第8章 16 レイフとの別れ

 あれからどれくらい時が経過しただろうか。

レイフは土砂降りの雨の中マントを羽織ると外に出て、暫くすると籠を手にぶら下げて戻ってきた。そしてびしょ濡れのマントをを脱いで壁のフックに掛けると毛布を被り、わらの上に座っている私の傍へとやってきた。


「アイリス、お腹もすいて・・喉も乾いているんじゃないのか?これを食べるといい。全部手で皮をむいて食べられる果実ばかりだから。」


レイフは私の目の前にしゃがむとバスケットを見せて蓋を開けた。その中には色とりどりの果実がどっさり入っていた。


「レイフ・・・こんなにたくさんの果実・・一体どうしたの?」


私はレイフを見た。


「ああ・・実はここは果樹園の中なんだ。そしてこの小屋はすでに使われなくなった・・かつてここの果樹園の管理人の家だったらしい。この王宮にやってきた時・・偶然この場所を発見したんだ。まさかこんなところで役立つとは思わなかったがな。」


「ありがとう、レイフ・・・。」


私は果実を1個手に取ると皮をむいて口に入れた。甘酸っぱい味と水分が口の中を潤してくれる。


「どうだ?美味いか?」


レイフが尋ねてきた。


「うん、ありがとう。とても美味しいわ・・・。」


「そうか、それは良かった・・・。」


「レイフは食べないの?」


「ん?ああ・・そうだな。俺も食べるか。」


レイフは私の隣に座るとバスケットから緑色の果実を取り出すと皮をむいて口に放り込んだ。


「うん。うまい・・・。」


そしてフッと笑う。私たちは無言で果実を食べ続け・・気づけば雨の音がやんでいた。


「うん?雨が・・・やんだのか?」


レイフは立ち上がると小屋の窓から外を覗き込みながら言った。


「アイリス、やったぞ。どうやら雨が上がったらしい。すぐに行動した方がいい、行けるか?」


レイフが右手を差し出してきた。


「え、ええ・・大丈夫。出れるわ。」


私は左手でレイフの右手に捕まると立ち上がった。


「よし、すぐに行こう。」





 レイフに手を引かれ、複雑に入り組んだ果樹園の中を私とレイフは歩き続けていた。道は雨水でぬかるんで歩きにくかったが、いつ追手が来るか分からないので足を止めるわけにはいかない。


「アイリス、もう少しの辛抱だ。頑張れ。」


レイフが振り向いて声を掛けてくる。


「え、ええ。」


やがて、果樹園を通りに受けた先に城壁が見えた。


「よし、果樹園を抜けたぞ。」


レイフの嬉しそうな声が聞こえてくるが・・・一体どうやってこの壁を超えると言うのだろう。壁は見上げるほどに高かった。


「ねえ・・レイフ。一体ここからどうやって塀を超えると言うの?」


するとレイフは初めて私を振り返った。


「大丈夫だ、安心しろ。」


レイフは言うと、壁に手をついて壁伝いにあるき始めた。そして・・・。


「あった!ここだ!」


レイフの嬉しそうな声が聞こえた。


「何があったの?」


しかしレイフはそれに答えず、突然しゃがむと足元の植え込みをガサガサと探り始めた。


「レイフ・・・?」


すると植え込みの中から人が1人抜けられそうな穴が塀に開いているのが見つかった。


「アイリス、ここから外へ出るんだ。」


「ええ・・。レイフも来るんでしょう?」


「・・・ああ。」


少しの間の後、レイフは返事をした。


「ほら、俺が植え込みを押さえているから・・今なら通り抜け出来る。」


レイフは両足で茂みを地面に押さえつけている。


「え、ええ・・。」


私はしゃがむと四つん這いになって壁の穴を抜けて、城壁の外へと出ると振り返った。


「レイフ、貴方も早く来て。」


「・・・駄目だ、いけない。」


壁の向こうで声が聞こえる。


「え?レイフ・・今、何て・・・?」


「いいか、アイリス。今お前の目には道が続いているだろう?その道をまっすぐ進めばすぐに『リーベルタース』の町へ着く。その道は行商人が多く行きかう安全な道だ。1人で行けるな?」


「レイフ・・・!駄目よ、ここに1人で残ったら・・!」


しかし、レイフは言った。


「・・次にオスカー王子が目の前に現れた時は・・俺たちは敵だ。」


「!」


「じゃあな、アイリス。」


そこでレイフの気配は消えてしまった―。







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