第十三話『夢奇の力』

 「ひとまず、ここら辺で休憩がてら昼ご飯にしよう」


 先ほどまで戦っていた場所から1時間ほど歩いた所にある森の入口、セームの住んでいる村にはここを通るのがいちばん早い。


 「よし、ここを中心に結界を貼るか、っとその前にテントだな」

 俺は武器と同じ要領でテントを出現させる。

 俺とセームが休憩するには十分なほど大きいテント、たぶん俺が3人半入るぐらい。


 クリスはテントを建てた後小刀を出し、柄の部分に呪符を巻き付けた。


 「結界を!」


 地面に思いっきり突き刺す、すると回りにドーム状の薄い膜のようなものが出来、直後無色透明になる。


 「よし、とりあえずこれでモンスターは寄ってこないな……セームは」


 クリスはキョロキョロとセームを探したが辺りに見当たらないので、テントの方へ向かうと入口が少し開いていた。


 中を覗くと、

 「ここに居たのか、セーム……」

 セームが肩を震わせ、うずくまっていた。

 「……シャイン……シャイン……あなたまで私の前から……居なくなってしまったの……」

 「セーム……」

 クリスは泣いているセームにかける言葉も思い付かずゆっくりと入口を閉じ、少し離れた所に机と椅子を出現させ腰掛けた。


 さて、これからどうしようか……シャインが食われてしまった以上、セームは戦えない……ふむ……。


 20分ほど考えたが全く思い付かないクリスはテントで休む事にした。

 クリスがテントに向かうと、中から寝息が聞こえる。

 「泣き疲れて寝ちゃったかな」


 クリスが入口を開け、中を覗くとセームが泣きあとを残したまま横を向いて寝ていた。


 「……俺はどこで寝ようか……椅子で寝るわけにもいかないし……」

 ま、まぁこれだけテント広いし……端っこで寝てれば大丈夫だよな?


 クリスは少し戸惑いながらもテントに入り、セームの背中側の端っこに行き、背中をセームの方へ向け寝始める。




 1時間ほど寝ていたクリスが目を覚ますと、そこにセームの姿はなかったがその代わり、1輪の花が落ちていた。

 その花はセームが採ってきた”夢奇の花”だ、しかも花弁が1枚無くなっている。


 「はぁ! やぁ! たぁぁ!」


 テントの外からセームの声が聞こえる。

 クリスはまぶたを擦りながらゆっくり身体を起こし、入口を開けると、


 「はぁぁぁ!!!! たぁ!!!!」


 ドゴンッ!!!!


 岩が破裂する音が聞こえた。

 そのままテントから出たクリスは呼び掛ける。

 「おーい! セームっ!」

 数秒後、森の方から、

 「クリスさーん! こっちですよ〜!」

 セームが笑顔でこちらに手を振っていた。


 「セーム! お昼にしよう!」

 「はーい!」


 セームが森から出てきて、こちらに走ってくる、ものすごいスピードで。


 「セ、セーム? いつの間にそんな速くなったんだ?」

 「あぁ、これはですね……」

 と言い、セームがテントに入りあるものを手に持って出てくる。

 「実は……コレを使ったんです」


 セームが手にしていたのは夢奇の花だった。


 「え? どういう事?」

 「えっと……簡単に説明しますと……この花を使って転職したんです」


 クリスは困惑気味に問いた。

 「え、転職って教会とかで出来るんじゃ……」

 セームは首を横に振り、

 「モンスターマスターは生まれ付き備わっている職業で、どんなに他の職業になりたくても、なれないんです……魔力の質の関係上」


 魔力には3種類の性質がある。

 1つ目は攻撃する際に必要とされる”撃性魔力”、2つ目は自分、味方の傷を癒したり、ステータスを向上する際に必要とされる”助性魔力”、3つ目がモンスターマスターだけが持っているとされる”操性魔力”の3種類だ。


 「え、って事は、セームは夢奇の花を使わないと転職出来なかったって事?」


 セームは強く頷く。


 「……でも、シャインや村に埋めてあるもう1体も生き返らせるんだよな?」


 セームは目に涙を浮かべながら首を振った。

 「夢奇の花の使い方がまず、”生きている者”にしか使えないんです」

 「え?どういう事?」


 夢奇の花は使用者が叶えたい願いを思いながら花弁を飲み込む事で発動する。つまり死人ではそれが出来ないため、生き返らせる事が出来ない。


 セームはその事をクリスに説明した。


 「って事は、始めから無意味だったのか……」


 クリスは自分の事ではないのに酷く落ち込んだ。


 「ク、クリスさんが落ち込む事じゃないですよ……私が単に弱かっただけで、でもクリスさんのおかげで決心が着きました!」


 セームは右手を握りしめ、笑顔で答えた。


 「私! クリスさんみたいに、仲間を守れる前衛になろうと思います! それを夢奇の花にお願いしたら、武闘家に転職しました」

 「俺みたい……か、俺は守ってやれていないぞ」

 セームが首を振る。

 「そんな事ありません! 森の時だって、さっきのだってクリスさんが守ってくれたじゃないですか!」

 と、急にセームが両手を合わせもじもじし出す。

 「そ、それに私はそんなクリスさんの事が好きに……なりました」


 突然の告白にキョトンとするクリス。

 セームは顔を真っ赤にし、

 「ご、ごめんなさい! クリスさんは……その、ウィンダさんの事が好きなんですよね」

 「そうだけど……まぁ、その、セームの気持ちは嬉しいよ」

 クリスは少々赤くなりながら返した。


 「さ、さぁ……お昼食べようか」

 「は、はい……」


 その後、少し気まずい空気の中食事を済ませ、少し休憩をしてからテントを片付け、出発する準備をした。




 さて、後はこの森を抜ければ村に着くな。

 「セーム、森の中は危険が多い……無理はするなよ」

 「大丈夫です、私だってもう戦えます……」


 クリスは左手でセームの頭を軽く撫でた。

 「期待してる……だが無理は禁物だ、わかったな?」

 撫でられて嬉しいセームはとてもいい笑顔で「はい!」と答えた。


 クリスは森の方に向き直し、太刀を鞘ごと手に出現させ抜刀する。

 「よし、行くぞ!」


 2人は日差しが少し遮断された森の中へと入っていった。

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