第56話【指南書】「導引の壁・前屈」
導引と言うのは呼吸を吐きながら体を伸ばすのだが、大切なのは関節の動きをなめらかにすることなんじゃ。
関節に古い血が貯まるとだんだん動きが悪くなってしまうから、関節を広げるイメージで体を伸ばすんじゃ。
特に大関節と言われる肩と股関節の動きをなめらかにすることが大切じゃ。
肩関節は『月の姿勢』を使い腕を上にあげるんじゃ。
股関節は前屈をするといいんじゃ。
前屈をして手の平が床に着く人は、もう三日月流導引の免許皆伝じゃ。
子供の頃に体を柔らかくする習慣のあった人は簡単に手の平を床に着けることができるが、普通は子供の頃に体を柔らかくする習慣はないと思う。わしは無かった。
大人になってから股関節を柔軟にしようと思っても、これはなかなか大変でな……
実は、この前屈が導引の壁なんじゃ。
股関節が柔軟ならば前屈で手の平は簡単に床に着くが、そうでなければ何年たっても手の平は床に着かない。
頑張って前屈をすると少しずつ柔らかくなるが、またやらなくなり硬くなってしまう。
この状態が続き、まるで壁の前を歩き回るがいつまでたっても壁を越えられないんじゃ。
「祖父、仁蔵は、このように申していました。わたしは小さい頃から導引をしていたので前屈をすると床に手の平が着くんですが、父は子供の頃、導引をしなかったので、前屈をしても指先がやっと床に着く程度です」
【三日月流導引 免許皆伝の型】
①床に足を伸ばして座わります。
②手を組み手の平を上にして肘を伸ばし、頭の上にあげます。
③手を戻し、体を前に倒して頭を足のすねに着けます。
簡単な動作ですが、出来ない人には難易度の高い技です。
この技が出来れば、
『三日月流導引 免許皆伝』と祖父は言っていました。
解説は、三日月冬子でした。
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