第十一話『別れと告白』

 「2人とも! そのまま出口を抜けろ! DFは光を嫌う、森の外までは追ってこないはずだ!」

 先を走る2人にクリスが少し大きな声で言う。


 そうして、森を出た3人は徐々にスピードを落とし振り返る。

 クリスが言った通りDFの群れは森の出口ギリギリで立ち止まりこちらを睨み付けながら威嚇していた。


 「……はぁはぁ、ホントに……追ってこないのね……はぁはぁ」

 森の真ん中辺りから出口まで休む暇もなく走っていたウィンダは流石に息を切らしていた、それに対し少女は自分の使役するモンスターの背中に乗っていたためそんなに消耗はしていない様子。

 少女は自分よりもモンスターの方を気にかけていた。

 「ありがとうシャイン、ゆっくり休んでね」

 少女はモンスターの背中を撫でながら言う、それと同時にモンスターの前に紫色の渦の様なものが現れた、”モンスターゲート”だ、モンスターマスターはこのゲートを出現させ、自分の使役しているモンスターを呼び出している。

 少女のモンスターはそのゲートに飛び込み、そしてゲートは消失した。


 「2人とも、怪我は無いか、とりあえず街に戻ろう話はその後だ」

 2人は頷いた後、先に歩き始めたクリスの後について歩き出す。


 森を出て20分ほどでリングルムに着き、真っ先に受注店へ向かった。

 「とりあえず、クエスト完了の報告してくるから、2人はそこで待っててくれ」

 「分かったわ」

 「は、はい」

 クリスは2人を置いて店に入っていく。

 クリスが入って出て来るまで店の前で待ってる5分の間、ウィンダは少女に話し掛けようとしたが何も思い浮かばなかった。


 クリスが戻ってきてすぐ、

 「あ、あの! さ、先程は助けていただきありがとうございました!」

 少女は2人に向かって深々とお辞儀をする。

 「気にするな、悲鳴が聞こえたから向かったまでだ、それに困ってるやつが居たら助けるのは当然だろ」

 「まぁそのお陰で更に疲れたけどねぇ……」

 ウィンダが横目でクリスを見る。

 「文句言うな、多少はモンスター倒したしそれなりにアイテムも手に入った、それにこの子も助けられた、それでいいじゃねぇか」

 クリスが少女の頭を撫でながら言う。

 少女はクリスの手に手を重ね、少し赤くなった。

 「あ、あの……わ、私セームって言います! セーム・アレクトル……」

 クリスは突然の自己紹介に少し驚きながら、

 「俺はクリス、クリス・レギンスだ、んでこっちは……」

 「私はウィンダ……ウィンダ・アルニス、よろしくね」

 ウィンダも笑顔で返す。


 「ところで、セームはなんであんな危ないところに1人で居たんだ?……」

 「そ、それは……ですね……」

 セームは少し困った顔をした、

 「……あの森に咲く、何でも願いが叶うって言われている花、”夢奇の花”を探していたんです」


 夢奇の花とは、決して叶う事のない願いや夢を叶えさせてくれると言われている、奇跡の花の事である。


 「……あぁ、あの花か……まぁホントに叶えさせてくれるかは知らんけど、なんでまた……」

 セームはかなり落ち込んだ様子で応える。

 「……私には、さっきの子、シャインの他にもう1体使役してる子が居たんですが……病気で亡くなって……しまったんです……」

 セームの目には涙が溢れ始めていた。

 「……なるほど、それであの花を使って生き返らせようと」

 セームは今にでも泣き出しそうな顔で頷く。


 そんなセームをウィンダは抱き寄せ、優しく頭を撫でた、

 「そんな事があったんだね……」

 「わざわざ1人で行かなくても一緒に行ってくれる奴探せば……って訳にもいかないか……」

 そう言いかけたクリスだが、そんな事は他人に頼るものではない。

何故なら”夢奇の花”を狙っている人はかなりいる、そんな状態で人を頼ると最悪奪われかねないからだ。


 クリスは顎に手を置き何かを考えていた。

 「もしかして、俺達とセームって1回すれ違ってないか?」

 『え?』

 2人が同時に返す。

 「俺達は1度森の中で光るモンスターとすれ違った、あの時すれ違ったモンスターってセームのモンスターだったんじゃないか?」

