第九話『解除と乱舞』

 クリスの持っている銃は右手にビームライフル、左手に実弾ライフルと異なる銃を使っている。

 実弾兵器は専門ショップで弾薬を買う事が出来るが、ビーム兵器は自分の魔力を消費して射つ、その為ビーム兵器の方が無限に弾があるようにも思えるが実際は実弾よりビームの方が危険が多い、この世界では魔力が無くなるという事は最悪の場合死に至るからだ。

 なので、ビーム兵器を使う際に1番気をつけなければいけないのが自分の残り魔力だ、魔力が無くなると"魔力枯渇症"に陥り名高い魔法使いか専門の病院で診てもらわないと治しようがない。

 俺はそんなに魔力を持ってないためビームライフル2丁も持ったら射ちすぎで枯渇症になってもおかしくない、それを回避するために片方を実弾ライフルにしている。


「ウィンダはしばらく奴の攻撃を避けるだけでいい……魔力が勿体ない」


 ウィンダは軽く頷き一旦スナイパーライフルをしまう。


「で、どうするのクリス君?」

 そんな事を聞いてきたウィンダに返事する間もなく敵がこちらに向かってくる。


 俺は敵の注意を引きつつウィンダに先ほどの返事をする。

「とりあえずリミッターを溜める、ウィンダは敵の注意を引いてくれ! と言っても今こっち向いてるんだがな」


 そう言うとクリスの方にウィンダが走ってくる、それに合わせてクリスはサイクロプスの足元の隙間から反対側に出る。

 サイクロプスは見失ったクリスをキョロキョロと探す、すると視界にウィンダが入り込みそれを足で踏みつけようと足を上げる。


 クリスはその瞬間を見逃さずサイクロプスの右肩に向かって実弾ライフルを構え、一呼吸置いてトリガーを引く。


 バァンッ!


 実弾ライフルならではの大きな音とともに射ち出された弾はサイクロプスの右肩に擦れる程度で直撃はしなかった、


「くそ、やっぱり左手じゃ命中率下がるか!」


 クリスは右利きの為左手では早々命中しない、だからといって右手で持つと左手で持ったビームライフルのトリガーが重くて引けない。

 

そんなクリスの手元を見ていたウィンダがクリスに向かって言う、


「クリス君! 私にそのビームライフル貸して!」


 ウィンダの持っているスナイパーライフルに比べ、クリスの持っているビームライフルは消費魔力が極端に少ない、その為ウィンダが使えばスナイパーライフルで残り20発の魔力でもクリスが使うより遥かに射てる弾数が違う。


 クリスがその言葉を聞き、トリガーから指を離しウィンダに向かって思いっきり投げた。

 敵の頭上を通ってきたそれをウィンダは抱え込むようにキャッチする。


「ウィンダ! 左回りでヤツの周りを走りながら射て!」


 とクリスが作戦を思い付きウィンダに指示を出す。


 ウィンダは「うん」と頷き、視線を敵に向けながら走り始める、それに合わせてクリスも走り始めた。

 何故なら、敵の周りを2人で走り回る事で敵の注意を一人に絞らせず惑わせこちらの攻撃のすきを作るためだ。


 サイクロプスは自分の周りを走る二人を追いかけるようにきょろきょろしている。


 クリスはサイクロプスの周りを何周かした所で右手に持ち替えた銃を敵に向け1発射つ。

 走りながら射つのはあまり良くはないが特に狙っていなければ、これ程大きい敵ならば真ん中辺りを狙っていれば大体は当たる。


 ウィンダは敵の周りを走りながらトリガーを半分だけ引き、エネルギーを溜めていた。

 ビームライフル等のビーム兵器は完全に引かなければ射つ事はない、そしてトリガー等を半分前後で止めておく事で溜めることが出来る、溜めている間は魔力を消費しないためタイミングを図っている間は基本的にした方が良いとされている。


