第六話『ウィンダの狙撃』

 リングルムの近くにあるこの森は、正式名称”リングルム深林”と言うが、街の人は皆”闇夜の森”と呼ぶ。理由は単純、どれだけ空が明るくても、森の中には一切光が入ってこないからだ。


 そのため、この森ではランプなどの照明器具があると良いのだが、光を嫌う”ダークネスファング”の生息地でもある為、使用を控える者が多い。


 俺達もその内の一人であるので、暗闇に慣れるまで入口から少し進んだ所で立ち止まっていた。

「くそ、さすがは闇夜の森、暗すぎてなんにも見えねぇ……」

 暗いのが怖いのか、ウィンダは急に俺の手を握りしめた。

「ク……クリス君」

 今にも泣き出しそうな声で俺の名前を呼ぶ。

 俺は握られている手をそっと握り返し、

「大丈夫、俺が付いてる」

 と、一言だけ言っておいた。

 自分で言っておきながら自分が赤面する結果になったが、ウィンダは気にした様子もなく震えた声でこう言った。

「あ、ありがとう……た、頼りにしてるよ」

 相当怖いらしい。

 


 ようやく目が暗闇に慣れたので、握ったまま手を離さないウィンダの方を振り向いた。

 すると、ウィンダが少し涙目になって、体を微かに震わせているのに気が付いた。俺は持っていた武器を納め、ウィンダの頭を撫でる。

「ひゃっ!」

「すまん、驚かせたな」

 突然のことに暫し体を硬直させていたウィンダだったが、握っていた手を離し、頭を撫でる俺の手と重ねて、

「ありがとう、クリス君…」

 と、多少震えの残った声で言った。

 きちんと落ち着きを取り戻すのを待ったのちに、俺達は森の奥へと足を踏み入れた。



「待ってクリス君、モンスターの気配がする……しかも、1体だけじゃない」

 少し進んだ所で、突然ウィンダが足を止めた。

「……数は5体、まだこちらに気付いてないみたい」

 こうしてウィンダがモンスターの数や状態を把握できるのは、彼女の所持しているスキル”索敵”の効果があるからだ。


 このスキルは、街、フィールドでは任意、モンスターの巣穴などの敵がいる可能性の高い場所では自動発動するものである。

「5体か……ウィンダは後方から狙撃してくれ、但しうつ伏せにはなるな」

 ウィンダは頷き、後方にバックステップで下がる。

 俺はウィンダが下がったのを確認すると大剣を構え、口笛を吹いた。

 すると、左前方からダッダッダとこちらへ向かう大きな足音がした。

 その音の正体は……”デュラハン”、首から上がない、アンデット系のモンスターである。

 デュラハンは個体によって装備している物が全く違う。

 理由は簡単、冒険者が捨てていった物や敗北し剥がされた物を身に付けているからだ。


 突然、デュラハンは持っていた剣を振り上げ、クリスに突進してきた。

 俺は振り下ろされる剣を、自らの大剣の腹で受け止めると同時に、ウィンダに指示を飛ばす。

「ウィンダ!ヤツの動きを止めている間に狙撃してくれ!」

「ん!」

 ウィンダは短く返事をし、銃を構え息を止めた。

 そして俺は力任せにデュラハンの剣を弾き返した。当然の如く、よろめくデュラハンにできた大きな隙をウィンダが見逃すはずもなく、見事に弱点である胸の上部を撃ち抜いた。


 弱点を撃ち抜かれ、膝をついたとはいえ、アンデッドであるデュラハンがまだ倒れるはずがない。

 なので俺は大剣を振り上げ、立ち上がろうとするデュラハンに向け、振り下ろした。

 デュラハンの身に付けていた丈夫そうな鎧ですら、クリスの腕力と大剣の重みが乗った一撃に耐える事はできず、原型を残す事なく、粉砕した。

 デュラハンの剣が地面に落ちるカランという音と共に、潰れたアンデッドの肉体と粉砕された鎧は砂となって風に乗りどこかへ消え去った。

 この現象は、モンスターが倒れた際に起きるものだ。

 俺は立ち上がろうとするウィンダの方を向き親指を立てながら、

「ナイス狙撃」

 と言うと、

「ありがとう」

 と返ってきた。


「お、落し物発見!」

 モンスターからの落し物は砂になった後、その中を漁ると光ってるものが出てくる、それが落し物である。

「これは……」

『魔水晶の欠片』

 魔水晶の欠片はモンスターからしか入手する事が出来ないが、これを五つ集め錬金すると”魔水晶”になり、売ると2万リルぐらい儲ける。

「それはそうと、ウィンダ……お前の狙撃凄いな」

 突然褒められて一瞬戸惑うウィンダ。

「当たり前でしょ!、私のステータス見た時に称号見たでしょ」

 そう言えばと俺は手を叩く。


「もう少し奥に進めば会うだろう、レッドサイクロプスに」

「そうだね」


 俺とウィンダは武器を構え直し、周りの警戒をしながら、目的のサイクロプスの居る奥へと入っていった。

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