第十六話『鍛冶』

 2階に上がり、”セームベルのへや”と書かれた飾り物が付いてるドアの前に来ると

 「クリスさん、すみません……ここでちょっと待っててください……着替えるので」

 「分かった、待ってるわ」

 そう言い手を離すと、セームがドアを開け入っていった。

 

  〜〜〜〜〜10分後〜〜〜〜〜

 

 ドアが再び開き中からセームが顔を出す。

 「すみません……おまたせしました、どうぞ」

 中へ入るとそこはいかにも女の子と思うような可愛らしい内装だった。

 俺は部屋を軽く見回した後、セームの方に目をやる。

 

 先程までの服装とは全く違う服装をしたセームが立っていた。

 

 「可愛いよ……」

 思わずそんな言葉がこぼれ、途端に恥ずかしくなる。

 

 セームもセームで顔を耳まで真っ赤にし、俯いていた。

 そんなセームの頭に手を伸ばし軽く撫でると「ふふっ」と笑う。

 

 床に座り楽しくおしゃべりをする事、約1時間。

 下の階に居るセームの母親の声が聞こえる。

 「2人共〜! 晩御飯出来たわよ〜! 降りておいで〜!」

 

 そう、晩御飯が出来た知らせだった。

 「行きましょクリスさん!」

 「あぁ」

 2人は当たり前のように手を繋ぎ部屋を出て、階段を降りてく。

 すると、母親が階段の前を通った。

 その瞬間こちらに目をやると

 「ふふっ、あなた達ったら……手なんか繋いじゃって、それじゃあまるで恋人みたいね」

 と笑顔で通り過ぎていく。

 

 それを聞いたセームは顔を赤くしパッと繋いだ手を離すと、勢いよく駆け下りていき

 「お母さんのバカ〜!」

 と言った。

 

 俺もその後に続き階段を降りていく。

 

 リビングに着くと食卓には豪華な食事が並んでいた。

 現実世界で例えるなら”ステーキ”だ。

 この世界にも牛なども存在しているが食用とはされていないため、いくら見た目がステーキでも実際はモンスターのお肉である。

 

 セームのステーキは俺の半分以下ぐらいのサイズしかないが……年の差などを考えると妥当だろう……ちょっと申し訳ない感があるが。


 楽しく食事をしながら俺はある事に気付いた。

 ”父親”を見かけていない事だ。

 

 帰ってきた時セームは”お父さん”って言っていた。

 なのにお父さんの姿を俺はこの家に来てから一度も見ていない。

 ましてや、食事に来ないのもおかしな話だ。


 俺は何かを察し、敢えて何も聞かなかった。

 

 「「ごちそうさまでした!」」

 「あ、クリス君後でいいから私の所に来てくれないかな」

 食事を済ませ席を立った時にセームの母親に呼び止められた。

 「分かりました、また後で来ますね」

 と言い食器等を流しに置きセームの部屋に向かい軽く休憩する。

 

 その後下に降り母親の部屋に向かった。

 

 コンコンっとノックをすると、ガチャっと扉が開き、母親が出てくる。

 「よく来たねクリス君……ちょっと裏手に行くけどいいかな」

 「大丈夫ですよ?」

 そう言い裏手に回ると、家の3分の2ほどもある小屋が建っていた。

 中へ入ると、

 「あ、あの……せ、セナさん? ここはもしかして……」

 「あぁ、クリス君ならひと目でわかると思ったわ……そうここは鍛冶小屋よ……と言っても私はスキルで作ってるから鍛冶用のハンマーぐらいしか道具ないんだけどね」


 ”鍛冶”には2種類存在する、一つは職人などの実力派で主に武器屋などに売っている武器、防具が作られている。

 もう一つは能力派、要するにセナさんのようにスキルで作るタイプで覚えれば誰でも使えるが、やはりセンスなどはある。


 部屋を見渡すと壁の至る所に自分で作ったであろう武器が何種類もあった。

 「セナさんって元々アサシン系だったんですか?」

 「えぇ……そうよ……もしかして、壁に飾ってある武器で分かったかしら」

 俺は頷く

 なぜ分かったかと言うと壁に飾ってある武器の6割が短剣などのナイフばかりだったからだ。


 セナさんが小屋の奥へと入っていく。

 「クリス君……こっちにいらっしゃい」

 そう言われ、後を追うと大きな釜が置いてあった。

 「もしかして、これって”錬金釜”ですか?」

 セナさんが頷く

 スキル派で最も必要としているのは鍛冶スキルと合わせて使う錬金スキルだ。

 この2種のスキルを上手く使いオリジナル武器を精製するのが基本的な方法である。

 