 「そんなはずはありません、私とシャインはずっと一緒に居ましたし……それにもしホントにすれ違ったのであればシャインが気付くはずです、あの子目だけはいいので……」


 クリスは少し納得出来ない様子だったが、話を変えた。

 「……そう言えば、セームは目的の花は回収出来たのか?」

 セームは「はい」と頷く、

 「……採れたならいいんだけど、セームの家ってこの街?」

 セームは大きく首を振り、

 「……ここから北の方にある、クレアルという村ですよ」

 ウィンダとクリスはその名前を聞き驚愕していた。


 何故なら、この街リングルムから北に約30キロほど歩かなくては行けない、この街からなら馬車を使えば楽に行けるが、その逆は出来ない、つまりセームは約30キロの道を1人で歩いてきたということである。


 「……セ、セーム……この街に来たのはいつ?」

 クリスは少し驚きながらも質問をする。

 「あ、一昨日の夜ですよ?」

 「……村を出発したのは?」

 セームは少し考えてから、

 「……えっと、1回野宿してるから……4日ほど前ですね」


 クリスとウィンダは更に驚いた、こんな小さな子がたかが奇跡の花のために5日間もかけて採りに来ているからだ。


 はぁ〜


 クリスは1回ため息をつき、

 「……とりあえず、俺はセームを家に送り届ける事にするよ、いくら1人で来れたからって、1人で返すわけには行かないし、ウィンダはどうする? 付いて来る?」

 「……ごめん、私は明日には家に帰るつもりなの……」

 ウィンダが申し訳なさそうに手を合わせ謝る。

 「それなら、仕方ない……とりあえず宿屋に泊まって明日の朝出発するか」

 ウィンダとセームは頷き、3人は宿屋に向かった。

 夜、その宿屋でクリスが1人でニュースを見ていると

 『ギルド”アイシクル・レイブン”がまたしてもアトランタルの塔を攻略しました! これにより9階層が解放されました!』


 まだ、9階層か……8階は確か……フィールドのモンスターの最低値がLv25になったか、どっかでLv上げに専念しないと行けないかもなぁ



 翌朝


 朝9時、3人は宿屋を後にし馬車の停留所へ向う。

 「ウィンダは馬車で8時間も掛かるんだっけ?」

 「ええ、そうよ……約80キロもあるからね……あ、そうだクリス君、昨日借りた鎌まだ私が持ってるんだけど……私にくれないかしら?」

 「使ってないから別にいいけど……」

 「ありがとう」

 そんな会話をしながら歩き、停留所に着いた。


 「俺とセームは歩いてクレアルに向かうよ……セームが歩いて行くって言うもんで……」

 セームは笑顔で頷く。

 「そう、ならここでお別れだね……」

 ウィンダが馬車の荷台に荷物を置いていく、その最中クリスが話出す。

 「あ、あのさ……ウィンダ」

 ウィンダは不思議そうな顔でクリスの顔を覗く。

 「お、俺……ウィンダの事が……好きなんだ!」

 クリスは今にも爆発しそうなほど真っ赤な顔をしていた。

 ウィンダは片手で口を塞ぎながら驚いた顔をしている。

 「それって……本気……なの?」

 クリスは少し目を逸らしながら頷く。

 「……そっか……嬉しいなぁ」

 だが、ウィンダの表情は喜んでいるようには見えなかった。

 「……ごめん、やっぱ迷惑だよな、出会ってまだ2日ぐらいしか経ってないのに……」

 「ううん、嬉しいよ……嬉しいにきまってる……でもね、私はまだ幸せになれないの……だから、ごめん……ね?」

 ウィンダの目から少し涙が溢れていた。

 「私は……妹を幸せにするまで、幸せにならないって決めてるの……ホントにごめんなさい」

 「そうか……俺こそごめん……でもまた会えるよな?」

 ウィンダはうんと頷いた。

 「……ごめんなさい、おじさん出してください」

 ウィンダがそう言うと馬車が走り出す。

 「また、会おね……クリス君」

 ウィンダは涙目のまま笑顔でクリス達に手を振った、それにクリスも手を振り返した。


 「……すまん、セーム……俺達も行こうか……」

 「ク、クリスさん……」

 「気にするな……自業自得だよ」

 そう言いクリスとセームはリングルムを後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る