 一方、クリスの銃は7装填式のため射ち終えたらリロードする必要がある、さらに走りながらだと入れ替えも困難なためクリスがリロードしている間はウィンダが射つ。

 クリスとウィンダは今日初めて組んだのに息がぴったりと合い、敵を惑わせながら交互に射っていく。


 すると、ダメージをくらい過ぎたのかサイクロプスが片膝を崩す。

 クリスがその瞬間、敵の体力ゲージを確認する、体力は満タンから半分近くまで削れていた。


 実弾の方がダメージが通りやすいが、ウィンダが毎回溜めてから射つため、ウィンダの方が与えるダメージが多い、そのためクリスより削る事が出来る。

 クリスはその下のゲージも見る、そのゲージはあと少しで溜まりそうな所まで来ていた。


 クリスは銃に残っていたラスト1発を打ち込んだ後、銃をしまい、大剣を手に直接具現化させウィンダに、

「もう2発チャージショットを射ってくれ! そうすればリミッターが溜まる!」


 ウィンダはそれを聞き、2発打ち込んだ瞬間、リミッターゲージが満タンになり光り出すと同時に敵が動けなくなる。


 リミッターゲージは光りながら少しずつ減っていく、このゲージがなくなる前に持ち上げなければリミッター解除成功とは言えない。


 クリスは最初に動けなくなったサイクロプスの右足を薙ぎ払い転倒させる。

 リミッター解除の間はどんなに重たいモンスターでも簡単に転ばせる事が出来る。


 その後、クリスはサイクロプスの腰あたりで身体の上半身を捻り、大剣を縦に構え、


 スキル発動! 『ブレイドインパクト』


 クリスは捻った身体を戻しながら大剣でU字を描くように薙ぎサイクロプスの腰に直撃させる。


 するとサイクロプスの身体が持ち上がり20メートル程上に飛んだ、その後クリスはすぐに大剣を逆手持ちに替えそれを上空に持ち上がったサイクロプスに向かって投げた。

 戦闘を始める前の投擲同様、雷を纏わせた大剣がサイクロプスに突き刺さる。

「ウィンダ、スナイパーで何発射てる?」

 ウィンダはクリスの唐突の質問に戸惑いながら答える、

「後……2発射てるよ?」

「……なら、1発だけ射つ準備をしておいてくれ!」

 そう言うとクリスは太刀を具現化させ、サイクロプスに向かって飛び上がり、空中コンボを仕掛ける。


 まだクリスはコンボが多いスキルを習得していないため通常攻撃を挟みつつ、今習得してるスキルでコンボ数の多い技を使っていくしかない。


「はぁー!」

──剣舞ニノ型『華の舞』──


 敵を高速で切り抜けるだけの簡単な16連撃の剣舞、かなり初歩の技である。


 この世界は斬り方が決まっているゲームとは違う、自分で自由にパターンを変えられる、なので同じ剣舞でも人によって違う。

 クリスの場合、自分の特化武器特性が突き属性なので切り抜けるというより突き抜ける感じだ。

 そんな連撃をしているクリスをウィンダが見とれていた。


 すごい、クリス君ってあそこまで戦えるんだ、今まで組んだ人達はほとんどが大人数で少なくとも4人は居た、それを彼は……クリス君は私と2人だけで。


 ウィンダはそんな彼を見ながら、ふと敵の体力ゲージを見ると、

「……え、うそ……でしょ」

 体力ゲージを見るとすでに6分の1を切っていた。


「ウィンダ! 次の入れ終わったら合図するからコイツの頭を射ち抜いてくれ!」

 クリスから指示がくる、ウィンダはそれに頷き、しゃがみ銃口を向けてその時を待つ。


「……ラスト!」

 クリスが肩で息をしながら言った、相当動いているためかなり疲れてきているようだ。


 最後ウィンダの方に向かって突き抜けてきた、クリスは着地と同時に体を回転させ太刀もサイクロプスに向けて投擲する。

「……はぁ……はぁ………ウィンダ、今だ……」


 ずっと銃口を敵に向けていたウィンダは合図を聞き、一瞬息を止め、敵の額に向けトリガーを引いた。


 ウィンダの射ったビームは額に命中し、上空に浮いたままの敵が徐々に砂に変化し落ちてくる中、


 カロンッガンッ!


 とクリスが敵に刺した大剣と太刀が抜け落ちてきた。


 クリスはその場で仰向けに倒れ、

「お疲れ様ー」

 と言う、ウィンダもそれに対し、「お疲れ」と返す。


 息を整え、立ち上がったクリスは武器を回収し、砂と化したサイクロプスを漁り出す。


「おっ、レアドロップ!」

 クリスが喜んだ声で言ったので、ウィンダも気になり覗く。

「……クリス君それは?」

 ウィンダは初めて見るそれを尋ねると、

「これは巨人の結晶って言って、商人とかに売ると……このサイズだと、大体10万ぐらいで買い取ってくれるはずだ、ちなみに武器強化の素材としてもかなり重視されている一品だ」


 クリスはそれ手の上に乗せ武器をしまうのと同じ要領で体内に取り込む。


「その結晶はどうするつもりなの?」

 ウィンダは迷わずクリスに尋ねた、クリスは嬉しそうに、

「こいつで自分の武器でも強化しようかなと思ってる」

「あれ? でもクリス君って鍛冶スキル持ってなかったよね?」


 武器の強化や制作は専門店に行くか、鍛冶スキルを持っていないとできない。


「それはLv40になってから覚えるさ、さて、街に戻るか」

 そう言って2人はこの戦った広場を後にした。

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