームにクリスはしゃがみ、そっとセームを抱きしめてあげた。


 その後、ゆっくりと立ち上がり

 「では、皆さんお世話になりました!」

 深々とお辞儀をしクリスは村を後にした、皆からの声援を背中に受けながら。

 その中でも誰にも負けずに声を発するセーム

 「絶対に! 再会しますから!」

 そっと後ろを見ると、セームが大きく手を振っているのに対し、クリスは拳を上げて答えた。



 村を出発してから5分ほど歩くとちらほら、モンスターが確認出来る。

 ここら一帯は草原地帯になっており、そこまで強いモンスターは居ない……クリスにとっては。


 更に歩くこと20分、クリスの前に森が見える。

 「あの森は……確か……」

 地図を取り出し確認するクリス。

 「……そうそう、『 龍獄の森』だ」


 『 龍獄の森』はドラゴンタイプのモンスターが多く生息する森で、龍属性の武器防具の素材集めとして有効活用されている。

 しかし、相手がドラゴンなだけに死者も多くこの森の主である『 天災"ヘブンドラゴン"』の出現率はほかの主に比べ極めて高い。

 そのため、死者の多くは天災に倒されていると言われている。


 森の入口まで行ったところで一旦立ち止まる。

 「さて、どの武器で行こうか……めんどいし敵に合わせて武器変えよ、とりあえず太刀から」

 ボソッと独り言を吐き、太刀を具現化する。


 せっかく作った武器も使っていかないとな


 太刀の鞘を背中に背負い納刀したクリスはゆっくりと森へと入っていった。


 「さすが龍の森……『龍の鱗 』がそこら中に落ちてるな、いいの落ちてたら拾ってくか」


 クリスは周りを警戒しつつ地面に落ちている鱗を傷や欠け等確認しながら拾い集め、奥へと進んでいった。


 「……ふぅ、たかが1時間ぐらいでこんなに集まったか……種類もそうだが個体数も多そうだな」


 そんな事を繰り返しているクリスの横の木陰でガサガサっと音がする。

 びっくりしたクリスは太刀の柄に手を添え身構える、すると。


 ガサガサ……ガサ…ガサガサ……


 木陰から白い小さなドラゴンが出てきた。

 「お、チルドラじゃん!」


 『 チルドラ』とは大人でも全長が75cmという小さなドラゴンで、自分すら持ち上げられない小さな羽と可愛らしい丸みの強いドラゴンだ。

 その可愛さからペットとして飼われてることもある。

 だが、姿には似合わず牙が鋭いので怒らせて噛まれたりしたら人間の腕など容易く切断できるため注意しなければならない。


 クリスはポケットに手を入れ茶色いボールのようなものを取り出す。

 「ほら、お食べ……お前達の好きな草団子だぞ」


 チルドラはドラゴンだが草食系で木々や葉を食べて生活している。

 ちなみに、チルドラは体の色が定まってはいない。

 主食にしているものに合わせて色が変わる。


 クリスの差し出した手に近づき草団子の匂いを嗅ぐ。

 食べられると思ったのか、口を開きパクッと1口で食べた。


 その後、クリスがチルドラを撫でていると後方から重い足音が周囲を響かせる。

 その音にビビりチルドラは走り去っていった。


 足音は近付いてくる所か横切っているようでそのまま遠くなっていく、その方角を見つめ足音が聞こえなくなり、再び歩き出す。


  〜〜〜〜〜〜20分後〜〜〜〜〜〜〜


 「そろそろ疲れてきたな……どっかで休めねぇかな」

 とクリスが歩きながら呟くと近くで水の流れる音がした。

 クリスは目を輝かせ音のする方へ走る、5分ほど走った先に大きな湖が姿を現す。


 「…………誰?」


 ふと、湖の方から声が聞こえた。

 クリスがそちらに目をやると全裸の女の子が立っていたのだ。

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