第42話「まなみ」・あだ名がゾンビ。
「
「うん、ありがとう!」
そば屋の『はまこう』の店主が冬子の昼ご飯を持って来てくれた。
黒猫のあずきちゃんが店主の足もとにすり寄っている。
「あずきちゃん、わかるのか? 今日はサバの余ったのを焼いてきたんだ」
店主があずきちゃんのエサ用の皿に焼いたサバを入れると、あずきちゃんは喜んで食べ始めた。
「あずきちゃんが、こんなに喜んで食べるってことは、よっぽど美味しいのね」
「脂の乗りが違うんだ。あずきちゃんはサバが好きだからね……おゃ、今日のお客さんはべっぴんさんだね、綺麗な肌で“玉の肌”か、俺も施術してみたいな〜」
施術している冬子をのぞき込み、うらやましそうに店主が帰っていった。
「その猫ちゃん、“あずきちゃん”って名前なんですか?」
「えぇ、そうです。すごい歳なんですよ。元気だけど……」
「私、高校生の時に、あずきちゃんって猫に会ったことあるんですよ。あの猫もサバが好きだったな……」
冬子の施術を受けている若い女性がつぶやいている。すると、あずきちゃんがその女性の所にやってきて顔を見ている。
「きれいになったにゃ」
「えっ、喋った?」
「すいません、この子、よく喋るんです……」
冬子が施術をしながら、あせっている。
「あずきちゃん、お客様だからいたずらしないでね」
「このこはいいにゃ」
うつ伏せで施術を受けている女性の背中に乗っかったあずきちゃん。
「すいません、すぐにどかせますから」
焦りながらあずきちゃんをどかせようとする冬子。
「このままでいいです。前にもこんなことがあったような気がするんです」
この女性。高校生の時のあだ名が、
『ゾンビ』だった。
直接本人には言わないが陰口でゾンビというあだ名が定着していた。
彼女は病気で顔の皮膚がただれていたのだ。
あ〜〜っ、またお腹が痛い。
授業が終わるまでもたないよ、嫌だな、また皆んなに笑われるのか……でも、しかたない……
「先生、すいません。トイレ行っていいですか?」
「
「すいません……」
病院に行って薬も飲んでいるが、いっこうに良くならない。
授業中にトイレに行くのも珍しくはない。
学校は男女共学で陰口を言う男子は多かった。
なんでこんな風になっちゃったんだろう?
遺伝かな? いや、お父さんもお母さんも下痢なんかしてないし……
誰かに呪いをかけられたかな?
黒川さんは黒魔術を使うって噂があるけど、まさかね……
手術で腸を取っちゃうか?
いやいや、それも嫌だな。
まだ、高校生なのに毎日下痢なんて悲しすぎるよ。
皮膚もただれて顔もひどいものだ。
これじゃ〜っ、ゾンビって言われてもしかたないね……
❃
夏休み。
相賀は山に行くバスに乗っていた。
空が青い。空気も綺麗だ。
この広い大地であたしは……
山奥の終点で降りた。
なんにも無いね。
コンビニも旅館も無い。
いよいよか、
引き返すなら今しかないね……
ここから山に向かったら、
あ〜〜っ、ダメだ心臓がドキドキして呼吸も苦しい。
足元に黒猫がいる。
こんなところに猫?
野生かな? 山猫?
首輪してるから飼い猫か……
黒猫は相賀の周りを回ってから、振り返りながら前を歩いている。
「あたしについて来いって言ってるの?」
「そうにゃ」
しゃべったよ。
相賀はなんとなく黒猫についていった。
黒猫は山の中に入っていった。
これは、帰り道もわからなくなるかな……
いいか、どうせ、あれだし。
黒猫について歩くと山小屋があった。
「山小屋だ! 人がいるのかな?」
黒猫は猫用の入口から山小屋に入って行った。
しばらくするとドアが開き、おじいさんが現れた。
「娘さん、入りなさい。あずきのお客さんだね」
つづく。
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