第八話『赤い巨人とリミッター』

 クリスの投擲により敵の体力を削った状態から戦闘が出来る、と言っても削ったのは満タンの状態から20分の1程度。

 クリス達の居た入り口からサイクロプスまでは20メートル程ある。

 「ウィンダ、ここからどこでもいいから撃ち抜いて」

 ウィンダは即座にライフルを構え、1番ダメージの通る頭を狙いトリガーを引く。

 動けないサイクロプスに狙撃は絶好の的である。

 体力を少し削ったと同時にサイクロプスの体力ゲージのすぐ下にあるゲージが微量上昇した。

 「やっぱりリミッターを解除させた方が早いかな」

 「リミッター?」

 ウィンダが初めて聞く単語に首を傾げる。


 リミッターは全てのモンスターに設定されており、敵の体力に反比例して上昇する。

 近距離攻撃より遠距離攻撃の方が上昇値が高い。

 このゲージを満タンにすると一定時間敵が麻痺状態になる。

 大型モンスターは”切り上げ”や”打ち上げ”等のふっ飛び属性攻撃で持ち上がり、空中コンボが出来るようになる。

 コンボは敵が地上に落ちるまでの間ずっと出来る。


 クリスはウィンダが狙撃している間に敵へと走り、大剣に魔力を込めた。

 ウィンダはこの間に7発もの狙撃を成功させている。

 ビーム系の銃はお金の掛かる実弾に変わって自分の魔力を消費するためLvの低い間はたくさん射てない。


 すると敵に刺さっていたクリスの投げた太刀が抜け落ちる。


 ガアァァ!


 ようやく動けるようになったサイクロプスの雄叫び、だがクリスはそんな雄叫びを気にせず魔力の込めた大剣を敵の足目掛けて薙ぐ。


 大剣の刃から飛んでいくブーメランの様な形をしたそれは敵の右足に直撃、サイクロプスの体制が若干崩れる。

 「ウィンダ! ヤツの左足に付いてる枷を壊してくれ!」

 「え?」


 ウィンダはサイクロプスの左足に足枷が付いてる事に気付く。

 「ねぇ! その足枷壊さない方がいいんじゃない?」

 ウィンダのそんな回答にクリスが大きく首を振り言い返す。

 「ヤツの足に付いてる枷はタダのブラフだ! あんなのヤツの武器になるだけだ!」

 クリスはソロで旅をしている時にこれと似た様なクエストを1度熟ていたため壊すように命じたのだが、この状況でそんな事を説明している余裕がなかった。


 「頼むウィンダ! 俺を……俺を信じてくれ!」

 ウィンダは困惑しながらもクリスの真剣な表情で言ったその言葉を聞きそちらに銃を構えタイミングを図る。


 その間クリスは敵をこちらに引き付けつつ攻撃タイミングを伺う。


 くそ、ウィンダの最初の狙撃のおかげで少しは体力削れているのに俺が全然近づけてない。


 敵の攻撃を避けながらどうするか考えたクリスは手に持っていた大剣を納刀し、あるもの目掛けて一直線に走る。

 それはクリスが1番初めに投げ、そして抜け落ちた太刀だった。

 クリスは太刀を拾った後背中の大剣の柄を持ちそれを消失させた。


 この世界では武器など大きいものは手に触れ魔力として体内に取り込む事で持ち運びを楽にしており、武器を何十個と持ち合わせてモンスターによって持ち替える事が出来る。


 クリスは右側に太刀を構え再びサイクロプスに向かって走り出す。

 サイクロプスは左足を少し後ろに構え勢いよく前に出す、すると左足に付いてる足枷が引っ張られクリス目掛けて飛んでくる。

 クリスは避ける間もなく真っ正面から受ける体制を取った瞬間、クリスの横を通り過ぎる1本の赤い光、その光の先端には先程飛んできていた足枷の先に付いている鉄球だった。

 そう、ウィンダが狙撃をしてくれたのだ

 クリスに届く2メートルの所で打ち抜かれた鉄球部分は破裂する。

 クリスはその爆風に耐えるも、破裂した鉄球の破片が至る所に刺さる。

 「大丈夫? クリス君!」

 「あぁ、この程度問題ない……それよりナイス狙撃、助かったよ」

 ウィンダは大きく首を振る。

 クリスは立て直すために少し下がった。

 だが、立て直す暇を与えないかのようにサイクロプスがこちらに向かってくる。


 「ウィンダ、俺がヤツの気を引くから背中側に回って1発射って」


 ウィンダは頷く、クリスはそれと同時にサイクロプスの左側を抜けるように走り出す。

 サイクロプスはそのクリスに釣られて左側に体を向け始める、そのタイミングに合わせてウィンダがサイクロプスの右側を走り抜け、背中側に来た瞬間足を止めスライディングするようにしゃがみながら滑り射撃体制に入る。

 サイクロプスはクリスに向かって腕を振り上げ攻撃体制に入っていた。

 だが、ウィンダは当初後頭部を狙っていたが、しゃがみに加えサイクロプスがクリスを見下ろしているため後頭部が見えない。


 このままじゃクリス君が……


 ウィンダがどこを狙うか考えているその時、サイクロプスが構えていた腕がクリスに向かって振り下ろさせる。


 ズドン!


 「クリス君!」

 焦りながらもクリスを呼んだウィンダは衝撃で舞い上がった砂埃の中を見つめる。

 すると、ウィンダの目には信じられない光景が入り込んでくる。

 それはクリスがサイクロプスの振り下ろした腕を太刀1本で耐えていたからだ。

 「い……今だ、ウィンダ!」

 その言葉で我に返ったウィンダは上に向けていた銃口を下に下げ、敵の右足に向け、息を止めてトリガーを引く。


 バシュッ


 ウィンダの射ったビームはサイクロプスの右かかとに直撃、そしてクリスを抑えていた腕が緩みその隙にクリスが脱出する。

 脱出したクリスはウィンダの所まで戻り、

 「後、何発射てる?」

 「…………20発ぐらいかな」

 その返答にクリスは少し迷いながらも言った。

 「そろそろリミッターを解除させないと詰みそうだな……」

 そう言ってクリスは太刀を消失させ、その後二丁の銃を具現化させた。

 「さぁ、第2戦と行こうか!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る