 「君にはこっちの使ってない方の錬金釜をやろう」

 「それはありがたいですけど……俺、まだどっちのスキルも持ってないんですよね……」

 「ふふ、そんなもの継承させればいいのよ……1から覚えるより遥かに早いわよ」

 クリスは忘れ物を思い出したような表情をした。


 すると、セナは札を2枚ほど具現化する。

 「手っ取り早くやるためにお札を使いましょう」

 と、軽くウィンクをした。


 札を使った継承方法はとてもシンプルで、札に継承させるスキルの魔力を流し込む。

 たったそれだけの事だが実は注ぎ込む魔力の量がとてつもなく必要なため、寝起きなどの後にやることが推奨されている。


 「はぁ……はぁ……はい、クリス君」

 魔力を込めた札を息を切らせながら渡した。

 「ありがとうございます、では早速……ふぅ……」

 

 取り込む方法もとても簡単、みぞおち辺りに貼りそれを飲み込むように吸収するだけだ。

 

 「これでよし……出来ましたよ、セナさん」

 「えぇ……早速始めましょうか、と言ってもここからはアナタ1人で行いなさい……自分の納得の行く物を作ってちょうだい、もし失敗したら私の所に持っておいで、解体してあげる」

 「わ、分かりました」

 そう言うとセナさんは小屋を後にした。

 

 自分の作りたい物か……

 「やっぱ太刀でも作るか……」

 

  ~~~~~1時間後~~~~~

 

 「で、出来たぁ!!」

 ただでさえ狭いのに、つい叫んでしまった。


 すると小屋の扉がガチャっと開く。

 「どうやら出来たようね……おめでとう」

 「ありがうございます!」


 セナさんがこちらに寄ってくる。

 「で、どんなのが完成したんだい?」

 「これです」

 と、1本の太刀を差し出す。

 

 赤い刀身に黒の柄、刀身は約130センチほどで、かなり長めだ。

 これでは太刀というより”大太刀”だ。

 

 セナさんは刀身や柄など隅々まで見たあと

 「よく出来てるわね、初めてとは思えないわ」

 

 スキル継承でスキルレベルなどをそのまま引き継いだとしてもすぐに同じように使えるわけではない。

 なので、1発目から大成功と言ってもおかしくない成果を出したクリスの完成度は賞賛ものだ。


 「1つ問題があって……」

 クリスは少々困った表情をした。

 「ん?なんだい?」

 「今の俺には振り回せないですよ……でも、いつか振り回せるようになります!」

 そう言いクリスはその大太刀をしまい、小屋を出て2人は家に戻っていった。


 セームの部屋に戻ってきたクリスはなんの迷いもなく扉を開けると、

 「き、きゃああああ!」

 と、部屋の中から叫び声が聞こえた。

 クリスはなんだ?と思い顔を上げる。

  そこには胸を隠し、こちらに背中を向けながら赤面をしたパンツしか履いてないセームの姿があった。

 

 「あ、すまん……」

 と、扉を閉めるクリス。


 数分後、扉が開き

 「い、いいですよ……もう、入って」

 セームが呼びに来る。

 

 しばらくの間、気まづい空気が漂っていた。

 それを切り替えるようにセームが口を開く

 「クリスさんは、いつ出発するつもりなんですか?」

 「あ、あぁ……そう言えば言ってなかったな……一応。明日の朝出るつもりだ」

 「そう……ですか」

 セームが少し残念な表情をした。


 そんな表情をするセームの頭を軽く撫でてやる。

 すると、突然

 「ク、クリスさん……1つだけお願いしてもいいですか?」

 「ん?どした?」

 セームが赤面しながらモジモジする。

 「そ、その……今晩……一緒に寝ませんか?」

 クリスはその事に驚いたが

 「あぁ、いいよ」

 と、笑顔で返す。


 そして、2人はセームのベッドで一緒に寝たのであった。

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