第40話「カキハラ氏」・目を洗う。
50代、女性、カキハラ氏。
じんぞう堂に来るのは初めてのお客様。
「こんにちは……すみませ〜ん」
ドアを少し開け、頭だけ入れて恐る恐る声をかけるカキハラ氏。
「はい、お客様ですか?」
なんだろうと不審そうに見る
「あっ、はい、客です。友達の紹介で来たんです」
「どうぞ、中へ……」
玄関のドアに頭だけ入れている女性を店内に招き入れる。
「どうも、すいません。私、整体って初めてなもんで緊張して……」
「うちの整体は痛くないので大丈夫ですよ」
「えぇ、友達から話しは聞いているので、だいたいは想像してるんですが……」
「今日は、どこか気になる所はありますか?」
「あ、はい、目なんですが……痒いんです」
「目ですか!? 痒い……花粉症ですか?」
「そうです! 花粉症なんです!!」
「あの……うちは整体なので、眼科に行かれた方がいいかと……」
「眼科は行ったんです。薬ももらったんですけど効かないんです。私、イラストレーターなんですが、目が痒いし鼻水もでるから仕事が進まなくて……」
女性は冬子に詰め寄るように話し、助けを求めるような目で見ている。
冬子は花粉症ではないので、花粉症の辛さはわからないし、特に治し方の研究もしていなかった。
「やはり、眼科にいかれては……?」
「私の友達も花粉症だったんです! 去年も花粉症辛いねって話していたのに、今年はなんとも無いって言うんです!」
「それは、良かったのでは……」
「それで、私、何でって聞いたんです。そうしたら、たぶん『じんぞう堂』って店で整体を受けて免疫について教えてもらったからだと思うって、言うんですよ」
「免疫ですか……うちでは、たまに講習会を開いているので、免疫の講習に来ていた人かもしれませんね」
「これです、これ!」
女性はスマホを冬子に見せた。
スマホには中年の女性の写真が写っていた。
「あ〜〜っ、タマルさん!」
「そう、タマル! この人と私、症状が同じなので治し方を教えて欲しいんです!」
(タマルさんは知ってるけど、何を教えたっけ、花粉症の治し方ってどうやるんだろう?
どうしようかな? 目の行と免疫を上げる行でいいのかな?)
考え込む冬子。
「では、目の基本的な行と免疫の基本的な行をしてみましょうか?」
「はい、お願いします!」
期待で目がキラキラしている女性。
「それでは、まず目を洗いましょう。ホコリや花粉が目に入りますからね」
「目を洗う!?」
カキハラ氏は目玉に水道からつなげたホースで目玉を洗うイメージを浮かべた。
どうやら、この女性、言葉からイメージを浮かべるクセがあるようだ。
冬子はカキハラ氏を流しに連れて行き、洗面器を持ってきた。
「洗面器をざっと水で洗ってから、お湯を入れます」
電気ポットの前に洗面器を置き、コップ1杯分くらいのお湯を入れた。
「殺菌の意味もありますが、水が冷たいと目に良くないので室温ぐらいにします。冬場はお湯の量で調節します。洗面器の中で目を開けた時に気持ちいいと思う温度がいいです」
「洗面器で洗うんですね……」
「いろいろ、洗い方はあるらしいですが、洗面器が一般的です。ドラッグストアに行けば目を洗う物も売ってますよ」
「私、目を洗ったことは無いかな? 小学生の時はプールの授業で水道から直接洗ったような記憶がありますね」
「水道から直接、目を洗うのは、今はやってないと思います。やっぱり水圧が目には高すぎるでしょうね。特に蛇口に近づけると水圧が強いので水の一番上の所で洗うんだったかな?」
「私も、あれは水圧が強くて目に悪いんじゃないかと思いながらやってました……」
「今は、目に圧力をかけるのは良くないと言われてます。圧力で視神経を傷めるらしいですね。目の体操でも、昔は目を指で軽く押していたんですが、今は、それは教えていません。あたしは、たまにやってますけど……」
「目を押すのもダメですか……私の中学校の先生も目が疲れたら目玉を回して指で押せって言ってました」
「時代で変わっていきますね、目を洗うのでも、外国の話なんですが、水道水にアメーバがいて目の中に入った事例があるそうなんです。だから、コンタクトレンズなどを使って目に傷がある方は目を洗わない方がいいかもしれません……」
「日本の水道水は大丈夫じゃないですか?」
「たぶん、大丈夫だと思いますけど、目に見えないくらい小さな物ですからね……特にマンションなどで、水道水を上にあるタンクに貯めてから各部屋に送るタイプは注意が必要かもしれませんね」
「それじゃ〜 ペットボトルの水で洗えばいいんじゃないですか?」
「それは、そうですね。あたしもたまにペットボトルの水を買うんですが、子供のころは、お金を出して水を買うっていうのが信じられなかったんですよ」
「私もそうです。けど、最近は、けっこう買うんですよ。なんか体に良いような気がするので……」
「そうですね。あたしも買いますね……なんでなんでしょう? やはり体にいいのでしょうか?」
つづく。
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