第七話『ホントのスキルの使い方』

 「そう言えばウィンダ、範囲に入ってた残り4体は?」

 索敵の効果範囲に引っかかったのは5体なのに、口笛を吹いても1体しかこちらに向かって来なかったので、俺はいつ来るかとハラハラしながら戦っていたが、結局来なかったのでずっと疑問になっていた。

 「さっきクリス君が吹いた口笛で逃げちゃったよ」

 ウィンダがくすくす笑いながら言う。

 「あぁ……まぁ俺達より弱いモンスターだと吹いても来ないからな」

 ……ウィンダってやっぱ笑うと可愛いよなぁ……しかもあの柔らかい手! もう一回握りたい。

 俺はそんな事を考えながら進む……ここがモンスターの居る森の中だという事を若干忘れながら。


 「あ、待ってクリス君!……ここから少し進んだ所にかなりの数のモンスターが集まってるわ」

 突然ウィンダが立ち止まり、クリスの袖を引っ張りながら言う。

 「…………数は」

 「今の私じゃ数え切れない……けど10体以上は居ると思う」

 クリスはアゴに手を当てて考える。

 「その数だと集団行動してる”ダークネスファング”達だろうな……仕方ない少し遠回りになるが迂回しようか」

 「分かったわ」

 彼らは来た道を少し引き返し迂回する道を目指す。

 

 道を曲がったその直後、突然奥の方から強い光が差し込んできた。


 おかしい、この森は日光なんて入ってくる訳がないし、しかもあの光は道のド真ん中を歩いてるように見える。


 クリスとウィンダの目にはその光がだんだん大きくなっている様にも見えた。

 「……ウィンダ!」

 クリスがある事に気付く。

 「すぐそこの木々に身を隠すんだ! 早く!」

 ウィンダは突然の発言に驚きながらも身を隠す。

 ゆっくり……ゆっくりとこちらに近づいてくる光、

 「やっぱりか……」

 とクリスがボソッと言う。

 「クリス君……やっぱりって?」

 クリスは一旦深呼吸をし、

 「…………アレは、この森の……主だ」

 「主?」

 主とは海や湖、洞窟や遺跡などのダンジョンに必ず居ると言われている、超級モンスターだ。

 主は1体しか生息しておらず、他のダンジョン等でも同種は存在しない。

 その主はクリス達の隠れた場所で止まり、地面の匂いを嗅ぎ始めた。


 バレるんじゃないか?……


 クリスがそんなことを考えたいるとその”主”がまた歩き出し、クリス達から遠ざかって行く。

 かなり距離が離れたところでクリス達が道に出てくる。

 「主……か、初めて見たわ」

 「俺も生で見たのはこれが初めてだ」

 クリスとウィンダの暗闇に慣れた目は主を見た事により明るみに慣れてしまい当たりがまた暗く感じる。

 「あの主、この暗い森に対して真逆過ぎないか」

 「そうね、おかけでまた目が……」

 2人は主が歩いていった方をしばらく見た後、サイクロプスの居る深林層を目指し歩き出す。


 しばらく道なりに進んでいると。

 「……おかしいな、これだけ歩いているのに全くモンスターに出くわさない」

 ここはモンスターがたくさん生息している森の中、なのに全くモンスターと会っていない事にクリスは疑問に思う。

 クリスはウィンダに手を差し出し、

 「ちょっと捜索範囲を広げるから手貸して」

 ウィンダは戸惑いながらも手を繋ぐ。


 どうやって捜索範囲を広げるかと言うと、クリスの所持している自作スキル”連携”を使う事で可能になる。

 このスキルは自分もしくは味方のスキルと一緒に使う事で能力を発揮する、発動する効果はスキルよって異なる、今回の場合は範囲の拡張と範囲に入ってたモンスターの特定が可能になる。

 「ウィンダの索敵の射程距離は?」

 「約300メートル」

 クリスがスキルを発動するために右手を肩の高さまで上げる。

 「700メートルぐらいでいいかな」

 そう言うと、2人の脳裏に範囲に入ったモンスターの数、種類などが鮮明に流れ込んできた。

 

 うーんと、もう少し進んで右に入ると”ヤツ”が居て、さっきウィンダが言ってた所に……18体程のDFの群れ……それにこっちに近付いきてるモンスターが1体、しかも飛んでるな……まぁコイツは無視しても問題ないだろう。

 「ねぇクリス君……ギリギリ範囲に入ってる群れがあるけど、アレは何……20体近く居るけど……」

 ウィンダがそんな事を言うのでクリスもそっちに意識を集中させる。

 「なんだ、この数は…………帰りに寄ってみるか」

 「さっき逃げた4体もそこに居るみたいね……」

 「逃げた訳じゃなくてそっちに行ったのか、なるほど」

 見たいものを見た2人は手を離す。

 ウィンダは少し照れている様子、クリスも照れくさいのか頬をかく。

 「……とりあえず、ヤツの所に向かうか」

 先ほどの索敵で場所が分かったクリスとウィンダは急いで向かった。



 そして、サイクロプスが寝床にしている広い場所の目の前で止まる2人、目の前の光景に2人は呆然としている。

 なぜなら……目的のモンスターサイクロプスがぐっすり眠っているからだ。

 大型モンスターは起きてる間と寝ている間で警戒範囲が変わる。そのため2人は不用意に近付くことが出来ずにいた。

 クリスは少し考えた後言い出す。

 「起こすか……”アレ”を使って」

 そう言うとクリスは大剣を納め、手にあるものを具現化させた、それは”太刀”だった。

 「クリス君……それで何をするの?」

 「ん?何って……コレをヤツに投げるんだよっ」

 ウィンダが驚いた表情をしてるにも構わず、クリスは太刀を逆手持ちし後方へバックステップで距離を取る。

 ゆっくりと、走り出す為に構えると同時に右手に持っている太刀の刀身に雷のような電流が走る。


 これはクリスの持つスキル”属性付属”の能力、スキルLvが上がると同時に付けられる属性が増やせる。

 「そして、これが! 俺の”投擲”の力だぁ!」

 叫ぶと同時に走り出す、ウィンダの横を通り過ぎる直前でジャンプし、手に持っている太刀を標的に全力で投げる。


 雷を纏った太刀は一瞬で敵の元に届き胸元に刺さる、その痛覚にサイクロプスが目を覚ますが身体が痺れて身動きが取れない。

 「麻痺属性に雷属性をプラスしないと大型には効かないからな」

 そう言うとクリスはウィンダの方を少し見た後、

 「行くぞウィンダ!」

 「ええ!」

 彼らは武器を構え直し、敵の警戒範囲に突入した。

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