第十話『希少職゙モンスターマスター゙』

 「……はぁ……はぁ……くそ、何なんだこの量は……倒しても倒してもキリがねぇ……」

 俺はなぜこんな状況に置かれているのか全く分からなかった、ただ一つ分かるのは目の前にファングの軍勢に囲まれているという事だけ。

 「大丈夫か、2人とも!」

 左に居るウィンダと右に居る幼い少女に問いかけるが、2人とも戦いに集中していて聞こえてはいなかった。

 それでも、戦いながら仲間の状態を聞くのはパーティなら当たり前の事。


 なぜこんな状況になったのか、それは30分程前の話


「クッソ疲れた〜」

 ウィンダがクスクスと笑う。

「だってクリス君……後半ほとんど1人でやってたもん、でもよく2人だけで倒せたね」

「まぁ俺は1人でやった事あったしね」


 などと談笑しながらモンスターとなるべく遭遇しないように帰路を歩いていた。


 広場から20分程歩いた頃、十字路に差し掛かった時、ウィンダが少し焦りながら言う。

「ク、クリス君……左の道からものすごい数のモンスターの群れがこっちに近づいてきてる……」

 2人は一瞬顔を見合わせた後即座に道端の木々に身を潜めた。

 その直後たくさんの足音が横切る、かなりの数だ、ざっと30体程居るその群れはクリス達に気付かず真っ直ぐ走り抜けていく。

 やり過ごした2人はその群れが向かった方向を見た時、いつぞやに見た光を再び見つけた。

「あそこに来る途中すれ違った光るモンスターでも居るのか? まぁ確かにあのファングは光を嫌うから標的にしてもおかしくはないが」

 そう、さっきの群れはこの森に住み着いているダークネスファングの群れだった。


 ダークネスファング略してDFは群れで行動するモンスターで単独で敵と遭遇した場合でもスグに仲間を呼ぶ習性がある。


 さらに相手がどれだけ強いかを見極める事も出来るため数で勝とうと呼び合うことも多い、今回の場合もそうである、あの光っているモンスターがどれほど強いモンスターか分からないが相当な数を呼んだに違いない。


「いやぁ〜! こっちに来ないで〜!」

 と突如ファング達の向かった方から悲鳴が聞こえた。

 2人は顔を見合わせ「うん」と頷き、悲鳴の聞こえた方向へ走る、

「あの光を目印に走れば大丈夫だろう」

「でも、私の魔力ほとんど無いわよ」

 ウィンダの魔力は先ほどのサイクロプス戦でかなり消耗しており、スナイパーで射っても後は1発しか射てない。

 だが、クリスはそんな事を気にすること無く走り続ける。


「なっ! なんだこの数は」

 向かった先は森の行き止まり、そして着いたクリス達の目の前にはDFの群れ、ざっと40体は居るであろうその群れは1人の少女と光るモンスターを囲んでいた。


 さっきの悲鳴はたぶんあの娘だろう、だがこの量だ俺はまだ戦えるがウィンダが……はっ!


