第十二話『守るための力』

 リングルムを出た俺とセームは街から30分程の草原を歩いていた。


 「セーム、足大丈夫か?」

 「大丈夫ですよ〜」

 心配して聞いたクリスに笑顔で返すセーム。


 草原に居るモンスターの8割は温厚な性格でこちらから近付いたり、攻撃等をしない限りは襲ってはこない、そのため辺りを警戒せずに進むことが出来る。


 テクテク

 今日はいい天気だな


 タッタッタッ


 テクテク……テクテク……

 さて、どうやって行こうか……


 タッタッタッタッタッタッ


 「あ、ごめん……歩くの速かったか?」

 「い、いえ! 私が遅いだけですので気にしないで下さい」


 と言われても、明らかに早歩きで付いてきてるセームを見たクリスは、普段の半分ぐらいのスピードまで下げて歩いた。


 セームはそんなクリスを見て少しクスッと笑い、早歩きでクリスの左横に行き同じ速度で歩く。

 少し歩いたところでセームがもじもじしながら尋ねてきた。

 「あ、あの……手、繋いでも……いいですか?」

 と、右手をクリスに向けながら言う。


 クリスは一瞬ぽかんとしたが、少しニコッとすると無言で左手を差し出し、

 「少しだけだぞ……」

 と、少し照れながらセームの右手を握った。


 更に10分程歩いた頃、クリスが急に立ち止まる。


 なんか近づいて来てる気がするんだよなぁ。


 「どうしたんですか? クリスさん」

 クリスはセームの方を少し見ながら、右手の人差し指を立てて口元にやった。

 そして、目を閉じ耳をすませるクリス。


 すると、遠くの方から地中を進んでくる音が聴こえる。


 ドドドドドドドドドドッ


 この音は”地中龍ガリウス”かな、ちょっと厄介だなぁ


 音はドンドン大きくなり、クリス達の方に近づいて来て、突然音が聞こえなくなった。


 はっ! いかん!


 クリスは繋いでいた左手をサッと離し、セームを抱え込み思いっきり後ろに飛ぶ。

 それと同時に地中からモンスターが勢いよく飛び出す。


 2人を飲み込むかのように大きく口を開けながら出てきたそのモンスターはそのまま背中の大きな翼を広げ浮遊した。


 姿を見せたそのモンスターはこげ茶色の全身に大きな口、身体のサイズの割に大きい翼を持つドラゴンの様なモンスター。


 「セーム、急に抱えてすまんな、シャインって言ったっけ? 呼んでくれるか?」

 「は、はい!」

 セームを降ろし、背中の大剣を抜きモンスターに向けて構える。

 そして、セームは目を閉じ両手を前に出し簡単な呪文を唱える。

 「我が主を守りたまえ! おいでシャイン!」


 セームの目の前に森を出た後に見た渦と全く同じものが出現する、モンスターゲートだ。

 そのゲートから黄色に少し赤みがかった光を放ちながら1頭のモンスターが飛び出す。


 シャインこと、”シャイニングタイガー”。

 このモンスターの主な特徴はまず、闇属性攻撃のダメージを3分の2に抑える効果と光、炎属性を吸収する効果を持っている。


 その代わり他の属性のダメージが1.5倍になる。

 そして、使役モンスターは主人のステータスに比例して成長する。


 だが、俺はまだセームのステータスを見ていないため、強さがまだ把握しきれていない、そのため、良戦術が思い付かない。


 ヤツは高威力のブレスと翼を使った風圧による拘束技が厄介だな、せめて遠距離戦が出来るやつが居れば……


 戦術を考えているクリスに向かって空を飛んでいたガリウスが降下しながら口を開け突っ込んで来た。


 「セーム! シャイン! 避けろ!」


 2人と1匹は四方八方へとバックステップで避ける。

 ガリウスは勢いを付けすぎたのか地面に激突し、少々フラついた。


 今なら攻撃出来るかも。


 「シャイン! 引っ掻いて!」

 シャインに指示を出すセーム、それを聞いたシャインは主人の指示通り、ガリウスに向かって走り出す。

 それに合わせてクリスも大剣を構え、走り出す。


 シャインはガリウスの近くで飛び跳ね、そのまま両前足の爪で引っ掻く。

 「はぁーー!!!!」

 クリスも後に続き右下から左上へと斬りつける。


 攻撃した後、下がるクリスとシャイン。

 ガリウスもようやく体制を立て直し、大きな口を開け。


 ヴァー!!!!


 かなり大きい声で咆哮をした。


 あまりにも大きい声に方目を閉じ、耳を塞いで耐えるクリスと、目と耳を塞いで耐えるセーム、耳を塞ぐことの出来ないシャインはその場でフラついていた。

 咆哮が終わったと同時にガリウスがシャインに向かって突進してくる。

 それはほんの数秒でフラフラしているシャインに近づき、その大きな口を限界まで開きそのままシャインを丸呑みにした。


 その状況を全く理解出来てないセーム、それに対し何度か見た事のあるクリスはすぐにその状況を理解した。

 と言ってもクリスが見た事があるのはモンスターを丸呑みする光景のみ。


 ウソ……だろ……早すぎるだろ……


 セームは全く理解出来ない中全身の力が抜けて、膝を着く。


 「おい! セーム!」


 クリスの呼び掛けも耳に入らない様子。


 ガリウスはシャインを飲み込んだ後、セームの方を見ながら身体をそちらに向き直し、少し間を開け、脚を慣らし走り出した。


 クソ! 間に合うか!?


 クリスもセームの方へ走り出す。

 「……間に……合えぇ!!」


 ガキンッ!!!!


 辺りのモンスターが驚き逃げるほど大きな金属音が鳴り響く。

 その音にセームも正気に戻る。


 クリス……さん……


 セームの目の前には大剣の側面で敵の突進を食い止めるクリスの後姿があった。


 「ったくよ……練習しても出ないくせに、なんでこういう土壇場ならちゃんと出るんだよ!」


──『パラディンの衝壁』──


 累計4万までのダメージを0にする事が出来る魔力の壁。

 1回使っただけで魔力がごっそり持っていかれるが、低レベルなら4万以上の攻撃を喰らうことが少ないため、まず破られる事は無い。


 敵の動きを止めたクリスは意力が弱まるまで待った。

 完全に弱まった所で敵が大きな翼を広げ後ろに飛び下がる。


 もう一回突進してくる気か!?


 クリスは衝壁を解除せず、そのまま敵が向かってくるのを待っていた、その時。

 ガリウスの後ろの方から地中を進んでくる音がする。


 ガリウスが近づいてきた時よりも数倍大きい音を立てながら。


 ガガガガガガガガガガガッ!!


 ッ! コイツはヤバい!


 音はクリス達のところまで来ず、ガリウスの後で止んだ。


 後ろに下がったガリウスが突進しようとしたその時。

 ガリウスの真下から4倍ほど大きなガリウスが脚を喰らった。


 あ、あれは……ボスガリウス!


 ”ボスガリウス” ガリウスの親玉、共食いする事が極端に多い。


 ボスガリウスはガリウスの脚を咥えたまま地中へと引きずり込み姿を消した。


 「とりあえず、襲ってくる事はないだろう……セーム、いつまでもここに居る訳にはいかない村に向かうぞ……」

 「……は、はい……」


 クリスは落ち込んでいるセームをどう励ましたもんか悩みながら村を目指し再び歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る