 クリスはウィンダにどう戦わせようか考え、ある事を思い出す。


「ウィンダ! お前はこれを使え!」

 と言い、クリスは両手を拡げある武器を具現化させる。

 それは大鎌、クリスがたまたま手に入れた武器で使ってはいない。

 ウィンダは困惑しつつもクリスから受け取り、

「ク、クリス君……私、鎌なんて使ったことない」

「いいから、それを使え! その鎌は"魔吸の大鎌ワルキューレ"攻撃した敵の魔力を吸い取れる武器だ、それで魔力を回復させろ」


 ウィンダはクリスの言葉を聞き少し戸惑ったが、理解は出来ていた。


 これで敵を攻撃すれば魔力が回復する、そうすればスナイパーでまた射てるかもしれない。

「分かったわ、これで戦う!」


 それを聞きクリスは頷き太刀を出す。

 2人は群れへと突っ込んだ。


 1体、2体、3体とこちらに気付いて向かってくるファングを倒しながら少女の元へ向かう。

 ウィンダも不器用ながらも攻撃を当てているため魔力が少しずつ回復していく。


 クリスがファングの群れを抜け少女の元に辿り着く。

「君、大丈夫か!」

「あっ」

 少女はこちらに気付き涙目になってクリスに走ってくる。

「もう大丈夫だ、俺に任せろ」

 クリスは懐に飛び込んできた少女の頭を撫でながら言う。


「ク、クリス君……はぁ……はぁ……」

 ようやくこちらに来たウィンダは息を切らしていた、無理もないスナイパーライフルより大鎌の方が重い、しかもそれを振り回しているのだから当然だ。


 クリスは少女を離した時ある事に気が付いた。

「もしかして、君は"モンスターマスター"?」

 モンスターマスターとはモンスターを使役して戦う職種でこの世界ではかなり希少な職種になった、なぜならモンスターマスターになれるのはごく一部の人間だけだからだ。


 少女は涙目のまま頷いた。


 クリスは少女の後ろからこちらをじっと見ていた光るモンスターと目が合った、そのモンスターをよく見ると虎の様なモンスターだった。

 しばらく見ていたクリスは首の所にある首輪らしきものに目に止まった、”モンスターリング”だ。

 モンスターリングはペットに着ける首輪の代わりである。


 クリスは少女の頭をもう1度軽く撫でた後、群れの方に向き直し武器を構える。

「2人とも、まだ戦えるか?」

『うん!』

「よし……全部じゃなくていい、数を減らして逃げれるようにするぞ」

 ウィンダと少女は頷き、群れの方を見る。

 と少女が自分の使役しているモンスターに近づき、そのモンスターの背中を撫でながら、

「お兄さん達が助けに来たからね、あんまり無理しないようにね」

 クリスとウィンダはついニコッとした。


「……ふぅ、行くぞ」

 クリスが群れへと突っ込んだと同時に、

「シャイン! 突っ込んで!」

「はぁー!!」

 と勢いよく突っ込んだ。


 それから約10分後


 「……はぁ……はぁ……くそ、何なんだこの量は……倒しても倒してもキリがねぇ……大丈夫か、2人とも!」

 左に居るウィンダと右に居る幼い少女に問いかけるが、2人とも戦いに集中していて聞こえてはいなかった。

 それでも、戦いながら仲間の状態を聞くのはパーティなら当たり前の事。


 クリスは状況を打破出来てない中何か手はないかと考える。

「……仕方ない、無理やりこじ開けるかー」

 クリスは何か思い付いた様子で太刀をしまい、大剣を取り出す。


「2人とも、俺が正面のモンスターを倒して退路を作るからそこから抜けてくれ」

 ウィンダは鎌をしまい走り抜ける準備を、少女はモンスターの背中に乗った。


 クリスは大剣に魔力を溜め始める。

 サイクロプス戦の時より少し多めに溜め、出来るだけ多くのモンスターを倒せるように。

 魔力を十分溜めたクリスは、

「……そこを……どけぇ!」

 体を1周させ大剣を勢いよく薙ぎ払う。

 大剣に溜められた魔力はサイクロプス戦で見たヤツよりもさらに横長なモノが飛んでいき、正面のモンスターの群れを倒していく。

 それに合わせてウィンダが走り始める、続けて少女を乗せた使役モンスターが走る、その後ろをクリスが走り抜ける。


「そのまま! そのまま真っ直ぐ走れば森から出られるはずだ!」

 クリスは走りながら前を走る2人に言う、だがクリスの後ろからは先ほどのファングの群れが追ってくる。

 

 くそっ森から出ない限りは追ってくるな。


 さっきまで大型モンスターと戦っていた2人は息を切らし始めていた。

 

 走る事5分、3人の目の前に外の光が見え始める。

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